睡眠時無呼吸症候群(SAS)とCPAP(持続気道陽圧)療法について【2025年5月版】
- 2025年5月6日
- お知らせ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とCPAP(持続気道陽圧)療法について【2025年5月版】
公開日2025年5月6日
はじめに
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、睡眠中に呼吸が断続的に停止・低下することで、日中の強い眠気や集中力の低下を引き起こすだけでなく、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、さらには認知機能低下やうつ症状の悪化といった全身への影響が報告されています。OSA(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)はその90%以上を占め、特に40歳以降の肥満男性、高血圧患者、夜間頻尿や熟眠感の欠如を訴える方に多くみられます。
SASは単なる「いびき」や「眠気」の問題ではなく、放置することで生命予後や生活の質(QOL)を著しく損なう疾患です。特にSASは糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病を悪化させ、インスリン抵抗性の増強や交感神経の緊張、血管内皮障害などを通じて、心筋梗塞や心不全、脳卒中などの重大な心血管イベントの発症リスクを高めます。さらに、SASの重症度が高いほど死亡率が上昇することも複数の疫学研究で報告されており、早期発見と治療介入の重要性が強く求められています。にもかかわらず、その多くが未診断・未治療であることが社会的課題となっています。たとえば、2型糖尿病患者の約58%、高血圧症患者の30〜40%、肥満者では40〜70%にSASの合併がみられると報告されています(Aronsohn RS, et al. Obstructive sleep apnea and incident type 2 diabetes. Am J Respir Crit Care Med. 2010;181(5):507–513. doi:10.1164/rccm.200909-1423OC)。また、睡眠障害を有する患者では交感神経系の亢進、夜間の酸素飽和低下が慢性的に持続することで、インスリン抵抗性の増悪、血圧上昇、心筋負荷の増大が生じ、心血管疾患リスクを2〜3倍にまで高めることが示唆されています(Marin JM, et al. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea–hypopnoea with or without treatment with CPAP. Lancet. 2005;365(9464):1046–1053. doi:10.1016/S0140-6736(05)71141-7)。
Adjusted mean hemoglobin A1c (HbA1c) values for patients with no, mild, moderate and severe obstructive sleep apnea (OSA). Data were adjusted for age, sex, race, body mass index, number of diabetes medications, level of exercise, years of diabetes, and total sleep time on polysomnogram. Bars represent SEM; P < 0.0001 for linear trend.
疫学と国内の現状
日本においては、中等症以上のOSAの有病率は男性で14〜24%、女性で4〜9%とされており、50万人以上がCPAP治療を受けている一方、潜在的な治療対象者は数百万人規模と推定されます(※1)。
しかしながら、実際には多くの患者がSASという病態そのものを知らず、いびきや日中の眠気を「体質」や「加齢のせい」として見過ごしているのが現状です。日本ではSASの検査受診率や医療機関への相談率が極めて低く、症状があっても検査や診断を受けていないケースが大半を占めます。つまり、未診断・未治療のSAS患者が圧倒的多数を占めており、公衆衛生上の重大な課題といえます。
※1. Heinzer R, et al. The prevalence of sleep-disordered breathing in the general population. Lancet Respir Med. 2015;3(4):310-8. DOI: 10.1016/S2213-2600(15)00043-0
当院での診断から治療の流れ
- 問診・診察(Epworth眠気尺度、既往歴、生活習慣の確認)
- 簡易検査(PG)機器を自宅に配送、一晩装着
- 返却・解析後、診察で結果説明
- AHI 20〜39 → 精密検査(PSG)をご案内(自宅で実施)
- AHI 40以上(PG)または20以上(PSG) → CPAP導入
検査費用(保険診療適応)
- 簡易検査(PG)
点数:終夜睡眠ポリグラフィー(携帯用装置)720点 + 脳波検査判断料2(180点)
自己負担:3割 約2,700円、1割 約900円(※診察料別) - 精密検査(PSG)
点数:終夜睡眠ポリグラフィー(携帯用装置)3,570点 + 脳波検査判断料2(180点)
自己負担:3割 約11,250円、1割 約3,750円(※診察料別)
検査機器はすべてご自宅に宅配され、使用後は返送用ボックスに入れて返却いただくだけです。入院の必要はなく、プライバシーに配慮した形で実施可能です。
CPAP療法の概要と効果
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)は、陽圧により上気道を物理的に拡張・開存させる治療法です。
- 睡眠の質改善と熟眠感の向上
- 日中の過度な眠気(EDS)の解消
- 高血圧・不整脈・糖尿病などの合併症リスク低下
- 心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)による死亡率の低下
- 交通事故リスクの著明な低下(運転者・職業ドライバー)
※2. Marin JM, et al. Long-term cardiovascular outcomes in men with OSA treated with CPAP. Lancet. 2005. DOI: 10.1016/S0140-6736(05)71141-7
CPAP療法の費用(保険適応)
月額:約5,000円(3割負担)/約1,500円(1割負担) ※診察料別途、機器レンタル費・管理料含む
マスクの選定とカスタマイズ
患者様の顔の形状や呼吸パターン(鼻呼吸・口呼吸)に応じて、以下のマスクから選定します:
- ネーザルマスク
- フルフェイスマスク
- ピローマスク
鼻閉や乾燥が強い方には加湿器の併用、口呼吸のある方には口閉じテープやシリコン装具などをご提案します。
通院・フォロー体制
- 導入後は毎月1回の来院(原則)で使用状況・AHI・マスク適合性をチェック
- 使用が安定し問題がなければ、3か月後以降はオンライン診療への切替が可能
CPAP治療を継続することで、QOLの改善や職業的・社会的パフォーマンスの回復が期待できます。
お問い合わせ
五良会クリニック白金高輪
〒108-0074 東京都港区高輪1丁目3-1 プレミストタワー白金高輪 1F
TEL:03-6432-5353
Web:https://goryokai-shirokanetakanawa.jp/