糖尿病で骨密度が正常でも骨折しやすいのはなぜ|FRAX®の限界とTBS(骨質)による骨折リスク評価【骨粗鬆症×糖尿病 続編】
医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症/日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医)
前回の記事「健診で『骨密度が低い』と言われたら」では、骨粗鬆症の診断基準と、糖尿病があると骨密度の数値が正常でも骨折しやすくなるという見落とされがちな事実をお伝えしました。今回は、その続編として、糖尿病の方の骨折リスクをどう評価し、どう治療につなげるかを、もう一歩踏み込んで解説します。
キーワードは、骨折リスク評価ツール「FRAX®」と、骨質を数値化する「TBS(Trabecular Bone Score)」です。実は、糖尿病の方ではFRAX®だけでは骨折リスクを低く見積もってしまうことが知られています。白金高輪(港区)の当院(五良会クリニック白金高輪・東京メトロ南北線・都営三田線「白金高輪駅」2番出口 徒歩1分)の理事長・五藤良将が、糖尿病診療の立場から、TBSの仕組みと臨床的な使いどころ、そして骨折リスクが高い方の治療薬の選び方までを整理します。
② おさらい|骨折リスク評価ツール「FRAX®」とは
③ 見落とされがちな限界|2型糖尿病ではFRAX®が骨折リスクを過小評価する
④ TBS(Trabecular Bone Score)とは|DXA画像から「骨質」を読み解く
⑤ TBSの測定原理|同じDXA画像を、違うアルゴリズムで解析する
⑥ 保険適用の状況|TBSは現時点で自費検査です
⑦ 糖尿病患者に特有のパターン|骨密度は正常、でもTBSは低い
⑧ FRAX®×TBSを組み合わせる意義|骨折予測精度の向上
⑨ TBSを踏まえた治療開始・薬剤選択の考え方
⑩ 骨代謝マーカー(P1NP・TRACP-5b)との使い分け
⑪ 骨折リスクが高い糖尿病患者の治療薬|イベニティ(ロモソズマブ)を中心に
⑫ 当院でできること|糖尿病内科としての骨の総合評価
⑬ 理事長コメント
⑭ よくあるご質問(FAQ・8問)
⑮ まとめ
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1. 結論:骨密度が正常でも、糖尿病では骨折リスクが高いことがあります
この記事の結論
① 骨折リスク評価ツール「FRAX®」は、2型糖尿病の骨折リスクを過小評価することが知られています
② その理由は、FRAX®の「続発性骨粗鬆症」の項目に1型糖尿病は含まれても、2型糖尿病は含まれていないためです
③ 骨梁(こつりょう)の微細構造から骨質を評価するTBS(Trabecular Bone Score)を組み合わせることで、骨密度だけでは見えにくいリスクを補えます
④ 骨折リスクがとくに高い方には、骨をつくる働きを持つ薬(骨形成促進薬)が治療の選択肢になります
前回の記事でお伝えしたとおり、2型糖尿病では骨密度そのものは正常でも、骨質(骨の「しなり」やねばり強さ)が低下することで骨折リスクが上がることが知られています。骨密度の測定だけに頼っていると、本当は骨折しやすい方を「問題なし」と見過ごしてしまう可能性があるのです。この記事では、その骨質をどう評価し、治療にどうつなげるかを掘り下げます。
2. おさらい|骨折リスク評価ツール「FRAX®」とは
FRAX®(Fracture Risk Assessment Tool:骨折リスク評価ツール)は、英国シェフィールド大学(WHO骨粗鬆症協力センター)が開発した、今後10年間に骨折が起こる確率を推定するツールです。日本骨粗鬆症学会のウェブサイトでも公開されており、年齢・性別・体格(身長・体重)に加え、以下のような危険因子を入力して計算します。
| 入力項目 | 内容 |
|---|---|
| 既存骨折歴 | 40歳以降の脆弱性骨折の有無 |
| 両親の大腿骨近位部骨折歴 | 家族歴として入力 |
| 喫煙・過度な飲酒 | 現在の喫煙、1日3単位以上の飲酒 |
| ステロイド使用・関節リウマチ | グルココルチコイドの使用歴、関節リウマチの診断 |
| 続発性骨粗鬆症 | 1型糖尿病、骨形成不全症、未治療の甲状腺機能亢進症、性腺機能低下症・早発閉経、慢性的な栄養失調・吸収不良、慢性肝疾患 |
