「大腸がんは”自業自得”ではない」──松本人志さんの公表に、医師として伝えたいこと【手術・人工肛門(ストーマ)と早期発見/内視鏡 専門医・指導医が解説】
- 2026年7月21日
- 内科一般,健康診断・人間ドック,消化器内科,内視鏡,大腸内視鏡
「大腸がんは"自業自得"ではない」──松本人志さんの公表に、医師として伝えたいこと【手術・人工肛門(ストーマ)と早期発見/内視鏡 専門医・指導医が解説】
執筆(共著):五良会クリニック白金高輪|院長 玉井博修(日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医/日本消化器病学会 専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医・指導医/日本肝臓学会 専門医・指導医) / 医療法人社団五良会|理事長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)※編集担当
結論からお伝えします。「大腸がん=一生、人工肛門になる」というイメージは、多くの場合あてはまりません。手術で人工肛門(ストーマ)を作るとしても、その多くは腸のつなぎ目を守るための「一時的なストーマ」で、通常は数か月後に閉鎖手術で元に戻せます。そして、大腸がんになったことは、決してその人の「自業自得」でも「罰」でもありません。
この記事では、内視鏡を専門とする五良会クリニック白金高輪の立場から、大腸がんの手術とストーマの「本当のところ」、公表された情報から医師が考えること、大腸がんのリスク要因、そして早期発見のためにできることを解説します。あわせて、往診で多くの方を看取ってきた一開業医として、どうしてもお伝えしたいメッセージを最後に記します。
📌 この記事を書いたきっかけ
2026年7月17日、お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志さんが、血便をきっかけに受診して大腸がんが判明し、腫瘍を切除する手術を受けたことを公表されました。ご本人は、現在は人工肛門(ストーマ)を造設した状態であり、体が回復したのち、数か月後に元に戻す手術を予定していると説明されています。この公表を受け、SNSでは「ストーマということは進行がん?」「抗がん剤の話がない=早期?」といった病状の憶測や、なかには「自業自得」といった心ない言葉も見られました。医師として、正しい知識とともにお伝えしたいことをまとめました。
出典:吉本興業 公式サイト発表/各社報道 2026年7月17日
② 人工肛門(ストーマ)とは?
③ 一時的ストーマと永久ストーマ ― 2つの違い
④ なぜ「一時的ストーマ」を作るのか
⑤ どんな場合に「永久ストーマ」になるのか
⑥ 肛門を残す工夫と、術後の排便の変化
⑦ 大腸がんの手術は今どう行われるか
⑧ 「ステージはどのくらい?」報道からわかること・わからないこと
⑨ 大腸がんは、なぜ増えている? ― リスク要因を知る
⑩ 早く見つけて、小さいうちに取る ― 今できること
⑪ 「自業自得」ではありません ― 医師として伝えたいこと
⑫ よくあるご質問(FAQ)
⑬ まとめ
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1. 「大腸がん=一生の人工肛門」は誤解です
大腸がんの手術と聞くと、「お腹に一生、便の出口を作ることになるのでは」と身構える方が少なくありません。ですが、実際にはそうとは限りません。大切なポイントは次の3つです。
✅ 手術になっても、大腸(結腸)のがんの多くは腸をつなぎ直せるため、人工肛門は不要か一時的
✅ 人工肛門を作る場合でも、その多くは数か月で元に戻せる「一時的ストーマ」
つまり「大腸がん=一生の人工肛門」という等式は成り立ちません。むしろ早く見つかるほど、体への負担は小さく、人工肛門も避けられる可能性が高くなります。
2. 人工肛門(ストーマ)とは?
