2026年夏の新型コロナ ― 「セミ型(BA.3.2)」「ニンバス株」の症状・検査・治療・ワクチンを内科医が解説
- 2026年9月10日
- 新型コロナ(COVID-19),発熱・感染症外来,お知らせ
2026年夏の新型コロナ ― 「セミ型(BA.3.2)」「ニンバス株」の症状・検査・治療・ワクチンを内科医が解説
医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
「またのどが痛い。ただの夏かぜだと思っていたら、コロナだった」――この夏、外来でそうしたお声を伺う機会が確実に増えました。厚生労働省が2026年9月4日に公表した第35週(8月24日〜30日)の集計では、全国の定点当たり報告数は1.47(全国報告数5,459人、前週から1,106人増)となっており、7月から続いた増加傾向が、8月に入ってからも高い水準で続いているのが実情です。
この夏話題になっているのが、「セミ型」と呼ばれるBA.3.2系統と、「ニンバス株」と呼ばれるNB.1.8.1系統という2つの変異株です。名前のインパクトから不安に感じる方も多いと思いますが、結論から申し上げると重症化率・死亡率がこれまでの変異株より高いというデータは、現時点では出ていません。一方で、「過去に感染した方・ワクチンを打った方でも再感染しやすい」という性質があり、そこは正しく知っておく価値があります。この記事では、五良会クリニック白金高輪の内科・感染症の診療現場の視点から、症状の見分け方、検査を受けるタイミング、治療、そして秋の定期接種までを整理してお伝えします。9月に入り、インフルエンザワクチンの接種も始まっています。コロナとインフルエンザの同時流行に備えるという視点でも、あわせてご確認ください。
1. 2026年夏、コロナは実際どれくらい増えているのか
まずは「体感」ではなく「数字」で現状を確認しましょう。新型コロナは2023年5月に5類感染症へ移行して以降、全国の定点医療機関からの報告をもとに、1医療機関あたりの平均患者数(定点当たり報告数)として毎週公表されています。
| 週 | 期間 | 定点当たり報告数 | 全国報告数 |
|---|---|---|---|
| 第26週 | 6月22日〜28日 | 1.08 | 約4,000人 |
| 第27週 | 6月29日〜7月5日 | 1.47 | 5,482人 |
| 第28週 | 7月6日〜12日 | 1.87 | 7,006人 |
| 第35週(最新) | 8月24日〜30日 | 1.47 | 5,459人(前週比+1,106人) |
数字の読み方のポイント
7月に7週連続で増加したあと、8月に入ってからも高水準の流行が続いています。定点当たり1〜2程度という水準は、過去の大流行期(10〜20を超えることもありました)と比べればはるかに低い数字ですが、前週から1,000人以上増える週が出てくるなど、油断できない状況が続いています。夏休み・お盆・秋の行楽シーズンといった人流増加のタイミングと重なりやすい点にも注意が必要です。
出典:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症 発生状況(2026年7月10日・7月17日・9月4日発表)
2. 「セミ型(BA.3.2)」とは何者か
セミ型という愛称で報じられている変異株の正式な系統名はBA.3.2です。オミクロン株の初期サブ系統である「BA.3」の直系の子孫にあたります。BA.3は2021年末〜2022年初頭に一度検出されたあと、ほとんど姿を消していました。その後、長期間どこかで静かに変異を蓄積し、2024年11月に南アフリカで数年ぶりに再び表舞台に現れ、2026年に入って日本を含む世界20か国以上で検出が確認されています。この「長く潜って、あるとき一斉に出てくる」性質がセミ(蝉)にたとえられたわけです。
変異の数がとにかく多い
BA.3.2の特徴は、なんといっても変異の多さです。初期の新型コロナウイルスと比較して全ゲノムで100か所以上、細胞への侵入の鍵となるスパイクタンパク質だけでも70か所以上の変異が報告されています。さらに、ORF8など一部の遺伝子が丸ごと欠損しているという構造上の特徴も指摘されています。
⚠ 「再感染しやすい」ことが最大の注意点
