【医師監修】高山病の症状・予防・治療を旅行医学会認定医が解説|富士山・海外トレッキング前の予防外来【白金高輪】
富士登山、ネパール・ヒマラヤトレッキング、ペルー(マチュピチュ・クスコ)、チベット、スイスアルプスなど、標高の高い場所への旅行・登山を計画されている方へ。高山病(急性高山病:AMS)は標高2,500m以上で誰にでも起こりうる体の反応であり、事前の医学的準備なしに高地を訪れるのは非常にリスクが高いといえます。
当院には日本旅行医学会認定医(五藤良将理事長)と日本渡航医学会認定医(安達弘人医師)が在籍しており、出発前の高山病予防外来・渡航医学相談を行っています。本記事では、高山病の病態から予防薬・緊急対応まで、旅行前に知っておきたい情報を徹底的に解説します。
目次
高山病とは?その病態と症状
標高が上がると大気圧が低下し、空気1リットルあたりに含まれる酸素分子の数が減少します(低圧性低酸素)。体はこれに対して呼吸数を増やしたり、赤血球産生を促したりして適応しようとしますが、この適応が追いつかない場合に急性高山病(AMS:Acute Mountain Sickness)を発症します。
一般的に標高2,500m以上で発症リスクが高まり、登高速度が速いほど・個人差があるものの・前日の過労やアルコール摂取があるほど発症しやすくなります。富士山(山頂3,776m)は国内でもっとも高山病リスクが高い山であり、弾丸登山(短時間で一気に登頂)では特に注意が必要です。
急性高山病(AMS)の主な症状
| 症状 | 詳細・特徴 |
|---|---|
| 頭痛 | AMSの必発症状。前頭部から後頭部にかけての拍動性頭痛が多い |
| 吐き気・嘔吐 | 食欲不振を伴うことが多く、水分・栄養摂取が困難になる |
| 倦怠感・疲労感 | 脱力感・全身のだるさ。通常の疲労と区別しにくいことも |
| めまい・ふらつき | 起立時のふらつき、平衡感覚の低下 |
| 不眠・睡眠障害 | 夜間の周期性呼吸(チェーン・ストークス呼吸様)による中途覚醒、入眠困難 |
AMSは通常、高地到着後6〜12時間以内に症状が出始め、多くは24〜48時間以内に自然軽快しますが、一部は重症化します。重要なのは「頭痛があるまま無理して登り続けない」ことです。
高山病の診断基準(Lake Louise スコア)
急性高山病の重症度評価には、国際山岳医学会(ISMM)が採用しているLake Louise スコア(LLS)が世界標準として使われています(2018年改訂版)。
Lake Louise スコア(2018年改訂版)
| 項目 | スコア |
|---|---|
| 頭痛なし | 0 |
| 軽度の頭痛 | 1 |
| 中等度の頭痛 | 2 |
| 重度の頭痛(身動き不能) | 3 |
| 消化器症状(食欲不振・吐き気・嘔吐):なし0 / 中等度1 / 重度2 | 0〜2 |
| 倦怠感・全身の脱力感:なし0 / 軽度1 / 中等度2 / 重度3 | 0〜3 |
| めまい・ふらつき:なし0 / 軽度1 / 中等度2 / 重度3 | 0〜3 |
判定:頭痛があり(1点以上)、合計3点以上 → AMSと診断。6点以上は重症。
※頭痛がない場合は、他の症状がいくら高くてもAMSとは診断しない(LLS 2018改訂の重要な変更点)。
重症化に要注意!HACE・HAPEとは
AMSが進行・重症化した場合、命にかかわる2つの状態に移行することがあります。いずれも直ちに下山・緊急搬送が必要な緊急事態です。
緊急事態:以下の症状があれば即座に下山してください
HACE(高地脳浮腫:High Altitude Cerebral Edema)
- 歩行時のよろめき(タンデム歩行障害)、ふらつきが著明に悪化
- 意識の混濁・錯乱・奇妙な行動
- 激しい頭痛が解熱鎮痛薬で改善しない
- ひどい嘔吐・意識消失
HAPE(高地肺水腫:High Altitude Pulmonary Edema)
- 安静時でも強い息切れ・呼吸困難
- 空咳から泡沫状・血痰への変化
- チアノーゼ(口唇・指先の青紫色化)
- 胸の締め付け感、ゴロゴロという呼吸音
※HAPEは高地での致死的原因第1位。最も重要な治療は「酸素投与しながらの即時下山」です。
デキサメタゾン(ステロイド)の緊急投与が有効なことがあります(渡航前に医師と相談ください)。
高山病になりやすい人・なりにくい人
高山病の感受性は個人差が非常に大きく、体力や年齢とは必ずしも相関しません。過去に高山病になったことがある方は再度なりやすい傾向がありますが、「前回大丈夫だったから今回も安全」とはいえません。