| 大腿骨頸部骨密度(任意) | DXA法で測定した値を入力するとさらに精度が上がる |
これらを入力すると、今後10年間の「主要骨粗鬆症性骨折(脊椎・前腕・上腕骨・大腿骨近位部)」および「大腿骨近位部骨折」の確率が算出され、薬物治療を開始する目安の一つとして活用されています。
3. 見落とされがちな限界|2型糖尿病ではFRAX®が骨折リスクを過小評価する
見落としやすいポイント
前章の表をよく見ると、続発性骨粗鬆症の項目に「1型糖尿病」はあっても「2型糖尿病」はありません。これは見落としではなく、FRAX®開発当時、2型糖尿病を独立した危険因子として組み込むだけの十分なデータが揃っていなかったためです。しかし現在では、2型糖尿病があると同じ入力条件でもFRAX®が実際より骨折リスクを低く算出してしまうことを示すデータが蓄積しており、国内のガイドラインでもこの限界が指摘されています。
この過小評価への実務的な対応として、FRAX®の「関節リウマチ」の項目を「あり」として計算し、骨折リスクを上方修正して参考にするという運用上の工夫が、一部の専門家から提案されています。関節リウマチも骨密度に比して骨折リスクが高くなる病態であるため、その代用として扱う考え方です。ただし、これはあくまで臨床現場での実務的な工夫であり、正式に確立された補正方法ではありません。より根本的な補完策として、次章で解説するTBSや、TBSによる調整機能を組み込んだ次世代ツール「FRAXplus®」(2024年以降に順次公開)の活用が注目されています。
4. TBS(Trabecular Bone Score)とは|DXA画像から「骨質」を読み解く
TBS(Trabecular Bone Score:骨梁スコア)は、腰椎のDXA画像に写る骨梁(骨の内部の網目状の構造)のテクスチャー(きめ)を解析し、骨質を間接的に数値化する指標です。骨密度(BMD)が「骨の量」を表すのに対し、TBSは骨の内部構造の緻密さ・粗さという「骨の質」の一側面を評価します。
日本人女性を対象とした基準値では、TBS 1.310以上を正常、1.230〜1.310を骨質やや低下(部分的劣化)、1.230以下を骨質の明らかな低下(劣化)とする目安が示されています(若年成人平均のTBSは約1.488、標準偏差0.070)。骨密度が正常範囲でも、TBSが低い方は骨折リスクが高いと判断されます。
5. TBSの測定原理|同じDXA画像を、違うアルゴリズムで解析する
TBSの大きな特長は、骨密度測定用に撮影した腰椎(L1〜L4)のDXA画像をそのまま利用できる点です。新たな検査や追加の被ばくは必要ありません。専用の解析ソフトウェア(TBS iNsight™など)が、DXA画像の各ピクセルの明るさの「空間的なばらつき(テクスチャー)」を解析し、スコア化します。
BMDとTBSの違い
骨密度(BMD)は、画像内の骨の濃淡(X線の吸収量)を面積あたりで積算した値です。一方TBSは、ピクセルごとの明るさの変動パターン(骨梁が密で均一か、粗くまばらか)を解析します。同じDXA画像から、「量」と「質」という異なる情報を取り出せる点がポイントです。
6. 保険適用の状況|TBSは現時点で自費検査です
DXA法による骨密度測定は、対象となる方であれば健康保険が適用されますが(自己負担の目安はおおむね数千円程度)、TBS解析は2026年8月現在、日本国内で公的医療保険の適用対象になっていません。TBS対応ソフトウェアを備えたDXA装置がある医療機関で、自費検査として実施されているのが実情で、実施施設によって料金は異なります。
⚠️ TBS対応DXA装置の設置状況
TBS解析には専用ソフトウェアを搭載したDXA装置が必要で、すべての医療機関に導入されているわけではありません。当院では骨密度の入り口の検査としてMD法をご案内しており、DXA法による精密な骨密度測定・TBS評価をご希望の方には、対応可能な連携医療機関をご紹介しています。
7. 糖尿病患者に特有のパターン|骨密度は正常、でもTBSは低い
複数の研究で、2型糖尿病の方は、非糖尿病の方と比べて骨密度(BMD)が同程度、あるいはむしろ高めであるにもかかわらず、TBSは有意に低いという一貫したパターンが報告されています。これは、高血糖による終末糖化産物(AGEs)の骨コラーゲンへの蓄積や、インスリン作用不足による骨形成の低下が、骨密度の数値には反映されにくい「骨のねばり強さ」を損なっているためと考えられています。
