インフルエンザ予防薬について(院内処方もしております)
インフルエンザは家庭内や職場で急速に感染が広がる可能性があり、受験生や免疫力が低下している方を守るために予防薬の活用が注目されています。
当院では、インフルエンザ予防薬を院内処方でお渡ししております。本記事では、各薬剤の予防効果を「何人に投与すれば1人の発症を防げるか」(NNT)という分かりやすい指標で比較し、ご自身に合った選択の参考にしていただければと思います。
ご利用前にお読みください
- インフルエンザ予防薬は健康保険適用外(自費診療)です
- 感染者との接触後48時間以内に服用を開始する必要があります
- 診察後、その場で院内処方いたします(薬局に行く必要はありません)
予防効果の見方 ― NNTとARRとは?
医学では、薬の効果を正確に伝えるためにさまざまな指標が使われます。本記事では、患者さんにとって最も分かりやすい2つの指標を中心にご説明します。
NNT(治療必要数)
「何人に投与すれば1人の発症を防げるか」を示す指標です。数字が小さいほど効率的です。例えば「NNT 7」なら、7人に投与することで1人の発症を予防できることを意味します。
ARR(絶対リスク減少)
「発症率が実際に何%下がるか」を示す指標です。例えば「ARR 13.6%」なら、100人中約14人分の発症を防げることを意味します。NNTはARRから計算されます(NNT = 1 ÷ ARR)。
費用一覧(税込・診察料込)
| 薬剤名 | 費用(税込) | 投与方法 |
|---|---|---|
| オセルタミビル(タミフル後発品・10錠) | 8,000円 | 1日1回×7〜10日間(経口) |
| ゾフルーザ(2錠) | 10,000円 | 1回のみ(経口) |
| イナビル(10歳以上:2キット/10歳未満:1キット) | 10,000円 | 1回のみ(吸入) |
インフルエンザ予防薬の効果比較
以下の表は、家庭内でインフルエンザ感染者と接触した方を対象とした臨床試験の結果に基づいています。
| 薬剤名 | ARR (絶対リスク減少) |
NNT (治療必要数) |
投与方法 | こんな方に |
|---|---|---|---|---|
| オセルタミビル (タミフル後発品) |
13.6% | 7 | 経口 (7〜10日間) |
費用を抑えたい方 確実な予防効果を重視する方 |
| ゾフルーザ | 11.7% | 9 | 経口 (1回のみ) |
飲み忘れが心配な方 1回で済ませたい方 |
| イナビル | 7.6% | 13 | 吸入 (1回のみ) |
錠剤が苦手な方 お子様 |
表の読み方
例えばオセルタミビル(NNT 7)の場合、家族がインフルエンザに感染した7人に予防投与を行えば、そのうち1人の発症を防ぐことができます。NNTが小さいほど、より少ない人数で効果が得られる=効率的な薬剤といえます。
各薬剤の詳細
オセルタミビル(タミフル後発品)
用法:体重37.5kg以上の方に対し、曝露後48時間以内に開始し、1日1カプセルを7〜10日間服用します。
| 特徴 | 注意点 |
|---|---|
| ・長年の臨床実績あり ・後発品で費用を抑えられる ・NNT 7で最も効率的 |
・7〜10日間の連日服用が必要 ・飲み忘れに注意 |
エビデンス:Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2004;351(23):2406-2416.
ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)
用法:曝露後48時間以内に1回のみ服用します。体重により用量が異なります。
| 対象 | 用量 |
|---|---|
| 12歳以上・体重80kg未満 | 20mg錠 × 2錠 |
| 12歳以上・体重80kg以上 | 20mg錠 × 4錠 |
| 12歳未満・体重20〜40kg未満 | 20mg錠 × 1錠 |
| 12歳未満・体重40kg以上 | 20mg錠 × 2錠 |
※体重20kg未満の小児は治療のみ対応(予防投与は適応外)
| 特徴 | 注意点 |
|---|---|
| ・1回の服用で完結 ・10日間効果が持続 ・服薬アドヒアランスが高い |
・他剤より費用がやや高め ・耐性ウイルス出現の報告あり |
エビデンス:Ikematsu H, et al. N Engl J Med. 2020;383(4):309-320.(BLOCKSTONE試験)
イナビル(ラニナミビル)
用法:吸入薬で、1回の吸入で完結します。水なしで使用可能です。
- 10歳以上:2キット吸入
- 10歳未満:1キット吸入
| 特徴 | 注意点 |
|---|---|
| ・1回の吸入で完結 ・水なしで使用可能 ・小児にも使いやすい |
・正しい吸入手技が必要 ・喘息の方は要相談 |
エビデンス:Ishiguro N, et al. Antiviral Therapy. 2010;15(3):429-438.
理事長コラム ― 「86%減少」と「11.7%減少」の違い
ゾフルーザの効果について、「発症リスク86%減少」という数字を目にされた方もいらっしゃるかもしれません。一方、本記事では「ARR 11.7%」と記載しています。同じ薬なのに、なぜ数字が違うのでしょうか?
