アルコール依存症と久里浜式スクリーニング(AUDIT・KAST)—『お酒の量』を見直す第一歩【玉井院長監修】
監修
五良会クリニック白金高輪 院長 玉井 博修(たまい ひろなお)
専門:消化器内科・肝臓内科・消化器内視鏡/慶應義塾大学医学部卒業/慶應義塾大学病院・立川共済病院・大和市立病院・慶應義塾大学医学部消化器内科を経て独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター(旧・久里浜アルコール症センター)勤務歴/1999年より川崎市立川崎病院 内科 副医長・医長/2008年より同院 肝臓内科 部長/2012年より同院 消化器内科 部長/2026年4月 五良会クリニック白金高輪 院長 就任/日本内科学会 総合内科専門医・指導医/日本消化器病学会 専門医・指導医/日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医/日本肝臓学会 専門医・指導医
企画・編集
医療法人社団五良会 理事長 五藤良将
五良会クリニック白金高輪 院長の玉井博修(たまい ひろなお)です。本記事はシリーズ第4回。第3回『アルコール性脂肪肝(ALD・MetALD)—減酒という選択肢』に続き、今回は「自分の飲酒は適量なのか、依存症レベルなのか」を客観的にチェックできる久里浜式スクリーニング(AUDIT・KAST)と、依存症レベルだった場合の治療選択肢について解説します。
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【新院長就任】川崎市立川崎病院 元・消化器内科部長 玉井博修医師が就任しました
慶應義塾大学医学部卒業後、川崎市立川崎病院で肝臓内科部長(2008年〜)・消化器内科部長(2012年〜)を歴任し、2026年4月に五良会クリニック白金高輪 院長に就任。久里浜医療センター勤務歴あり。詳しい経歴・専門医資格・担当外来情報は院長就任ブログをご覧ください。
私が勤務歴を持つ独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター(旧・久里浜アルコール症センター)は、日本のアルコール医療の中心施設として、これらのスクリーニングツールの開発・普及・臨床研究を半世紀以上にわたって牽引してきました。今回ご紹介するAUDIT・KASTは、久里浜の知見に基づいたツールです。
本記事を読み終えるころには、ご自身の飲酒が今どの段階にあるのか、ある程度の見当がつくはずです。「自分は依存症ではない」と思っていても、AUDIT点数が高ければ生活習慣病リスクは確実にあります。気軽な気持ちで、ぜひセルフチェックしてみてください。
目次
『飲み過ぎ』と『依存症』の境界線
お酒に関する医学的なステージは、大きく4つに分けて考えると整理しやすいです。
アルコール使用の4つのステージ
| ステージ | 特徴 | 対応 |
|---|---|---|
| ①低リスク飲酒 | 純アルコール男性20 g/日以下、女性10 g/日以下 | 現状維持 |
| ②危険な飲酒 (hazardous) |
将来的に健康被害が予測される量(男性40 g/日以上) | 減酒指導が有効 |
| ③有害な飲酒 (harmful) |
既に身体的・精神的・社会的問題が出始めている状態 | 医学的介入が必要 |
| ④依存症 | コントロールを失い、「やめたいのにやめられない」状態 | 専門治療が必要 |
出典:WHO ICD-10、日本アルコール・アディクション医学会「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」(2018)
重要なのは、②と③の段階で介入すれば、依存症(④)に進まずに済むということです。AUDITやKASTは、まさにこの境界を見極めるためのツールです。
アルコール依存症の医学的な定義(ICD-10)
WHOの国際疾病分類(ICD-10)では、アルコール依存症は以下の6項目のうち3項目以上が過去1年間に同時に出現した場合に診断されます。
ICD-10によるアルコール依存症の診断項目
- 強い渇望(飲酒欲求):飲みたいという強烈な欲求がある
- 飲酒コントロールの障害:飲み始めると止められない、いつ・どれくらい飲むかをコントロールできない
- 離脱症状:手の震え・発汗・不眠・不安・けいれん・幻覚など、お酒が切れたときに出現
