健診で「尿糖」陽性なのに血糖値は正常|腎性糖尿(家族性腎性糖尿)とSGLT2阻害薬服用中の尿糖の違い
医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
健康診断や人間ドックの尿検査で「尿糖(+)」と指摘されたのに、同時に測った空腹時血糖値やHbA1cは基準値内だった――このような結果に戸惑う方は少なくありません。「尿に糖が出ている=糖尿病」と思い込んで不安になる方もいれば、逆に「血糖値が正常だから大丈夫」と自己判断してしまう方もいます。
結論から言うと、血糖値・HbA1cが正常範囲内なのに尿糖だけが陽性になる場合、多くは「腎性糖尿(腎性尿糖)」と呼ばれる体質的な現象で、糖尿病とは異なります。また、SGLT2阻害薬という糖尿病治療薬を服用中の方は、薬の作用として意図的に尿へ糖を排出しているため、尿糖陽性はむしろ「薬が効いている証拠」です。この記事では、腎性糖尿の仕組みと、糖尿病との見分け方、受診の目安を糖尿病協会登録医が解説します。
1. 尿糖陽性、まず知っておきたいこと
健康診断・人間ドックの尿検査は、試験紙を尿に浸して尿糖・尿蛋白・尿潜血などを調べる簡便な検査です。尿糖は「陰性(−)」「疑陽性(±)」「陽性(+〜4+)」で判定され、港区の特定健診や当院の健診でも標準的に含まれる項目です。
尿糖陽性で考えられる主な原因
① 糖尿病(血糖値・HbA1cも高値)
② 腎性糖尿(血糖値・HbA1cは正常)
③ SGLT2阻害薬の服用中(薬の作用による意図的な尿糖)
④ 妊娠中の生理的な変化
⑤ 検査直前の清涼飲料水の多量摂取など一過性の要因
このうち、白金高輪駅の当院の糖尿病内科外来でご相談が多いのが②の腎性糖尿です。血糖値やHbA1cは何年経っても正常範囲内なのに、尿検査のたびに尿糖だけが陽性になるため、「本当に糖尿病ではないのか」と繰り返し健診で引っかかり、不安を抱えたまま受診される方が少なくありません。
2. 尿糖が出る仕組みと「腎臓の糖排泄閾値」
健康な状態では、血液中のブドウ糖は腎臓の糸球体でいったんすべて尿の中へろ過されますが、その後、尿細管(近位尿細管)にあるSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)というタンパク質によって、糖のほぼ100%が血液中へ再吸収されます。そのため、通常は尿の中に糖はほとんど出てきません。
しかし、血糖値がある一定の値(一般に160〜180mg/dL程度、個人差あり)を超えると、尿細管の再吸収能力が追いつかなくなり、あふれた糖が尿の中に出てきます。この「糖が尿にあふれ出す血糖値」のことを腎臓の糖排泄閾値(尿糖排泄閾値)と呼びます。糖尿病で血糖値が高いときに尿糖が陽性になるのは、この仕組みによるものです。
3. 血糖値は正常なのに尿糖だけ陽性の場合|腎性糖尿(家族性腎性糖尿)とは
腎性糖尿(腎性尿糖)とは、血糖値が正常範囲内にもかかわらず、尿細管でのブドウ糖再吸収能力が生まれつき低いために、糖排泄閾値が通常より低く設定されてしまい、正常な血糖値でも尿に糖が漏れ出てしまう体質のことです。糖尿病とは全く異なる原因で尿糖が出ている状態です。
| 項目 |
糖尿病 |
腎性糖尿 |
| 空腹時血糖値 |
高値(126mg/dL以上など) |
正常範囲 |
| HbA1c |
高値(6.5%以上など) |
正常範囲 |
| 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT) |
糖尿病型の判定 |
正常型 |
| 尿糖 |
血糖値が閾値を超えたときに陽性 |
血糖値にかかわらず陽性のことが多い |
| 治療の必要性 |
食事療法・運動療法・薬物療法 |
原則不要(経過観察) |
腎性糖尿の一部は家族性腎性糖尿(familial renal glucosuria)として遺伝性にみられ、SGLT2をコードするSLC5A2遺伝子の変異が原因のひとつであることが知られています。多くは常染色体優性(顕性)または不完全浸透性の遺伝形式をとり、血縁者に同様の尿糖体質がある方も少なくありません。ごくまれに、SGLT1(腸管の糖吸収にも関わる輸送体)の異常による「グルコース・ガラクトース吸収不良症」に伴う重度の腎性糖尿もありますが、これは乳児期からの下痢などで発見される非常にまれな病態です。健診で偶然見つかる腎性糖尿の大部分は、日常生活に支障のない軽症〜中等症です。
