糖尿病の方の夏の「シックデイ」対策|食中毒・夏バテ・熱中症で食べられないとき、薬はどうする?|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

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糖尿病の方の夏の「シックデイ」対策|食中毒・夏バテ・熱中症で食べられないとき、薬はどうする?|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

糖尿病の方の夏の「シックデイ」対策|食中毒・夏バテ・熱中症で食べられないとき、薬はどうする?

医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)

連日の猛暑が続く2026年の夏。糖尿病で治療中の方にとって、夏は「シックデイ」(体調不良の日)のリスクが1年で最も高まる季節です。食中毒や夏かぜによる嘔吐・下痢、熱中症、夏バテによる食欲不振——こうした「食べられない・飲めない」状態のときに、いつもどおりに糖尿病の薬を続けてよいのか、それとも休むべきなのか。この判断を誤ると、脱水や低血糖、さらにはケトアシドーシス・乳酸アシドーシスといった命に関わる急性合併症につながることがあります。
この記事では、糖尿病内科を専門とする筆者が、夏のシックデイの基本ルールと「薬別の対応」を、日本糖尿病学会の最新の推奨(SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation・2024年5月18日改訂)に基づいてわかりやすく解説します。お盆の帰省や旅行を控えたこの時期に、ご自身とご家族の「もしものときの備え」として、ぜひ最後までお読みください。

1. シックデイとは|「たかが体調不良」が命に関わる理由

シックデイ(sick day)とは、糖尿病で治療中の方が発熱・下痢・嘔吐などの体調不良に見舞われたり、食欲不振で食事が十分にとれなくなったりした日のことを指します。健康な方であれば「1〜2日寝ていれば治る」体調不良でも、糖尿病治療中の方では事情が異なります。
なぜなら、「食べられないから薬を全部やめる」も「いつもどおり全部続ける」も、どちらも危険だからです。薬の種類によって「必ず休むべき薬」と「自己判断でやめてはいけない薬」があり、対応を誤ると次のような急性合併症を招くことがあります。

シックデイ対応を誤ると起こりうる急性合併症

糖尿病ケトアシドーシス(DKA):インスリン作用の不足で血液が酸性に傾く。SGLT2阻害薬では血糖値があまり高くない「正常血糖ケトアシドーシス」もあり見逃されやすい
乳酸アシドーシス:脱水状態でのビグアナイド薬(メトホルミン)継続がリスクに
重症低血糖:食事がとれないのにSU薬やインスリンをいつもどおり使った場合
高浸透圧高血糖状態:高血糖と脱水の悪循環で意識障害に至ることも

日本糖尿病学会も、患者さん向けに「今一度シックデイ対策を」という注意喚起を公表し、事前の備えを呼びかけています。シックデイ対応は「知っているかどうか」で結果が大きく変わる、糖尿病治療の重要な知識です。

2. なぜ夏はシックデイが起こりやすいのか

シックデイというと「冬のインフルエンザや胃腸炎の話」と思われがちですが、実は夏こそシックデイの引き金が集中する季節です。

夏にシックデイを引き起こす4大要因

要因 糖尿病治療中の方にとってのリスク
細菌性食中毒・感染性胃腸炎 嘔吐・下痢による急速な脱水。食事も薬も「いつもどおり」が崩れる典型パターン
熱中症・かくれ脱水 高血糖自体に尿量を増やす作用(浸透圧利尿)があり、もともと脱水に傾きやすい体に猛暑が追い打ちをかける
夏バテによる食欲不振 「食べていないのに薬だけ続ける」ことで低血糖のリスクが上昇。逆に食事を清涼飲料水で代用すると高血糖に
夏かぜ・新型コロナ等の発熱性疾患 発熱はストレスホルモンを介して血糖値を押し上げ、同時に脱水も進行させる

ポイント

夏のシックデイは「脱水」が共通のキーワードです。血糖値が高い状態はそれ自体が脱水を進めるため、糖尿病治療中の方は健康な方よりも脱水の坂道を転がり落ちるスピードが速い、と考えてください。

3. シックデイのとき、体の中で何が起きているのか

「食べていないのだから血糖値は下がるはず」と思われる方が多いのですが、実際は逆のことがしばしば起こります。発熱や感染症などの強いストレスがかかると、体はコルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンを分泌します。これらはいずれも血糖値を上げる方向に働くため、食事をとっていなくても血糖値がむしろ上昇することがあるのです。
一方で、嘔吐・下痢・発汗により水分と電解質は失われ続けます。高血糖は尿量を増やしてさらに脱水を進め、脱水は血液を濃縮してさらに血糖値を上げる——この「高血糖と脱水の悪循環」がシックデイの本質です。悪循環が進むと、ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態といった、入院治療が必要な状態に至ることがあります。