同じ骨密度でも、TBSが低いほど骨折リスクは上がる
同じBMD値の方同士を比べても、TBS値が低いグループほど骨折リスクが高くなることが示されています。糖尿病の方は「骨密度検査で異常なし」と言われても、この骨質の低下が背景に隠れている可能性がある、という点が最大の注意点です。
8. FRAX®×TBSを組み合わせる意義|骨折予測精度の向上
TBSは、FRAX®で算出された骨折確率に対する調整因子(TBS adjustment)として用いることができます。国際的な骨密度測定の専門学会である国際臨床骨密度学会(ISCD)の公式見解(2023年)でも、TBSは骨密度や既存の臨床的危険因子から得られる情報を補完し、骨折予測の精度を高める独立した指標として位置づけられています。
とくに2型糖尿病のようにFRAX®単独では骨折リスクが過小評価されやすい集団では、TBSを併用することで、骨密度の数値だけでは見えなかったリスクの高さを補正できる可能性があります。前述の次世代ツール「FRAXplus®」では、TBSの値を直接入力してリスクを再計算する機能が組み込まれており、こうした補正がより体系的に行えるようになってきています。
9. TBSを踏まえた治療開始・薬剤選択の考え方
TBSの結果は、単独で治療方針を決めるものではなく、骨密度・既存骨折歴・FRAX®による骨折確率とあわせて総合的に判断する材料として使われます。実際の臨床では、おおむね以下のような考え方が参考にされています。
| 状況 | 考え方の一例 |
|---|---|
| 骨密度は骨量減少レベルだが、TBSも低下 | 骨密度の数値以上にリスクが高いと考え、治療開始のタイミングを前倒しで検討 |
| 骨密度は正常だが、TBSが明らかに低下(1.230以下) | 糖尿病罹病期間・血糖コントロール状況・転倒歴などとあわせ、経過観察の間隔を短くする、生活指導を強化するなどの対応を検討 |
| 脆弱性骨折歴があり、TBSも低下 | 骨折リスクが高い集団として、骨形成促進薬を含めた積極的な薬物治療を検討 |
10. 骨代謝マーカー(P1NP・TRACP-5b)との使い分け
前回の記事でも触れた骨代謝マーカー(骨形成マーカーのP1NP、骨吸収マーカーのTRACP-5bなど)は、TBSやFRAX®と役割が異なります。TBS・FRAX®は「今、どれくらい骨折しやすいか」を評価するスナップショットであるのに対し、骨代謝マーカーは「治療を始めてから、骨の代謝がどう変化しているか」を追跡する指標です。
使い分けのイメージ
① 治療を始めるかどうかの判断:骨密度+TBS+FRAX®(骨折歴・危険因子)で総合評価
② 治療を始めた後の効果判定:P1NP・TRACP-5bなどの骨代謝マーカーを3〜6カ月ごとに確認
③ 数年単位の骨密度の変化:DXA法での再測定(TBSも同時に再評価可能)
11. 骨折リスクが高い糖尿病患者の治療薬|イベニティ(ロモソズマブ)を中心に
TBSやFRAX®を組み合わせた評価で骨折リスクが高いと判断された方には、骨吸収を抑えるだけでなく骨をつくる働きを併せ持つ薬剤が選択肢になります。その代表がロモソズマブ(商品名:イベニティ皮下注105mgシリンジ、2019年1月8日PMDA承認)です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作用機序 | 抗スクレロスチンモノクローナル抗体。骨形成促進と骨吸収抑制の両方の作用を併せ持つ |
| 対象 | 「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」。骨密度・既存椎体骨折の重症度分類などをもとに医師が判断 |
| 用法用量 | 210mgを月1回、12カ月間皮下投与。自己注射はできず、医療機関で医師・看護師が投与する必要があり、月1回の通院が前提となる |
| 安全性上の注意 | 虚血性心疾患・脳血管障害のリスクが指摘されており、これらの既往が直近にある方は投与を避けることとされている。心血管系の既往がある方は他剤を優先して検討 |
| 投与終了後 | 12カ月の投与終了後は、獲得した骨密度を維持するため、原則としてデノスマブやビスホスホネート製剤など骨吸収抑制薬へ切り替える(逐次療法)ことが推奨される |