高山病リスクを高める主な因子
| リスク因子 | 解説 |
|---|---|
| 速い登高速度 | 1日あたりの高度上昇が大きいほどリスク増。飛行機での一気の移動(東京→クスコ3,400mなど)は特に注意 |
| 到達高度が高い | 3,000m超から急増。5,000m超は専門医のアドバイスが必須 |
| 高山病の既往 | 最も強力なリスク予測因子のひとつ |
| 睡眠不足・過労 | 出発前・移動中の疲労蓄積はリスクを高める |
| アルコール摂取 | 換気抑制作用により低酸素を悪化させる。高地でのアルコールは厳禁 |
| 基礎疾患(心肺系) | 慢性肺疾患・心疾患・睡眠時無呼吸症候群などは事前の専門医相談が必要 |
| 脱水 | 高地では不感蒸泄(呼気・皮膚からの水分喪失)が増加。意識的な水分補給が重要 |
高山病が起きやすい旅行先・標高の目安
以下は日本人に人気の旅行先・登山先と標高の目安です。現地に到着した時点で高山病リスクがある場合、出発前の準備が特に重要です。
| 目的地 | 代表的な標高 | リスク | 備考 |
|---|---|---|---|
| 富士山(山頂) | 3,776m | 中〜高 | 弾丸登山は特に高リスク。5合目2,305m到着から頂上まで急登 |
| ネパール(カトマンズ) | 1,400m | 低 | 市内は低リスク。トレッキングで3,000m超への登高時に要注意 |
| エベレストBCトレッキング(EBC) | 5,364m | 非常に高 | 必ず段階的高度順化が必要。薬剤予防強く推奨 |
| ペルー・クスコ | 3,399m | 高 | リマ(154m)からのフライト移動で一気に高度上昇。初日から症状が出やすい |
| マチュピチュ遺跡 | 2,430m | 中程度 | 遺跡自体はやや低め。クスコ宿泊後に訪れると比較的順化しやすい |
| チベット・ラサ | 3,650m | 高 | 鉄道・飛行機どちらでも一定のリスク。到着後2〜3日の安静推奨 |
| スイス・ユングフラウヨッホ(展望台) | 3,454m | 中〜高 | 電車で急速に標高上昇。短時間滞在でも頭痛・吐き気を訴える観光客多い |
| アフリカ・キリマンジャロ山頂 | 5,895m | 非常に高 | 登頂を目指す場合は薬剤予防が標準。HACE/HAPE発症例あり |
高山病の予防:非薬物療法
薬剤予防と並んで、行動面での予防が非常に重要です。以下の原則を守ることで高山病リスクを大幅に軽減できます。
非薬物予防の基本原則
- ゆっくり登高(Climb high, sleep low):
1日あたりの睡眠高度の上昇は、2,500m超では500m以内を目安に。一段高い所を訪れても、より低い場所で就寝する「高所順化」の原則。 - 高所順化日(acclimatization day)を設ける:
3,000mを超えたら2〜3日に1日は同高度で休養し、体を慣らす日を設ける。 - 十分な水分補給:
1日2〜3L以上の水分摂取。尿が淡黄色以下になるよう意識的に補給する。 - アルコール・鎮静薬の禁止:
高地では換気抑制により低酸素状態を著しく悪化させる。登山中・宿泊前の飲酒は厳禁。 - 十分な睡眠と過度な運動の回避:
到着初日は激しい運動を避け、早めの就寝を心がける。 - 炭水化物中心の食事:
脂肪・タンパク質に比べ酸素消費量が少なく、高地での燃料として効率がよい。 - 症状が出たら下山を検討:
頭痛が続く、嘔吐する、歩行がふらつくなどのサインは、迷わず下山判断を。
予防薬アセタゾラミド(ダイアモックス)の使い方
アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)は、世界山岳医学会(UIAA)や米国感染症学会(IDSA)、Wilderness Medical Society(WMS)のガイドラインにおいて、急性高山病の予防薬として強く推奨されている薬剤です(Luks et al., 2019; Hackett & Roach, 2012)。
アセタゾラミドの作用機序
アセタゾラミドは腎臓の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)を阻害し、重炭酸イオン(HCO₃⁻)の尿中排泄を促進します。これにより血液が軽度の代謝性アシドーシス(酸性)に傾き、脳の呼吸中枢を直接刺激して換気量が増加します。結果として血中酸素分圧(PaO₂)が上昇し、高山病の予防効果を発揮します(Swenson & Teppema, 2007)。