⚠️ 注意

SGLT2阻害薬を服用中の方は、血糖値がそれほど高くないのにケトアシドーシスが進行する「正常血糖ケトアシドーシス」が起こりうることが知られています。「血糖値が普通だから大丈夫」とは限らない点に注意が必要です(日本糖尿病学会 SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation)。

4. 【最重要】薬別・シックデイの対応早見表

シックデイ対応の中心は「薬の種類ごとに対応が違う」ことを知っておくことです。以下は一般的な考え方の早見表です。実際の休薬・減量の判断は、必ず主治医とあらかじめ決めた指示、または当日の電話相談に従ってください。
薬の種類 シックデイの一般的な対応 理由
SGLT2阻害薬
(ジャディアンス、フォシーガ、カナグル など)
必ず休薬 脱水とケトアシドーシスを助長するため。学会Recommendationで明記
ビグアナイド薬
(メトホルミン:メトグルコ など)
休薬 脱水下では乳酸アシドーシスのリスクが高まるため
SU薬
(アマリール、グリミクロン など)
食事量に応じて減量または中止 食事がとれないままでは低血糖の危険が大きいため
グリニド薬・α-グルコシダーゼ阻害薬・イメグリミン 食事がとれないときは中止 食事を前提とした薬のため。消化器症状を悪化させうるものも
GLP-1受容体作動薬
(オゼンピック、リベルサス、マンジャロ※ など)
嘔気・嘔吐が強いときは中止して主治医に相談 消化器症状を悪化させ、食事・水分摂取をさらに妨げるため(※マンジャロはGIP/GLP-1受容体作動薬)
DPP-4阻害薬
(ジャヌビア、トラゼンタ など)
食事がとれないときは休薬を含め主治医に相談 単独では低血糖リスクは低いが、食事量に応じた調整が望ましい
インスリン 自己判断で中止しない。血糖測定を増やし主治医に相談 特に基礎(持効型)インスリンの自己中断はケトアシドーシスの引き金に。食事量に応じた追加インスリンの調整は事前指示に従う

最も多い誤解

「食べられないから」とインスリンまで全部やめてしまうのは、シックデイで最も危険な自己判断の一つです。逆に、SGLT2阻害薬とメトホルミンを「もったいないから」と続けるのも危険です。この2つの薬は、シックデイでは休むことが原則です。

5. シックデイルールの基本5か条

薬別の対応とあわせて、シックデイ当日の過ごし方の基本を押さえておきましょう。
その1 安静と保温
無理に仕事や外出をせず、体を休めます。エアコンは我慢せず使用してください。
その2 水分と電解質をこまめに
目安として1日1〜1.5L以上を少量ずつ。水やお茶だけでなく、経口補水液やみそ汁・スープなど塩分を含むものを組み合わせます。
その3 消化のよい炭水化物を確保
おかゆ、うどん、ゼリー飲料などで、可能な範囲で炭水化物(糖質)をとります。絶食は低血糖とケトン体産生を助長します。
その4 薬は「薬別ルール」に従って調整
SGLT2阻害薬・メトホルミンは休薬。インスリンは自己中断しない。迷ったら必ず医療機関へ電話を。
その5 血糖測定の回数を増やす
血糖自己測定(SMBG)やCGMをお持ちの方は、測定回数を普段より増やし、記録を残して受診時に伝えます。
📞 糖尿病で通院中の方へ:「自分の薬はシックデイのときどうすればよいか」を、元気なうちに主治医と決めておくことが最大の備えです。当院の糖尿病内科外来では、お薬手帳を確認しながらあなた専用のシックデイルールを一緒に作成します。お気軽にご相談ください(TEL 03-6432-5353)。

6. こんな症状はすぐ受診を|危険なサイン

シックデイの多くは自宅での対応で乗り切れますが、以下のサインがあるときは我慢せず、その日のうちに医療機関を受診(または救急要請)してください。

🚨 すぐに受診すべきサイン(目安)

☑ 嘔吐や下痢が半日以上続き、水分がほとんどとれない
24時間以上、食事がほとんどとれない
☑ 高熱(38.5度以上)が続く
☑ 血糖値350mg/dL前後の高値が続く、または尿ケトン・血中ケトン体が陽性
☑ 強い腹痛、深く大きい呼吸、フルーツのような口臭(ケトアシドーシスを疑うサイン)
☑ ぐったりして意識がもうろうとしている(ためらわず救急要請を)