実は、これは2種類の異なる指標なのです。
| 指標 | 意味 | ゾフルーザの値 |
|---|---|---|
| ARR(絶対リスク減少) | 発症率が実際に何%下がったか | 11.7% |
| RRR(相対リスク減少) | 元のリスクと比べて何%カットされたか | 86% |
【BLOCKSTONE試験の実際のデータ】
- プラセボ群(薬なし)の発症率:13.6%
- ゾフルーザ群の発症率:1.9%
ここから計算すると:
- ARR = 13.6% − 1.9% = 11.7%(実際に減った分)
- RRR = (13.6% − 1.9%) ÷ 13.6% = 86%(元と比べた割合)
「86%減少」と聞くと非常に効果的に感じますが、これは「元のリスクの86%がカットされた」という意味です。一方、ARRは「100人中約12人分の発症を防げる」という、より実感しやすい数字です。
ポイント:NNT(治療必要数)はARRから計算されます。患者さんへの説明には、ARRやNNTを用いる方が「実際にどれくらいの効果があるのか」が伝わりやすいと考え、本記事ではARRを中心に記載しています。
予防薬について知っておいていただきたいこと
予防投与の効果 ― 発症を防ぐ
本記事でご紹介した各薬剤の予防効果(NNT・ARR)は、いずれも質の高いランダム化比較試験に基づいています。家庭内でインフルエンザ感染者と接触した場合、予防薬の服用により発症リスクを下げられることは、一定のエビデンスによって支持されています。
治療投与の効果 ― 重症化予防は限定的
一方、すでにインフルエンザを発症した方への「治療」としての効果については、注意が必要です。
2014年のコクランレビュー(最も信頼性の高い医学的分析)によると、オセルタミビルの治療効果は「症状が約1日早く改善する」程度であり、入院予防や重症化予防の効果は証明されていません。米国FDAも、抗インフルエンザ薬の効能として「症状の予防と治療」のみを承認しており、「重症化予防」は認めていません。
このことは、「治療薬としては効果が限定的」ということを意味していますが、「予防薬として発症を防ぐ効果」とは別の話です。
理事長コラム ― なぜ「重症化予防」のエビデンスは弱いのか?
「インフルエンザ治療薬が重症化を防ぐ」という明確なエビデンスがないと聞くと、「本当に効くのか?」と疑問に思われるかもしれません。しかし、これには深い理由があります。
【倫理的な壁】
最も質の高いエビデンスを得るには、「薬を投与するグループ」と「薬を投与しないグループ(プラセボ群)」を比較するランダム化比較試験(RCT)が必要です。
しかし、重症のインフルエンザ患者さんを対象に「この方には薬を投与しない」という試験を行うことは、現代の医療倫理では許されません。目の前で苦しんでいる患者さんに、効果があるかもしれない薬をあえて使わないことは、医師として行うことができないのです。
【時代の変化】
20世紀半ばまでは、今日では考えられないような臨床試験が行われていた時代もありました。しかし、1947年のニュルンベルク綱領、1964年のヘルシンキ宣言などを経て、現代医学では被験者の安全と権利を最優先にすることが世界的な基準となっています。
つまり、「エビデンスがない」のは「効果がない」からではなく、「倫理的に証明する方法がない」という側面もあるのです。
【観察研究の限界】
そのため、重症化予防の研究は主に「観察研究」に頼らざるを得ません。観察研究では「薬を使った人と使わなかった人を後から比較する」のですが、もともと症状が軽い人が薬を使わなかったり、重症の人ほど積極的に治療を受けたりするため、バイアス(偏り)が生じやすいという問題があります。
医師として:現在のエビデンスに基づけば、「発症予防」には一定の効果が期待できます。「治療」としては症状を1日程度早く改善する効果がありますが、重症化予防については確実なことは言えません。それでも、高リスクの患者さんには、観察研究のデータや臨床経験を踏まえて治療薬の使用を検討します。
最も重要な予防法:ワクチン接種
予防薬はワクチンの代わりにはなりません
インフルエンザ予防の最も効果的な方法はワクチン接種です。予防薬は、ワクチンを接種していても感染者と濃厚接触した場合や、ワクチン接種が間に合わなかった場合の追加の予防手段として位置づけられます。
ワクチン接種
最も効果的な予防法
毎年の接種を推奨
こまめな手洗い
石鹸で20秒以上
外出後・食事前に
マスク着用
飛沫感染を防ぐ
人混みでは特に
換気
定期的な空気の入れ替え
1時間に5〜10分
予防薬が特に推奨される方
以下に該当する方で、インフルエンザ感染者と接触した場合は、予防薬の使用をご検討ください:
- 受験生やその同居家族の方
- 高齢者(65歳以上)やその介護者
- 基礎疾患をお持ちの方(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、免疫不全など)
- 妊娠中の方
- 医療従事者・介護従事者
副作用について
いずれの薬剤も、以下の副作用が報告されています:
- 消化器症状:吐き気、嘔吐、下痢(特にオセルタミビル)
- 頭痛
- まれに:重篤なアレルギー反応、精神神経症状
※副作用が気になる場合は、服用を中止し医師にご相談ください。
参考文献
【予防投与の効果】
- Hayden FG, et al. Prevention of influenza in households by oseltamivir. N Engl J Med. 2004;351(23):2406-2416.
- Ikematsu H, et al. Baloxavir marboxil for prophylaxis against influenza in household contacts. N Engl J Med. 2020;383(4):309-320.
- Ishiguro N, et al. Phase III randomized, double-blind study of laninamivir octanoate for postexposure prophylaxis of influenza. Antiviral Therapy. 2010;15(3):429-438.
【治療投与の効果・限界】
- Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in adults and children. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(4):CD008965.
- Hanula R, et al. Evaluation of Oseltamivir Used to Prevent Hospitalization in Outpatients With Influenza. JAMA Intern Med. 2024;184(1):18-27.
- Lee N, et al. Antivirals for treatment of severe influenza: a systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. Lancet. 2024;404:928-940.
※ご予約なしでも受診可能ですが、ご予約の方が優先となります
※インフルエンザ予防薬は院内処方でお渡しします(薬局に行く必要はありません)
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