加えて、高地での夜間に多い周期性呼吸(チェーン・ストークス様呼吸)を抑制し、睡眠の質を改善する効果も持ちます。
アセタゾラミドの標準的な使用法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 用量(予防) | 125mg 1日2回(Basnyat et al., 2003)〜250mg 1日2回。低用量125mg×2/日でも高用量と同等の効果があり副作用が少ないとされる |
| 開始タイミング | 高地到着の1〜2日前から内服開始 |
| 服用期間 | 高地に滞在している間、または症状がなく高度順化が完了したと判断されるまで(通常2〜3日) |
| 主な副作用 | 手足のしびれ・ピリピリ感(利尿薬作用によるK・Mg低下)、多尿、炭酸飲料が苦く感じる(炭酸脱水酵素阻害)、光線過敏(日焼けしやすくなる) |
| 禁忌・注意 | スルホンアミド系薬剤アレルギーのある方は使用不可(アナフィラキシーリスク)。腎不全・肝不全・電解質異常のある方は要注意。妊娠中は使用を避ける。 |
対症療法薬:頭痛・吐き気への対処
高山病に伴う頭痛・吐き気・嘔吐に対しては、以下の対症療法薬が有用です。当院では予防セットに含めて処方しています。
カロナール(アセトアミノフェン)
解熱鎮痛薬であり、高山病に伴う頭痛に対して広く使われます。NSAIDs(イブプロフェン等)と比べて胃腸障害・腎機能への影響が少なく、高地での脱水状態でも比較的安全に使用できます。なお、イブプロフェンもAMSの頭痛に有効であることが示されていますが(Gertsch et al., 2010)、腎機能への影響や胃腸症状を考慮して当院ではアセトアミノフェンを主に処方しています。
服用法:頭痛時に200〜400mg(当院処方:200mg錠を1〜2錠)、1日3回まで。
ナウゼリン(ドンペリドン)
ドパミン受容体拮抗薬であり、高山病に伴う吐き気・嘔吐・食欲不振を抑えます。消化管の蠕動運動を促進し、胃の内容物の停滞(高地では胃排出が遅延しやすい)を改善します。血液脳関門を通過しにくいため、中枢神経への影響が少ない制吐薬です。
服用法:吐き気時に10mgを1錠、1日3回まで。食前30分の服用が効果的。
当院の高山病予防外来・料金
当院には日本旅行医学会認定医の五藤良将理事長と日本渡航医学会認定医の安達弘人医師が在籍しており、渡航・登山前の高山病予防外来を自費診療で行っています。旅程に合わせた予防薬の処方はもちろん、旅行先の感染症・衛生状況・ワクチン接種の相談も承っています。
当院の高山病予防セット(自費・診察料込み)
| 処方内容 | 詳細 |
|---|---|
| アセタゾラミド錠 250mg(5日分) | 登山2日前から登山中3日目まで。1日2回服用 |
| カロナール(アセトアミノフェン)200mg×2錠(10回分) | 頭痛・発熱時の頓用。1日3回まで |
| ナウゼリン(ドンペリドン)10mg×1錠(10回分) | 吐き気・嘔吐時の頓用。1日3回まで |
セット価格:5,500円(税込・診察料込)
※英語証明書発行も可能(+1,000円)
※旅行先・旅程に応じて処方内容は変わる場合があります。
※スルホンアミド系薬剤アレルギーのある方、腎機能・肝機能に問題がある方は処方できない場合があります。
※処方は医師の診察の上、適応を確認してから行います。
※アセタゾラミドは日本では高山病予防の保険適用外のため、自費診療となります。
担当医のご紹介
五藤良将(理事長)
日本旅行医学会 認定医
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主な資格・認定
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所属学会(抜粋)
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防衛医科大学校卒業後、防衛医科大学校病院・自衛隊中央病院をはじめ、千葉中央メディカルセンター糖尿病センター・山王病院など数多くの医療機関に勤務。幅広い内科・小児科診療経験を持ち、渡航医学・旅行医学にも精通。
安達弘人医師
日本渡航医学会 認定医 / 血液内科専門医
渡航感染症・予防接種・トロピカルメディシン(熱帯医学)に精通。海外渡航前の感染症対策・ワクチン相談に対応。
高山病予防外来のほか、渡航前ワクチン相談(A型肝炎・腸チフス・狂犬病・マラリア予防薬など)、渡航後の感染症診断・治療にも対応しています。海外旅行・登山を計画されている方は、お気軽にご相談ください。