スパイクの変異が多いということは、過去の感染やワクチン接種で獲得した中和抗体が効きにくくなる(免疫逃避)ことを意味します。つまり「去年かかったから大丈夫」「ワクチンを打ったから大丈夫」とは言い切れません。一方で、抗体だけでなくT細胞を介した免疫は比較的保たれると考えられており、これが重症化を抑える方向に働いていると推定されています。
重症度については、WHOは「重症化しやすくなったことを示すデータはなく、入院者数・死亡者数が増加している傾向もみられない」と評価しています。ここは過度に不安にならなくてよい部分です。感染しやすさと、感染したときの重さは別の話であることを、ぜひ切り分けて捉えてください。
3. 「ニンバス株(NB.1.8.1)」と強烈なのどの痛み
もう一つ、2025年から引き続き国内で存在感を保っているのがニンバス株(NB.1.8.1)です。こちらはJN.1系統から派生した変異株で、2025年夏には国内の検出株の大部分を占めました。2026年もセミ型(BA.3.2)と並んで主流株の一角を占めています。
ニンバス株が広く知られるようになった理由は、そののどの痛みの強さです。「カミソリを飲み込んだような痛み」「ガラスの破片が刺さるような痛み」と表現され、報告によっては感染者の約7割が咽頭痛を訴えたとされます。実際の外来でも、「熱はそれほど高くないのに、つばを飲み込むのがつらい」という訴えで受診される方が目立ちます。
4. 夏かぜ・熱中症・コロナの見分け方
この時期にもっともご相談が多いのが「これはコロナなのか、夏かぜなのか、それとも熱中症なのか」という点です。結論を先に申し上げると、症状だけで確実に見分けることはできません。ただし、考え方の整理はできます。
| 項目 | 新型コロナ(セミ型・ニンバス株) | 夏かぜ(ヘルパンギーナ・アデノ等) | 熱中症 |
|---|---|---|---|
| のどの痛み | 強いことが多い | 強い(口内の水疱を伴うことも) | 基本的になし |
| 発熱 | あり(微熱〜高熱まで幅広い) | あり | 体温上昇(重症では発汗が止まる) |
| 鼻水・咳 | あり | あり | なし |
| 発症の状況 | 数日かけて徐々に | 数日かけて徐々に | 暑熱環境の最中・直後に急に |
| 周囲の流行 | 家族・職場に同様の症状あり | 園・学校で流行 | 関係なし |
すぐに受診・救急要請をご検討いただきたいサイン
息切れ・呼吸が速い/唇や顔色が悪い/ぐったりして呼びかけへの反応が鈍い/半日以上水分がとれない・尿が出ない/胸の痛みが続く/意識がもうろうとする。これらは新型コロナ・熱中症のいずれであっても受診をためらわないでいただきたい症状です。
5. 検査を受けるベストなタイミング
抗原検査は簡便で有用ですが、タイミングを外すと「本当は陽性なのに陰性と出る」ことがあります。ウイルス量が十分に増えていない発症直後は、その典型です。
| STEP 1 | 症状が出たら、まずは発症からの時間を数える のどの痛み・発熱など、最初の症状が出た時点が「発症日」です。 |
| STEP 2 | 抗原検査は「発症後おおむね12〜24時間以降」が目安 発症直後の検査で陰性でも、安心材料にはなりません。症状が続くようなら翌日に再検査を検討します。 |
| STEP 3 | 重症化リスクのある方は、結果を待たず早めに受診 抗ウイルス薬は発症早期でなければ効果が期待しにくいため、「様子見」が不利に働くことがあります。 |
| STEP 4 | 受診時はWEB問診の事前入力を 症状の経過・持病・内服中のお薬を事前にお知らせいただくと、院内滞在時間を短縮できます。 |
当院での対応について
五良会クリニック白金高輪では、発熱・咽頭痛の患者さまの診療を土曜・日曜・祝日も含めて行っています(火曜休診)。お仕事や学校の都合で平日に受診しづらい方も、週末にご相談いただけます。当日枠はWEBからの順番受付をご利用ください。
6. 治療 ― 抗ウイルス薬は誰に、いつ使うのか
新型コロナに対する治療は、大半の方では対症療法(解熱鎮痛薬・水分補給・安静)で十分です。そのうえで、重症化リスクを有する方には抗ウイルス薬の投与を検討します。
抗ウイルス薬を考える際の3つの原則
② 全員に必要なわけではないこと:健康な若年成人では、多くの場合、対症療法で回復します。