✅ 腎性糖尿の特徴
・血糖値・HbA1cは正常
・治療は原則不要で、多くは経過観察のみ
・体質のため生涯にわたって尿糖陽性が続くことが多い
・糖尿病になりやすい体質というわけではない(ただし将来的に糖尿病を発症する可能性がゼロというわけではないため、定期的な血糖チェックは継続する)
4. SGLT2阻害薬を服用中の方の尿糖について
すでに糖尿病治療中で、イプラグリフロジン・ダパグリフロジン・カナグリフロジン・エンパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬を服用している方は、健診で尿糖が陽性になっても心配いりません。この薬は、尿細管でのブドウ糖再吸収を担うSGLT2を意図的にブロックし、1日あたりおよそ60〜100g(約240〜400kcal相当)の糖を尿へ排出させることで血糖値を下げる仕組みの薬だからです。つまり、尿糖陽性は「薬がきちんと効いている状態」を示しています。
SGLT2阻害薬は2型糖尿病治療薬として承認されているほか、一部の製剤は慢性心不全・慢性腎臓病(CKD)に対する適応も日本国内で承認されています。糖を尿に排出する作用により、脱水や尿路感染症・性器感染症のリスクがやや高まることが知られているため、服用中はこまめな水分補給と陰部の清潔保持を心がけていただくことが大切です。
🩸 糖尿病治療中でSGLT2阻害薬を服用されている方へ
健診の尿糖の結果でご不安な場合は、服薬中の血糖コントロール状況とあわせて糖尿病内科でご相談ください。
5. 精密検査の流れ|糖尿病との見分け方(OGTTなど)
健診で尿糖陽性・血糖値正常という結果だった場合、当院では以下の流れで丁寧に鑑別を行います。自己判断で放置せず、一度は医療機関で確認することをおすすめします。
| STEP 1 |
問診・服薬歴の確認 SGLT2阻害薬の服用有無、妊娠の有無、家族歴(血縁者の尿糖体質・糖尿病)を確認します。 |
| STEP 2 |
空腹時血糖値・HbA1cの再検査 健診時の数値だけでなく、あらためて採血で確認します。 |
| STEP 3 |
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT) 血糖値・HbA1cが正常範囲でも、糖尿病の早期段階を見逃さないためにOGTTで糖代謝を評価することがあります。腎性糖尿であれば、OGTTの結果自体は正常型となります。 |
| STEP 4 |
必要に応じて24時間蓄尿検査 1日の尿糖排泄量を詳しく評価する場合に行うことがあります。 |
| STEP 5 |
経過観察の方針決定 糖尿病が否定され腎性糖尿と判断されれば、多くの場合は年1回程度の健診での血糖チェック継続で十分です。 |
6. 妊娠中に指摘される尿糖について
妊娠中は、腎臓の血流量が増え糸球体でのろ過量が増加することに加え、尿細管での糖再吸収能力が相対的に追いつかなくなるため、血糖値が正常でも尿糖が陽性になりやすいことが知られています(妊娠性糖尿)。これ自体は多くの場合生理的な変化ですが、妊娠糖尿病(GDM)は母体・胎児双方に影響しうるため、産科健診で尿糖を指摘された場合は、自己判断せず産婦人科の指示に従ってOGTT等のスクリーニング検査を受けることが重要です。
7. 放置していいのか|受診の目安
⚠️ 注意
「以前も尿糖陽性だったが血糖値は正常だったから」と自己判断で毎年再検査を省略するのは避けましょう。腎性糖尿と診断された後も、加齢や体重変化により将来的に糖代謝異常を発症する可能性はあり、年1回程度の血糖値・HbA1cチェックの継続が推奨されます。
次のような場合は、腎性糖尿と自己判断せず、早めに糖尿病内科を受診してください。
受診をおすすめする場合
・尿糖陽性に加えて空腹時血糖値・HbA1cも基準値を超えている
・のどの渇き、多飲・多尿、体重減少など糖尿病を疑う症状がある
・尿糖が今回初めて指摘された(一度も精密検査を受けたことがない)
・繰り返す膀胱炎など、尿路感染症を繰り返している
・妊娠中に尿糖を指摘された