- 耐性の上昇:以前と同じ酔いを得るために飲酒量が増えている
- 飲酒中心の生活:飲酒のために他の楽しみや義務を後回しにする
- 身体的・精神的問題があってもやめられない:医師から止められても、家族から指摘されても、続けてしまう
3項目以上が該当 → アルコール依存症と診断
大事なポイント:依存症は『意志の弱さ』ではない
アルコール依存症は脳神経系の変化を伴う『慢性疾患』です。糖尿病や高血圧と同じように、医学的な治療が必要な病気であり、本人の性格や根性の問題ではありません。早期発見・早期介入が予後を大きく左右します。
AUDIT—WHOが世界標準として推奨する10問のテスト
AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test:オーディット)は、WHOが開発した世界標準の飲酒スクリーニング検査です。10個の質問に答えるだけで、自分の飲酒が「危険飲酒」か「依存症レベル」かをある程度判定できます。
AUDIT 10問(厚生労働省推奨日本語版に準拠)
| No | 質問 | 選択肢と点数 |
|---|---|---|
| Q1 | あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか | 飲まない=0/月1回以下=1/月2-4回=2/週2-3回=3/週4回以上=4 |
| Q2 | 飲酒する日は通常何ドリンク(純アルコール換算)飲みますか ※1ドリンク=純アルコール約10 g(ビール250 mL、日本酒0.5合 程度) |
1-2=0/3-4=1/5-6=2/7-9=3/10以上=4 |
| Q3 | 1度に6ドリンク以上飲酒することはどのくらいの頻度ですか | なし=0/月1回未満=1/月1回=2/週1回=3/毎日に近い=4 |
| Q4 | 過去1年間で、いったん飲み始めたら止められなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか | なし=0/月1回未満=1/月1回=2/週1回=3/毎日に近い=4 |
| Q5 | 過去1年間で、普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか | なし=0/月1回未満=1/月1回=2/週1回=3/毎日に近い=4 |
| Q6 | 過去1年間で、深酒の後で体調を整えるために、朝に迎え酒をしたことが、どのくらいの頻度でありましたか | なし=0/月1回未満=1/月1回=2/週1回=3/毎日に近い=4 |
| Q7 | 過去1年間で、飲酒後に罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか | なし=0/月1回未満=1/月1回=2/週1回=3/毎日に近い=4 |
| Q8 | 過去1年間で、飲酒のために前夜の出来事を覚えていなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか | なし=0/月1回未満=1/月1回=2/週1回=3/毎日に近い=4 |
| Q9 | あなたの飲酒のために自分自身や他の誰かが怪我をしたことがありますか | なし=0/あるが過去1年はなし=2/過去1年以内にあり=4 |
| Q10 | 家族・親戚・友人・医師・他の保健従事者が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたことがありますか | なし=0/あるが過去1年はなし=2/過去1年以内にあり=4 |
AUDIT合計点数の解釈
| 合計点 | 区分 | 推奨対応 |
|---|---|---|
| 0〜7点 | 問題飲酒なし | 現状維持 |
| 8〜14点 | 危険な飲酒(生活習慣病リスクあり) | 減酒指導の対象 |
| 15〜19点 | 有害な使用 | 医師の関与を強く推奨 |
| 20点以上 | アルコール依存症の疑い | 専門医療機関への受診を推奨 |
KAST—日本独自の久里浜式スクリーニング
KAST(Kurihama Alcoholism Screening Test:久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)は、久里浜医療センター(旧久里浜アルコール症センター)が開発した、日本人の飲酒パターンと文化に合わせて作られたスクリーニングです。AUDIT(WHO発・国際標準)と並んで、日本のアルコール医療で広く使われています。