人工肛門(ストーマ)とは、手術で腸の一部をお腹の表面に出し、そこから便を排泄できるようにした「便の出口」のことです。おしりの肛門の代わりに、お腹に新しい出口を作るとイメージしてください。腸を使って作る消化管ストーマには、小腸で作る「回腸ストーマ」と、大腸で作る「結腸ストーマ」があります。
ストーマについてよくある誤解
| よくある不安・イメージ | 実際のところ |
|---|---|
| 痛いのでは? | ストーマ自体には痛みを感じる神経がなく、触れても痛みはありません |
| においが漏れるのでは? | 近年の装具は防臭加工が進み、通常の生活でにおいが漏れる心配はほとんどありません |
| 普通の生活はできないのでは? | 装具の管理に慣れれば、仕事・旅行・入浴・運動など従来どおりの生活が可能です |
| とても珍しいことでは? | ストーマを持つ方(オストメイト)は国内に20万人以上おられ、社会の中で当たり前に暮らしています |
💡 補足
永久的なストーマを造設した場合は、身体障害者手帳(内部障害)の対象となり、装具費の助成や税の控除など公的な支援を受けられます。「作ったら終わり」ではなく、暮らしを支える仕組みが整えられています。
3. 一時的ストーマと永久ストーマ ― 2つの違い
ストーマは、目的によって大きく「一時的ストーマ」と「永久ストーマ」の2つに分けられます。この違いを知っておくと、必要以上に不安にならずにすみます。
| 項目 | 一時的ストーマ | 永久ストーマ |
|---|---|---|
| 目的 | 腸のつなぎ目(吻合部)を一時的に休ませ、守るため | 肛門を切除するなど、肛門から排便できない場合の恒久的な出口 |
| 作る場所 | 多くは小腸(回腸ストーマ)を下腹部に | 多くは大腸(結腸ストーマ) |
| その後 | 通常3〜6か月後に閉鎖手術で元に戻す | 原則として閉鎖せず、そのまま使用 |
| 主な対象 | 肛門に近い直腸がんの手術後など | 肛門にかかる・極めて近い直腸がんなど |
冒頭でふれた公表報道のように、「手術で人工肛門を作り、数か月後に元に戻す」という経過は、まさに一時的ストーマの典型的な流れです。人工肛門と聞くと永久的なものと思われがちですが、実際には戻すことを前提に作られるケースが多いのです。
4. なぜ「一時的ストーマ」を作るのか
大腸がんの手術では、がんのある部分を周囲の腸ごと切除し、残った腸どうしをつなぎ合わせます(この接合部を吻合部(ふんごうぶ)と呼びます)。このつなぎ目がしっかり治るまでの間、便が通ると縫合不全(つなぎ目のほころび)が起きるリスクがあります。
そこで、吻合部の上流に一時的なストーマを作って便の通り道をいったん切り替え、つなぎ目を安静に保つことがあります。とくに肛門に近い低い位置でのつなぎ目ほどトラブルが起こりやすいため、予防的に一時的ストーマを併用することが多くなります。つまり一時的ストーマは、がんの進行度だけで決まるものではなく、手術を安全に行うために造設されるケースも少なくないのです。
② 数か月かけて、つなぎ目が十分に治るのを待つ(体調の回復も含む)
③ 閉鎖手術でストーマを元に戻す(肛門からの排便に戻る)
5. どんな場合に「永久ストーマ」になるのか
一方で、次のような場合には永久的なストーマが必要になることがあります。正直にお伝えすることも大切なので、あわせて解説します。
⚠️ 永久ストーマが検討される主なケース
・がんが肛門にかかる、または肛門のすぐ近くにあり、肛門を残せない直腸がん(腹会陰式直腸切断術)
・進行して腸閉塞を起こしている、他臓器へ広がっているなどで、症状をやわらげる目的(緩和目的)で造設する場合
重要なのは、永久ストーマが必要かどうかは「がんのできた場所」と「進行度」で決まるということです。同じ大腸がんでも、肛門から離れた結腸のがんであれば、多くは人工肛門なしで腸をつなぎ直せます。人工肛門が問題なのではなく、肛門の近くまで進んでしまう前に、早く見つけることが何より大切です。
6. 肛門を残す工夫と、術後の排便の変化
近年は、肛門を残すための手術(肛門温存手術)が進歩しています。代表的なものに、直腸をつなぎ直す前方切除術や、肛門の筋肉の一部だけを切除して肛門を温存する括約筋間直腸切除術(ISR)があります。また、手術前に放射線治療や薬物療法でがんを小さくしてから手術することで、肛門を残せる可能性が広がる場合もあります。
⚠️ 正直にお伝えしたいこと