「これくらいで受診してよいのだろうか」と迷う段階での電話相談は、まったく問題ありません。むしろ早めの相談が重症化を防ぐ最善の方法です。

7. 「何を飲むか」問題|スポーツドリンクの落とし穴

夏のシックデイで意外と難しいのが「何を飲むか」です。糖尿病治療中の方には、次の点を知っておいていただきたいと思います。
飲み物 シックデイでの位置づけ
経口補水液(OS-1 など) 嘔吐・下痢・発熱で脱水が疑われるときの第一選択。糖分は含むが電解質補給を優先する場面では有用
スポーツドリンク 500mLで糖質約20〜30gと意外に高糖質。大量に飲み続けると著しい高血糖を招くことがあり、量と血糖値に注意
水・麦茶 基本の水分。ただしこれ「だけ」では塩分が不足するため、塩分を含むものと組み合わせる
ジュース・加糖炭酸飲料 のどの渇きに任せて飲み続けると、高血糖がさらに渇きを呼ぶ悪循環(いわゆるペットボトル症候群)に。日常の水分補給には不向き

実践のコツ

まったく食事がとれないときは、経口補水液やゼリー飲料で「水分+電解質+最低限の糖質」を確保するのが現実的です。低血糖気味のときはブドウ糖や糖分を含む飲料を、高血糖が続くときは糖分の少ない水分を中心に——と、血糖測定とセットで飲み分けるのが理想です。

8. 元気なうちにやっておく3つの備え

シックデイ対応の成否は、体調を崩す前の準備でほぼ決まります。お盆の帰省や旅行を控えた今こそ、次の3つを確認しておきましょう。

備え1:主治医と「自分専用のシックデイルール」を決めておく

服用中の薬ごとに「休む薬・続ける薬・減らす薬」を主治医と確認し、メモやお薬手帳に書いておきます。診察の最後に「もし夏かぜや食中毒で食べられなくなったら、私の薬はどうすればいいですか」と一言聞くだけで構いません。

備え2:「シックデイセット」を用意しておく

✅ 自宅に常備しておきたいもの
・経口補水液(2〜3本)/ゼリー飲料/レトルトのおかゆ
・体温計、血糖測定器の消耗品(センサー・針)
・お薬手帳と、主治医と決めたシックデイルールのメモ
・かかりつけ医の電話番号(休診日の代替受診先もあわせて)

備え3:帰省・旅行時は薬を「手荷物に・多めに」

旅行中の体調不良は判断がさらに難しくなります。薬とお薬手帳は預け荷物ではなく手荷物に入れ、日数分より2〜3日分多く持参してください。インスリンは高温の車内に放置しない(変性の恐れ)ことも夏ならではの注意点です。

9. 理事長コメント

💬 理事長 五藤良将より
「糖尿病診療を専門とする立場から、夏の外来で毎年痛感するのは、シックデイの知識が『あるかないか』で経過が大きく変わるということです。特にSGLT2阻害薬やメトホルミンを服用中の方は、体調不良時の休薬ルールをぜひ今日、確認しておいてください。当院は火曜を除き土日祝も診療しており、急な体調不良の際も、血液検査・点滴を含めた対応が可能です。『これくらいで受診していいのかな』という段階でのご相談こそ歓迎します。どうか無理をせず、早めに頼ってください。」

10. まとめ

📝 この記事のポイント
✅ シックデイ=糖尿病治療中の体調不良の日。夏は食中毒・熱中症・夏バテなど引き金が集中する
✅ 食べていなくても血糖値は上がることがあり、「高血糖と脱水の悪循環」が本質
SGLT2阻害薬とメトホルミンは休薬が原則インスリンは自己判断で中止しない
✅ 水分・電解質・消化のよい炭水化物を確保し、血糖測定の回数を増やす
✅ 水分がとれない嘔吐下痢・24時間の食事不能・意識障害などのサインは迷わず受診
✅ 最大の備えは、元気なうちに主治医と「自分専用のシックデイルール」を決めておくこと
参考資料
・日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂・2024年5月18日最終改訂)
・日本糖尿病学会「糖尿病患者の皆様へ:今一度シックデイ対策を」
・日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation」
※本記事の薬剤対応は一般的な考え方を示したものであり、個々の休薬・減量は必ず主治医の指示に従ってください。
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