渡航前に持参すべきもの・チェックリスト
高山病リスクのある旅行・登山では、以下のアイテムを必ず準備しておくことをお勧めします。
| 必携 | アイテム | ポイント |
|---|---|---|
| 必 | 高山病予防薬セット(当院処方) | アセタゾラミド+頓用薬 |
| 必 | パルスオキシメーター | 血中酸素飽和度(SpO₂)をモニタリング。高地では85%以下で要注意 |
| 推 | 海外旅行保険(医療・緊急搬送付き) | 高地での緊急ヘリ搬送は数十万円〜数百万円に及ぶことがある |
| 推 | ガーミン等のSatPhone・衛星通信機器 | 圏外でも緊急連絡・GPSトラッキングが可能 |
| 推 | 電解質飲料・経口補水塩 | アセタゾラミドは利尿作用があるため電解質補充が重要 |
| 任 | 携帯型酸素缶 | 短時間の吸入で一時的な症状緩和に有効。下山の代替にはならない |
| 任 | 英語の処方証明書(当院発行可) | 海外の空港・税関でアセタゾラミドの携行を示す際に有用 |
参考文献
- Luks AM, Auerbach PS, Freer L, et al. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness: 2019 Update. Wilderness & Environmental Medicine. 2019;30(4S):S3-S18.
- Hackett PH, Roach RC. High-altitude illness. New England Journal of Medicine. 2001;345(2):107-114.
- Roach RC, Hackett PH, Oelz O, et al. The 2018 Lake Louise Acute Mountain Sickness Score. High Altitude Medicine & Biology. 2018;19(1):4-6.
- Basnyat B, Gertsch JH, Johnson EW, et al. Efficacy of low-dose acetazolamide (125 mg BID) for the prophylaxis of acute mountain sickness. High Altitude Medicine & Biology. 2003;4(1):45-52.
- Swenson ER, Teppema LJ. Prevention of acute mountain sickness by acetazolamide: as yet an unfinished story. Journal of Applied Physiology. 2007;102(4):1305-1307.
- Williamson J, Oakeshott P, Dallimore J. Altitude sickness and acetazolamide. BMJ. 2018;361:k2153.
- Gao D, Wang Y, Zhang R, Zhang Y. Efficacy of Acetazolamide for the Prophylaxis of Acute Mountain Sickness: A Systematic Review, Meta-Analysis and Trial Sequential Analysis of Randomized Clinical Trials. The American Journal of the Medical Sciences. 2021;361(5):635-645.
- Gertsch JH, Lipman GS, Holck PS, et al. Prospective, double-blind, randomized, placebo-controlled comparison of acetazolamide versus ibuprofen for prophylaxis against high altitude headache: the Headache Evaluation at Altitude Trial (HEAT). Wilderness & Environmental Medicine. 2010;21(3):236-243.
五良会クリニック白金高輪 理事長 五藤良将
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