5月X日、ゴールデンウィーク中に緊急内視鏡でアニサキス摘出|症状は即時改善!
実際に当院で対応したアニサキス症の症例(2025年5月X日)
ゴールデンウィーク中、都内は観光や外食で賑わうなか、当院では消化器内視鏡専門医による緊急内視鏡検査でアニサキス症に対応しました。本症例は、痛みが点滴では全く改善せず、内視鏡により虫体を摘出した直後から劇的に症状が改善したことが大きな特徴です。
【経過と症状】
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5月X−1日夜:カンパチ・ホタテ・ヒラメの刺身を摂取
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同日23時頃:心窩部痛が発症
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5月X日朝:痛み持続のため当院を受診
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点滴による治療を行うも無効
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胃アニサキス症を強く疑い、当日中に緊急内視鏡(EGD)を実施
【上部消化管内視鏡所見】
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食道:異常なし
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胃体上部:アニサキス虫体を確認。鉗子で摘出し、残存なしを確認
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十二指腸:異常なし
【使用画像】
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画像1:胃粘膜に螺旋状に刺入するアニサキス虫体
胃体上部にアニサキス虫体を確認し鉗子で摘除した。虫体の遺残がないことを確認して検査を終了した。
- 画像3:摘出直後の実際の虫体
【治療後の経過】
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虫体摘出直後より激しい心窩部痛が劇的に改善
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嘔気はやや残存するも、嘔吐・下痢などは認めず
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内視鏡画像を用いて説明し、患者様も納得・安心されたご様子
【アニサキス症とは?】
アニサキス症(anisakiasis)は、線虫であるアニサキス属(Anisakis simplexなど)の幼虫が魚介類に寄生し、それをヒトが生食で摂取することで感染します。
感染した幼虫は、主に胃や腸の粘膜に刺入し、強い腹痛・悪心・嘔吐・アレルギー反応を引き起こします。
1. Gastrointestinal manifestations and management of anisakiasis
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著者: Lubna Madi, Massud Ali, Philippe Legace-Wiens, Donald R Duerksen
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掲載誌: Canadian Journal of Gastroenterology and Hepatology, 2013;27(3):126-127.
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概要: 本症例報告では、生魚摂取後に急性の心窩部痛を訴えた患者に対し、内視鏡的にアニサキス虫体を摘出したところ、翌日には症状が完全に消失したことが記されています。
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全文リンク: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3732148/
2. Clinical factors associated with acute abdominal symptoms induced by gastric anisakiasis: a multicenter retrospective cohort study
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著者: Yutaka Okagawa, Tetsuya Sumiyoshi, Takayuki Imagawa, 他
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掲載誌: BMC Gastroenterology, 2023;23:243.
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概要: 日本国内の9施設で行われた264例の胃アニサキス症患者を対象とした後ろ向きコホート研究。内視鏡的摘出により、症状の即時改善が多数報告されています。
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全文リンク: https://bmcgastroenterol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12876-023-02880-7
【アニサキス症の原因となる魚種一覧と今回の症例考察】
以下は、アニサキス幼虫が寄生する可能性の高い魚介類と、感染リスクの高低をまとめた表です。
魚介類名(和名) | 学名/英名 | アニサキス感染リスク | 備考 |
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サバ(鯖) | Scomber japonicus | ★★★★★ 非常に高い | しめさば要注意 |
アジ(鯵) | Trachurus japonicus | ★★★★☆ 高い | 特に内臓周囲に多い |
イワシ(鰯) | Sardinops melanostictus | ★★★★☆ 高い | 幼虫が筋肉に移行しやすい |
サンマ(秋刀魚) | Cololabis saira | ★★★☆☆ やや高い | 焼きが不十分だとリスクあり |
カツオ(鰹) | Katsuwonus pelamis | ★★★☆☆ やや高い | 生節・たたきに注意 |
カンパチ(間八) | Seriola dumerili | ★★☆☆☆ 中程度 | 感染報告あり、今回の症例でも強く疑われる魚種 |
ヒラメ(鮃) | Paralichthys olivaceus | ★☆☆☆☆ 低いがゼロではない | まれに報告あり |
サケ(鮭・マス) | Oncorhynchus spp. | ★★★★★ 非常に高い(特に天然物) | 養殖物は安全性高い |
ホタルイカ | Watasenia scintillans | ★★★☆☆ 特殊だが報告あり | アニサキス類似種も含む |
★★今回の症例における原因魚種の推定★★
今回の患者様は「カンパチ・ホタテ・ヒラメの刺身」を召し上がっており、そのうち:
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ホタテは二枚貝のため、アニサキス感染源になることは非常にまれです。
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ヒラメもアニサキス感染の報告はありますがリスクは低く、かつ筋肉寄生率も少ないとされています。
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一方で、カンパチは過去の症例報告でもアニサキス虫体の検出例があり、特に鮮度の落ちた個体や内臓処理が遅れた場合に筋肉への移行が指摘されています。
以上の点から、本症例での原因魚種としてはカンパチが最も可能性が高いと考えられます。
【アニサキス予防のための温度管理と家庭での注意点】
❄ アニサキス殺滅条件(厚生労働省)
「−20℃以下で24時間以上の冷凍」
「70℃以上での加熱(60℃では1分以上)」
家庭用冷凍庫の温度特性
区分 | 設定温度 | 備考 |
一般家庭用冷凍庫 | −18℃前後 | Codex国際基準に準拠も中心までの凍結が難しい場合も |
急速冷凍機能付き | −20〜−25℃ | アニサキス殺滅により適した条件 |
業務用冷凍庫 | −25℃以下 | 食品業者や病院で使用、最も確実な殺滅が可能 |
厚切りの刺身や魚の柵などでは、中心部まで凍らないことがあるため、家庭では「薄切りにして冷凍」や「加熱調理」が重要です。
参考:食品安全委員会 https://www.fsc.go.jp/sonota/anisakis.html
このように、アニサキス症のリスクは誰にでも起こりうるものであり、特に生魚を摂取する日本人にとっては非常に現実的な感染症です。
当院では、緊急対応可能な消化器専門医・内視鏡専門医が在籍し、祝日や休日でも的確に対応しています。
迷わずご相談ください。