KASTには男性版(KAST-M)と女性版(KAST-F)があり、性別によって質問内容が一部異なります(男女で飲酒文化や代謝が異なるため)。最近1年間の飲酒について「はい/いいえ」で答える形式で、スコア化して依存症のリスクを判定します。
KASTの判定区分(スコア解釈の概要)
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| 正常飲酒群 | 問題飲酒の傾向なし |
| 問題飲酒予備群 | 将来的に問題飲酒・依存症に進行するリスクがある |
| 問題飲酒群 | 既に身体的・社会的問題が生じている可能性 |
| 重篤問題飲酒群 | アルコール依存症に該当する可能性が高い |
具体的な質問項目と詳細なスコア基準は、診察時に当院でご案内します。
AUDITとKASTの使い分け
AUDITは飲酒量を定量的に評価するため、危険飲酒の早期発見に向いています。KASTは飲酒に伴う行動・身体症状を評価するため、依存症の傾向を見るのに適しています。当院では両者を相補的に使用し、より精度の高いリスク評価を行っています。
CAGE—4問でできる超簡易スクリーニング
CAGE(ケージ)は、たった4問で答えられる超簡易スクリーニングです。AUDITやKASTを実施する前の「ふるい分け」によく使われます。
CAGEテスト(4問)
| C | Cut down — 「お酒を減らさなければと思ったことがありますか」 |
| A | Annoyed — 「他人から飲酒について批判されてイライラしたことがありますか」 |
| G | Guilty — 「飲酒について罪悪感を感じたことがありますか」 |
| E | Eye-opener — 「朝の迎え酒をしたことがありますか(神経をしずめたり、二日酔いを治すため)」 |
2問以上に「はい」 → アルコール依存症の可能性が高い(精査推奨)
スクリーニング結果別の対応
スクリーニング結果別の推奨対応
| レベル | 主な対応 | 場所 |
|---|---|---|
| 問題なし | 健康的な飲酒習慣を維持 | セルフケア |
| 危険飲酒 | 簡易介入(5〜15分)/飲酒日記/目標設定/3〜6ヶ月後再評価 | プライマリケア(当院対応可) |
| 有害飲酒 | 専門的減酒治療(行動療法+必要に応じて薬物療法) | 当院対応可(玉井院長) |
| 依存症疑い | 専門医療機関での治療(外来・入院) | 当院から紹介 |
減酒治療の選択肢(セリンクロ・行動療法)
危険飲酒〜有害飲酒の段階で介入する「減酒治療」については第3回でも詳しく解説しましたが、本記事ではより踏み込んで、薬物療法の中心であるナルメフェン(セリンクロ®)について整理します。
ナルメフェン(セリンクロ®)の使い方
| 適応 | アルコール依存症患者の飲酒量低減(保険適用) |
| 作用機序 | オピオイド受容体に作用し、飲酒による「気持ち良さ」を抑制 |
| 用法・用量 | 飲酒の1〜2時間前に1錠(10 mg)服用。最大20 mgまで増量可能 |
| 特徴 | 「飲まない日は服用不要」。断酒を強要せず、飲酒量を減らすことが目標 |
| 主な副作用 | 悪心・めまい・眠気・倦怠感など(多くは服用初期に出現し、軽減することが多い) |
| 処方の前提 | 減酒治療研修を修了した医師による処方が必要。心理社会的サポートと併用 |
| 当院での対応 | 玉井院長による処方が可能です(保険適用・要診察) |
出典:大塚製薬・H. Lundbeck社 セリンクロ錠10 mg 添付文書(2019年承認)
薬物療法と並行する行動療法(重要)
- 飲酒日記:毎日の飲酒量を記録するだけで、自然と飲酒量が減ることが多い
- 目標設定:「週末のみ」「会食時のみ」など、達成可能な目標を医師と一緒に設定
- 動機づけ面接:「なぜ減らしたいのか」を引き出し、内発的動機を高める
- 環境調整:自宅にお酒を常備しない/飲み会の参加頻度を減らす/別の楽しみを見つける
- 定期的な振り返り:医師との面談で進捗を確認し、必要なら方針を調整
専門医療機関との連携体制
重度のアルコール依存症(AUDIT 20点以上、離脱症状あり、再飲酒を繰り返すなど)の方には、当院では対応の限界を超えることもあります。その際は、適切な専門医療機関へ責任をもって紹介します。
主な紹介先(東京都・神奈川県内)