当院での導入検討について
当院グループでは、骨折リスクが高い糖尿病の方への治療選択肢を広げる観点から、イベニティの導入を検討しています。導入にあたっては、対象患者基準の院内プロトコル化、心血管リスクの事前スクリーニング、冷所保存(2〜8℃・遮光)の在庫管理体制、投与終了後のスイッチ治療計画など、体制面の準備を進めている段階です。具体的な導入時期は未定ですが、準備が整い次第あらためてご案内いたします。
血糖・血圧・脂質に加え、骨折リスクを含めた包括的な合併症管理をご提案します。
✅ 健診で骨密度低下・骨量減少を指摘された方
✅ 骨粗鬆症の治療薬の選び方を相談したい方
✅ インスリン導入・離脱、転倒予防を含めた総合的な管理を希望の方
12. 当院でできること|糖尿病内科としての骨の総合評価
当院では、糖尿病で通院中の方に対して、MD法による骨密度の入り口の検査、血液検査による続発性骨粗鬆症の原因検索、骨代謝マーカー(P1NP・TRACP-5b)による評価をご案内しています。DXA法での精密な骨密度測定・TBS評価が必要な場合は、対応可能な連携医療機関をご紹介し、結果をもとに当院で治療方針をご相談いただく体制をとっています。
「血糖コントロールは良好だから骨は大丈夫」と自己判断せず、糖尿病の通院のついでに、一度骨の話も相談してみることをおすすめします。
13. 理事長コメント
14. よくあるご質問(FAQ・8問)
15. まとめ
✅ そのため2型糖尿病ではFRAX®が骨折リスクを過小評価することが指摘されています
✅ TBS(Trabecular Bone Score)は、DXA画像の骨梁パターンから骨質を評価する指標で、骨密度とは異なる情報を提供します
✅ 糖尿病の方では骨密度が正常でもTBSが低値を示すパターンが報告されています
✅ TBSは現時点で公的医療保険の適用外(自費検査)です
✅ FRAX®とTBSを組み合わせることで、骨密度だけでは見えにくい骨折リスクをより正確に評価できます
✅ 骨折リスクが高い方には骨形成促進薬(イベニティ=ロモソズマブなど)が選択肢になります。イベニティは月1回・12カ月間の医療機関投与で、心血管リスクへの注意と投与終了後のスイッチ治療が必要です
✅ 治療開始後の効果判定には骨代謝マーカー(P1NP・TRACP-5b)を活用します
✅ 当院では、MD法での入り口の検査から、DXA法・TBS評価が可能な医療機関のご紹介まで、糖尿病内科として骨の総合評価に対応しています
2. 厚生労働科学研究費補助金 検診マニュアル資料「骨折リスク評価ツール(FRAX)」
3. FRAXplus® よくあるご質問(fraxplus.org)2024年以降のTBS調整機能に関する記載
4. 国際臨床骨密度学会(ISCD)”Clinical Use of Trabecular Bone Score: The 2023 ISCD Official Positions”
5. TBS iNsight™ 製品情報(GEヘルスケア・東洋メディック等、DXA画像からのTBS算出原理に関する資料)
6. 日本人女性を対象としたTBS基準値に関する報告(若年成人平均TBS 1.488±0.070、カットオフ値1.310/1.230の目安)
7. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版に関連する2型糖尿病とFRAX®過小評価の指摘(複数の専門家解説・医療機関資料で確認)
8. イベニティ皮下注105mgシリンジ(ロモソズマブ)添付文書、PMDA医療用医薬品情報(2019年1月8日承認、直近改訂2026年7月15日を確認)
9. Amgen「イベニティの適正使用について」RMP関連資材(2026年7月28日更新分を確認)
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の診断・治療方針を示すものではありません。TBS・FRAX®の評価結果の解釈や治療薬の選択は、必ず医師にご相談のうえ判断してください。TBSの保険適用状況・実施施設は変更される場合があります。
| 内科 | 小児科 | 消化器内科 | 血液内科 | 内視鏡 |
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