8. 理事長コメント
💬 理事長 五藤良将より
「健診で尿糖陽性と言われると、多くの方が『糖尿病になったのでは』と強い不安を抱かれます。実際には血糖値・HbA1cが正常であれば、体質的な腎性糖尿であることがほとんどです。とはいえ、ご自身の判断だけで『毎回同じだから大丈夫』と決めつけてしまうのは危険です。当院では糖尿病協会登録医として、血液検査とOGTTで丁寧に糖尿病を除外したうえで、安心して経過観察に移っていただけるようご案内しています。SGLT2阻害薬で治療中の方も、尿糖の値だけでなく血糖コントロール全体を一緒に確認していきましょう。」
9. まとめ
📝 この記事のポイント
✅ 尿糖陽性でも血糖値・HbA1cが正常なら、多くは体質的な「腎性糖尿」
✅ 腎性糖尿は糖の再吸収能力が生まれつき低いために起こり、家族性のこともある
✅ SGLT2阻害薬服用中の尿糖陽性は薬の効果によるもので心配不要
✅ 自己判断せず、少なくとも一度は血液検査・OGTTで糖尿病を除外することが大切
✅ 腎性糖尿と診断された後も年1回程度の血糖チェックは継続を
10. よくあるご質問(FAQ)
Q. 腎性糖尿は治療しなくても大丈夫ですか?
A. 糖尿病が除外され、単純な腎性糖尿と診断された場合、原則として治療の必要はありません。ただし体質は生涯続くことが多いため、年1回程度の血糖チェックの継続をおすすめしています。
Q. 腎性糖尿だと将来必ず糖尿病になりますか?
A. いいえ、腎性糖尿があるからといって糖尿病になりやすいわけではないと考えられています。ただし加齢や体重増加などで誰でも糖代謝が変化しうるため、定期健診は継続してください。
Q. SGLT2阻害薬を飲んでいますが、尿糖が毎回強陽性です。薬を減らすべきですか?
A. SGLT2阻害薬服用中の尿糖陽性は薬の想定内の作用ですので、それ自体で減薬を判断する必要はありません。血糖コントロール全体(HbA1c、体重、脱水症状の有無など)を確認したうえで、主治医と用量を相談してください。
Q. 遺伝性と言われましたが、子どもも検査すべきですか?
A. 家族性腎性糖尿は良性の体質であることがほとんどのため、症状がなければ小児期に急いで遺伝子検査を行う必要は通常ありません。学校健診などで尿糖を指摘された場合は、血糖値・HbA1cの確認を優先してください。
Q. 尿糖が出ていると膀胱炎になりやすいと聞きました。本当ですか?
A. 尿中の糖は細菌の栄養源になりうるため、尿路感染症・膀胱炎のリスクがやや高まる可能性があります。水分をこまめにとり、排尿を我慢しないことを心がけてください。繰り返す膀胱炎がある場合はご相談ください。
Q. 健診結果を持って受診する場合、何を準備すればよいですか?
A. 今回の健診結果一式(尿検査・血液検査の数値がわかるもの)と、可能であれば過去数年分の健診結果、服用中のお薬手帳をお持ちください。家族に同様の尿糖体質の方がいる場合はその情報も診断の参考になります。
DIABETES CLINIC
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五良会クリニック白金高輪では、糖尿病協会登録医による糖尿病・生活習慣病の外来診療を行っております。
最新の経口薬・GLP-1製剤・持続血糖モニター(CGM)にも対応。
✅ 健診で尿糖・血糖・HbA1c高値を指摘された方
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10:00 〜 15:00 |
10:00 〜 15:00 |
| 14:30〜19:00 |
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休診日:火曜日/土・日・祝は10:00〜15:00(最終受付14:30)
理事長 五藤 良将
【参考文献・出典】
・日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」(2024年5月30日発行、南江堂)
・日本人間ドック・予防医療学会 2026年度判定区分表(2025年12月8日公開)
・MSDマニュアル家庭版「腎性糖尿」
・厚生労働省 特定健康診査・特定保健指導の実施に関する基準