| 医療機関 | 特徴 |
|---|---|
| 久里浜医療センター (神奈川県横須賀市) |
日本のアルコール医療の中核施設。アルコール依存症専門病棟・GTMACK(依存症集団認知行動療法)等 |
| 成増厚生病院 東京アルコール医療総合センター(東京都板橋区) |
都内最大規模のアルコール依存症専門病院。外来・入院・デイケアまで包括対応 |
| 各地域の精神科 専門医療機関 |
患者さんの居住地・通院利便性に応じて選定。当院から紹介状を発行 |
当院でできること
五良会クリニック白金高輪では、「アルコール依存症専門外来」というハードルの高いものではなく、消化器内科・肝臓内科の枠組みの中で、気軽に飲酒について相談できる場所を目指しています。
当院でのアルコール関連診療
- AUDIT・KAST・CAGEのスクリーニング(無料・診察時に実施)
- 採血による肝機能評価(γGTP・ALT・AST等)
- 腹部エコーによる脂肪肝・肝硬変の評価
- FibroScan(五良ファミリークリニックセンター南で実施・グループ内連携)
- 動機づけ面接・減酒目標設定(玉井院長)
- セリンクロ(ナルメフェン)処方(保険適用・玉井院長による)
- 専門医療機関への紹介(必要時)
院長から
久里浜医療センターでの臨床経験を通じて、私が一番強く感じたのは、「アルコールの問題で来る方の多くは、責められたくないだけで、本当は変わりたいと思っている」ということです。AUDIT点数が高くても、KASTが要注意レベルでも、それは責めるための数字ではなく、「これからどう生きていきたいか」を一緒に考えるための出発点です。お酒のことで気になることがあれば、肝臓の検査ついでにでも、ぜひお気軽にご相談ください。
次回・最終回(第5回)では、『胃カメラ・大腸カメラ×腹部エコー—40代からの丸ごと検査』と題して、五藤理事長と私のコラボでお届けします。脂肪肝・お酒の問題がある方こそ受けるべき内視鏡検査について、詳しく解説します。
📚 脂肪肝・メタボ・内視鏡・アルコール シリーズ(全5回)
本シリーズは五藤良将理事長と玉井博修院長の共同企画です。「メタボから脂肪肝、そしてアルコール」までを横断的に解説しています。
👨⚕️ 玉井院長 就任ブログ(プロフィール・経歴詳細)
本シリーズの監修者・玉井博修院長の詳しいプロフィール、川崎市立川崎病院での経歴、専門医・指導医資格、担当スケジュール、内視鏡検査の流れなどをご覧いただけます。
🔗 関連する過去記事
・World Health Organization. AUDIT: The Alcohol Use Disorders Identification Test. 2nd ed. Geneva: WHO; 2001.
・厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月19日)
・日本アルコール・アディクション医学会/日本アルコール関連問題学会「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」(2018)
・独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター(旧久里浜アルコール症センター) KAST関連資料
・Ewing JA. Detecting alcoholism. The CAGE questionnaire. JAMA. 1984;252(14):1905-1907.
・大塚製薬・H. Lundbeck社 セリンクロ錠10 mg 添付文書(2019年承認)
・WHO. International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th Revision (ICD-10).
本記事のスクリーニングテストはセルフチェックを目的とした啓発資料であり、医学的診断に代わるものではありません。最終的な診断・治療方針は、医師の診察に基づいて決定されます。すでに離脱症状(手の震え・発汗・幻覚など)が出ている方は、自己判断で減酒・断酒を試みず、必ず医師の管理下で治療を開始してください。
監修:五良会クリニック白金高輪 院長 玉井博修(たまい ひろなお)
企画・編集:医療法人社団五良会 理事長 五藤良将
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