③ 飲み合わせの確認が必須であること:一部の薬剤は、脂質異常症治療薬・抗不整脈薬・免疫抑制剤・一部の睡眠薬などと重要な相互作用があります。お薬手帳を必ずご持参ください。
当院では、糖尿病や心血管疾患などの持病をお持ちの方について、普段の治療内容と併せて抗ウイルス薬の適応と安全性を判断しています。とくに糖尿病の方は、発熱時に血糖値が乱れる「シックデイ」への対応も同時に必要になります。この点は、糖尿病内科を併設している当院の強みを活かせる場面です。
⚠ 解熱鎮痛薬について
市販のアセトアミノフェンやイブプロフェンは、多くの場合安全に使えます。ただし腎機能が低下している方、胃潰瘍の既往がある方、脱水傾向のある方ではNSAIDsの使用に注意が必要です。自己判断で漫然と続けず、3日以上改善しない場合はご相談ください。
7. とくに注意していただきたい方(重症化リスク)
変異株の性質が変わっても、「誰が重症化しやすいか」という構図は大きく変わっていません。以下に当てはまる方は、症状が軽くても早めのご相談をおすすめします。
| カテゴリ | 具体例と、気をつけたい点 |
|---|---|
| 高齢の方 | 65歳以上。発熱と暑さが重なると脱水が進みやすく、腎機能悪化や意識障害につながることがあります。 |
| 糖尿病 | 感染で血糖が上昇しやすく、SGLT2阻害薬を服用中の方は脱水・ケトーシスに特段の注意が必要です。 |
| 心臓・腎臓・呼吸器の慢性疾患 | 心不全、慢性腎臓病、COPD、気管支喘息など。喘息の方は発作を誘発することがあります。 |
| 免疫が低下している方 | がん治療中、血液疾患、ステロイドや免疫抑制剤を使用中の方。ウイルスの排出期間が長引くことがあります。 |
| 妊娠中の方 | 使用できる薬剤に制限があるため、自己判断での市販薬使用は避け、必ずご相談ください。 |
| 乳幼児 | 咽頭痛で水分摂取が減り、脱水になりやすいのが最大の注意点です。小児科でも対応しています。 |
8. 2026/27シーズンのワクチンはどうなる
新型コロナワクチンは、2024年度から予防接種法上のB類疾病として、秋冬に年1回の定期接種という形に整理されています。多くの自治体では例年10月1日から翌年3月31日までが接種期間です。
定期接種の対象となる方
65歳以上の方、および60歳以上65歳未満で心臓・腎臓・呼吸器の機能に日常生活が極度に制限される程度の障害を有する方、ヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害を有する方が対象です。それ以外の方も、任意接種(自費)として接種いただけます。自己負担額や助成の有無は自治体によって異なりますので、お住まいの区市町村の案内をご確認ください。
2026/27シーズンの抗原組成
厚生労働省の予防接種課が示した2026/27シーズン向けの抗原組成の要件は、「1価のJN.1、KP.2もしくはLP.8.1に対する抗原、または2025年5月時点で流行しているJN.1系統変異株に対して広汎かつ頑健な中和抗体応答または有効性が示された抗原を含むこと」とされています。セミ型(BA.3.2)・ニンバス株(NB.1.8.1)もいずれもJN.1系統から派生した変異株であり、この枠組みの範囲内で評価されています。具体的な製品はメーカーごとに異なり、シーズン開始前に確定します。
ワクチンに何を期待するか、を正しく
セミ型のように免疫逃避性の高い株が広がる状況では、ワクチンで「感染そのものをゼロにする」ことは現実的な目標ではありません。一方、重症化・入院・死亡を減らす効果は引き続き重要です。とくに高齢の方や基礎疾患をお持ちの方にとって、秋の接種は変わらず意味のある選択肢です。
出典:厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課「2026/27シーズン向け 新型コロナワクチンの抗原組成について」/厚生労働省「65歳以上に実施している予防接種」