肛門を残せた場合でも、直腸の多くを切除すると、便をためる働きが弱くなり、排便回数が増える・少量ずつ何度も出る・便意を我慢しにくいといった変化(前方切除後症候群)が一定期間みられることがあります。多くは時間とともに落ち着きますが、「肛門を残す=すべて元どおり」ではない点も知っておくと、術後の見通しが立てやすくなります。ISRなどは高度な技術を要し、適応も限られます。どの方法が最適かは、手術を担当する専門施設で十分に相談することが大切です。
7. 大腸がんの手術は今どう行われるか
大腸がんの手術は、開腹手術だけでなく、小さな傷でカメラと器具を使って行う腹腔鏡手術、さらに近年はロボット支援手術と、体への負担の少ない方法が広がっています。
出典:大腸癌研究会 編『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版』(金原出版、2024年7月)/巻末資料は「大腸癌取扱い規約 第9版」に準拠
なお、これらの手術は入院設備のある専門病院で行われます。当院のようなクリニックの役割は、その前段階にあります。気になる症状や検診異常をきっかけに大腸カメラで早く見つけ、必要なら適切な専門病院へおつなぎすることが、私たちの大切な仕事です。
8. 「ステージはどのくらい?」報道からわかること・わからないこと
著名な方ががんを公表されると、「ストーマを作ったのだからかなり進行していたのでは」「抗がん剤の話が出ないから早期なのでは」といった病状の推測が飛び交いがちです。しかし結論として、公表されている情報だけで、病期(ステージ)や病状を判断することはできません。ここでは、医師がどう考えるかを一般論として整理します。
「ストーマがある=進行がん・末期」ではない
これまで解説したとおり、一時的ストーマは手術を安全に行い、縫合不全を防ぐために造設されることが多いものです。ストーマの有無だけで「進行がん」「末期」と結びつけることはできません。
「抗がん剤を使っていない=早期」とも限らない
大腸がんでは、すべての患者さんが抗がん剤治療を受けるわけではありません。あくまで一般的な目安として、ステージ別の治療の考え方は次のようになります。
| ステージ | 大まかな状態 | 一般的な治療の考え方 |
|---|---|---|
| 0〜Ⅰ期 | 早期。粘膜〜比較的浅い層にとどまる | 内視鏡治療や手術で治療が完結。抗がん剤は不要なことが多い |
| Ⅱ期 | 腸の壁を越えるが、リンパ節転移はない | 手術で完全に切除できれば経過観察のことも。ただし再発リスクが高い場合は抗がん剤治療を検討 |
| Ⅲ期 | リンパ節転移がある | 手術後、再発予防を目的とした抗がん剤治療が標準的に検討される |
| Ⅳ期 | 肝臓・肺などへの遠隔転移がある | 抗がん剤治療を中心に、転移巣の切除や放射線治療などを組み合わせる |
このように、ステージ0〜Ⅰだけでなく、Ⅱ期でも抗がん剤を行わず経過観察となる方は少なくありません。逆に、「抗がん剤を使っていないから早期」と逆算することはできないのです。
💡 病期(ステージ)はどう決まる?
大腸がんのステージは、がんが腸の壁にどこまで深く入り込んでいるか(深達度)・リンパ節転移の有無・肝臓や肺などへの遠隔転移の有無に、手術で切除した組織の病理検査の結果を加えて、総合的に決定します。血便があったこと、ストーマを造設したことだけでは、「進行がんだった」「早期だった」と判断することはできません。予後(見通し)も、最終的なステージと病理検査の結果によって大きく変わります。
※治療方針は『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版』(大腸癌研究会)の考え方に準拠。いずれも一般的な目安であり、実際の治療は年齢・全身状態・病理結果などにより個別に決まります。
9. 大腸がんは、なぜ増えている? ― リスク要因を知る
大腸がんは、男女を合わせた罹患数(新たに診断される人の数)が日本で最も多いがんで、1975年以降、長期的に増え続けています。さらに近年は、50歳未満の若い世代でも大腸がんが世界的に増加していることが報告されています。国立がん研究センターが参加した国際共同研究でも、若年発症の大腸がんの罹患・死亡が増えていることが確認されました。
・家族歴・遺伝性の要因(血縁者に大腸がんの方がいる/リンチ症候群・家族性大腸腺腫症など)
・喫煙・飲酒(アルコールの代謝物や、たばこの化学物質が関与)
・肥満・運動不足
・食事(加工肉・赤身肉のとりすぎ/食物繊維の不足など。加工肉はWHOの外部機関IARCが発がん性を認めるグループ1に分類)