なお当院では、インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹など成人の各種ワクチンをまとめてご相談いただけます。9月よりインフルエンザワクチン(フルミスト・注射)の予約受付も始まっており、秋に向けて何をどの順番で接種すべきか迷われている方は、この機会に一度ご相談ください。渡航予定のある方については、日本旅行医学会認定医(五藤良将)と日本渡航医学会認定医(安達弘人医師)の2名が在籍しており、渡航先に応じたワクチン計画もあわせてご提案できます。
9. この夏、今日からできる現実的な対策
「もう何年も対策を続けてきて、正直つかれた」というお気持ちはよく分かります。ですから、効果が確かで、負担の少ないものに絞ってお伝えします。
② 手洗い:接触感染の経路を断つ、いまも有効な基本です。
③ 体調が悪い日は、人と会う予定を動かす:もっとも効果が高く、もっとも実行されにくい対策です。
④ 症状があるときの検査:早期に把握できれば、ご家族や職場への広がりを抑えられます。
加えて、この季節ならではの注意として「脱水を防ぐ」ことを挙げておきます。のどの痛みで飲水量が落ちたところに、残暑による発汗が重なると、あっという間に脱水が進みます。冷たい飲み物がしみる場合は、常温の経口補水液やゼリー飲料が現実的です。高齢のご家族がいらっしゃる方は、「今日どれくらい飲んだか」を一言確認するだけでも、大きなリスク低減になります。
10. よくあるご質問(FAQ)
11. 理事長コメント
私が外来で最も気にかけているのは、持病をお持ちの方が『たかが夏かぜ』と受診を先延ばしにしてしまうことです。糖尿病や心臓・腎臓の疾患をお持ちの方にとって、発熱と残暑が重なる数日は、ご本人が思っている以上に体への負担が大きい時期です。当院は火曜を除き土日祝も診療しており、内科・糖尿病内科・小児科が同じ場所で連携しています。9月からはインフルエンザワクチンの接種も始まりました。迷われたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。判断は私たちの仕事です。」
日本抗加齢医学会専門医/日本糖尿病協会登録医/日本旅行医学会認定医
12. まとめ
✅ 話題の「セミ型」は正式にはBA.3.2。スパイクに70か所以上の変異があり、再感染しやすいのが特徴
✅ 一方でWHOは、重症化率・死亡率が高まったデータはないと評価している
✅ 「ニンバス株」は強烈なのどの痛みが目立つが、痛みの強さと重症度は別問題
✅ 抗原検査は発症後12〜24時間以降が目安。発症直後の陰性は安心材料にならない
✅ 抗ウイルス薬は発症早期かつリスクのある方が対象。飲み合わせの確認が必須
✅ 高齢の方・糖尿病・心腎呼吸器疾患・免疫低下・妊娠中の方は、軽症でも早めのご相談を
✅ 2026/27シーズンのワクチンはJN.1系統に対応。重症化予防という目的を正しく理解して選択を
✅ 9月からはインフルエンザワクチンの接種も開始。コロナとインフルの同時流行に備えた準備を
✅ 今日からできる最重要対策は、換気・手洗い・体調不良時の予定変更、そして脱水の予防
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参考文献・出典
2. 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移」
3. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課「2026/27シーズン向け 新型コロナワクチンの抗原組成について」
4. 厚生労働省「65歳以上に実施している予防接種」
5. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「SARS-CoV-2変異株について」「新型コロナワクチン製造株」
6. 世界保健機関(WHO):BA.3.2およびNB.1.8.1に関するリスク評価
7. 日本感染症学会・日本呼吸器学会「新型コロナワクチン定期接種に関する見解」(2025年9月1日)
⚠ 本記事について
本記事は2026年9月10日時点の公表情報に基づいています(初稿:2026年7月20日、最新の定点報告数等を反映して更新)。流行状況・ワクチンの抗原組成・定期接種の実施内容は変更される可能性があります。個々の診断・治療については、必ず医療機関にご相談ください。
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