・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)の長期経過
💡 ここで大切なこと
リスク要因がある方は発症しやすい傾向がある一方で、リスク要因があっても発症しない方は大勢いますし、思い当たる要因が何もなくても大腸がんになる方もいます。大腸がんは、加齢・遺伝・生活習慣・環境、そして偶然起こる遺伝子の変化など、さまざまな要因が重なって発症する病気です。リスク要因を知る目的は「誰かを責めるため」ではなく、下げられるリスクは下げ、早期発見につなげるためです。この点は、後の章であらためてお伝えします。
10. 早く見つけて、小さいうちに取る ― 今できること
大腸がんは、早期に見つかれば治りやすいがんです。そして、大腸がんの多くは「大腸ポリープ(腺腫)」という良性の病変から時間をかけて進行します。つまり、ポリープの段階で大腸カメラを使ってその場で切除してしまえば、がんになる前に防げるのです。粘膜内にとどまる早期がんも、内視鏡治療で切除でき、お腹を切る手術も人工肛門も不要なことが多くなります。
✅ 年1回の大腸がん検診(便潜血検査)を受ける(40歳以上が対象。感度の高い一次検査です)
✅ 血便・便潜血陽性を放置しない――「もう一度検便」ではなく大腸カメラでの精密検査へ
✅ 40歳以上で一度も受けていない方・血縁者に大腸がんの方がいる方は、大腸カメラを検討
⚠️ 正直な但し書き
これらの対策で大腸がんを100%防げるわけではありません。生活習慣を整えても、検診を受けていても、大腸がんになることはあります。それでも、「リスクを下げること」「早く見つけること」「小さいうちに取ること」には確かな意味があります。できることは、確かにあるのです。
五良会クリニック白金高輪では、静脈麻酔(鎮静剤)を用いた苦痛の少ない大腸カメラを、土曜・日曜・祝日も含めて毎週実施しています。平日はお忙しい方も、休日に検査を受けていただけます。
11. 「自業自得」ではありません ― 医師として伝えたいこと
著名な方の公表後、SNSでは「悪いことをしたから、がんになった」「因果応報ではないか」といった声も見られました。医師として、これははっきりと申し上げます。がんは、罰でも因果応報でもありません。本人の人格や過去の行いと病気を結びつけることに、医学的な根拠は一切ありません。そして、そうした言葉は、いま同じ病気と向き合っている患者さんやご家族を深く傷つけます。
そのなかで感じているのは、病気はある意味で平等だということです。どれほど立派な立場の方にも、どれだけ生活に気をつけてこられた方にも、病気は降りかかる可能性があります。
もちろん、検診で早期に見つけられる病気はありますし、生活習慣を整えることで発症のリスクを下げられる病気もあります。予防や検診の価値は、決して小さくありません。しかしそれは、『気をつけていなかった人が病気になる』ということとは全く別の話です。病気になったこと自体を、その人の生き方や人柄の結果として語るべきではないと、私は考えています。
いま、心ない言葉に触れて苦しんでおられる患者さんやご家族がいらっしゃるなら、どうか、ご自身を責めないでください。そして、『気になるけれど怖い』という段階のうちに、私たちを頼っていただければと思います。」
12. よくあるご質問(FAQ)
13. まとめ
✅ ストーマの有無や抗がん剤の有無だけで、病期(ステージ)は判断できません
✅ 大腸がんは罹患数が国内最多で、若い世代でも増加。リスク要因を知ることは大切
✅ ただしリスク要因があっても発症しない人も、なくても発症する人もいます
✅ ポリープの段階で大腸カメラで取れば、がんになる前に防げることが多い
✅ 生活習慣・検診で100%は防げないが、リスクを下げ早く見つける対策には確かな意味がある
✅ 大腸がんは「自業自得」でも「罰」でもありません。ご自身を責めないでください
※本記事は、公表されている情報をもとに大腸がんの一般的な考え方を解説したものであり、松本人志さん個人の診断・病期・予後について述べるものではありません。診断や治療方針は、必ず主治医にご相談ください。
静脈麻酔(鎮静剤)を使用した苦痛の少ない検査を行っております。
✅ 健診で便潜血陽性を指摘された方
✅ 40歳以上で一度も大腸カメラを受けたことがない方
✅ 血縁者に大腸がんの方がいる方
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