MASLD・MASH(旧NAFLD・NASH)—2023年新基準で変わった脂肪肝の診断と治療【肝臓専門医・玉井院長監修】
監修
五良会クリニック白金高輪 院長 玉井 博修(たまい ひろなお)
専門:消化器内科・肝臓内科・消化器内視鏡/慶應義塾大学医学部卒業/慶應義塾大学病院・立川共済病院・大和市立病院・慶應義塾大学医学部消化器内科を経て独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター(旧・久里浜アルコール症センター)勤務歴/1999年より川崎市立川崎病院 内科 副医長・医長/2008年より同院 肝臓内科 部長/2012年より同院 消化器内科 部長/2026年4月 五良会クリニック白金高輪 院長 就任/日本内科学会 総合内科専門医・指導医/日本消化器病学会 専門医・指導医/日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医/日本肝臓学会 専門医・指導医
企画・編集
医療法人社団五良会 理事長 五藤良将
五良会クリニック白金高輪 院長の玉井博修(たまい ひろなお)です。本記事は、医療法人社団五良会 理事長 五藤良将による第1回『健診で脂肪肝・γGTP高めと言われたら』(基本編)に続く、シリーズ第2回・専門編です。
2023年6月、米国・欧州・アジア太平洋の3大肝臓学会(AASLD・EASL・ALEH)が共同で、長年使われてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」という名称を廃止し、新しい名称「MASLD」「MASH」「MetALD」を採用することに合意しました(Delphi consensus)。
「名前が変わっただけでしょう?」と思われるかもしれませんが、これは診断・治療・研究のあり方を根本から変える大きな転換です。本記事では、肝臓専門医として川崎市立川崎病院で長年臨床に携わってきた立場から、新名称の本質的な意味と、最新の診断アルゴリズム、治療選択肢、そして当院+五良ファミリークリニックセンター南でのFibroScan連携体制について解説します。
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【新院長就任】川崎市立川崎病院 元・消化器内科部長 玉井博修医師が就任しました
慶應義塾大学医学部卒業後、川崎市立川崎病院で肝臓内科部長(2008年〜)・消化器内科部長(2012年〜)を歴任し、2026年4月に五良会クリニック白金高輪 院長に就任。久里浜医療センター勤務歴あり。詳しい経歴・専門医資格・担当外来情報は院長就任ブログをご覧ください。
目次
なぜ名称が変わったのか—2023年Delphi合意の背景
従来の「NAFLD(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease:非アルコール性脂肪性肝疾患)」という名称には、長年いくつかの問題が指摘されてきました。
旧名称(NAFLD/NASH)の問題点
- 「Non-Alcoholic(非アルコール性)」という否定形での定義:アルコールを基準にしか脂肪肝を定義できていない
- 「Non-Alcoholic」が患者を傷つけることがある:「私はお酒を飲まないのに、なぜこの名前なのか」と感じる方が多い
- 適度な飲酒者の扱いが曖昧:日本では「お酒も飲むしメタボもある」患者が圧倒的多数だが、従来は分類が困難だった
- 代謝異常という本質を表現していない:肥満・糖尿病・脂質異常などが原因なのに、名称には反映されない
これらの問題に対応するため、2020年から世界の肝臓専門医236名が参加するDelphi法(合意形成手法)による議論が続けられ、2023年6月の3学会合同声明(Hepatology誌掲載)で新名称が確定しました。
新名称の整理:MASLD・MASH・MetALD・ALD
2023年合意で導入された主な新名称を整理します。
脂肪性肝疾患の新分類(2023年)
| 新名称 | 日本語名 | 旧名称 | 飲酒量 |
|---|---|---|---|
| SLD | 脂肪性肝疾患(総称) | FLD | 問わない(包括的) |
| MASLD | 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患 | NAFLD | 男性30 g/日未満 女性20 g/日未満 |
| MASH | 代謝機能障害関連脂肪性肝炎 | NASH | 同上 |
| MetALD | 代謝・アルコール関連脂肪性肝疾患 | (新概念) | 男性30〜60 g/日 女性20〜50 g/日 |
| ALD | アルコール関連肝疾患 | 同名 | 男性60 g/日超 女性50 g/日超 |
※純アルコール量の目安:ビール500 ml=20 g/日本酒1合(180 ml)=22 g/焼酎(25%)100 ml=20 g/ワイン200 ml=20 g/ウイスキー60 ml=20 g
最大の変化:『MetALD』という新概念の登場
日本人の脂肪肝患者を診療していて最も実感するのが、「メタボもあるけど、付き合いでお酒もそれなりに飲む」という『中間層』の多さです。従来のNAFLD/ALDという二分法では、こうした方々を適切に分類できませんでした。新分類ではMetALD(メットエーエルディー)という独立カテゴリーとして位置づけられ、代謝とアルコールの両方からアプローチする治療戦略が立てやすくなりました。詳細は第3回『アルコール性脂肪肝(ALD・MetALD)—減酒という選択肢』で解説します。
MASLDの診断基準—『心代謝リスク因子』の確認
MASLDと診断するには、①画像または組織で脂肪肝が確認され、かつ②心代謝リスク因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)を1つ以上保有することが必要です。
MASLD診断のための心代謝リスク因子(成人)
| 領域 | 基準 |
|---|---|
| 肥満 | BMI 25以上 もしくは ウエスト周囲径 男性94 cm以上/女性80 cm以上 |
| 糖代謝異常 | 空腹時血糖 100 mg/dL以上 もしくは 食後2h血糖 140 mg/dL以上 もしくは HbA1c 5.7%以上 もしくは 糖尿病治療中 |
| 血圧 | 130/85 mmHg以上 もしくは 降圧薬服用中 |
| 中性脂肪 | 150 mg/dL以上 もしくは 脂質低下薬服用中 |
| HDLコレステロール | 男性40 mg/dL以下/女性50 mg/dL以下 もしくは 脂質低下薬服用中 |
出典:Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;78(6):1966-1986.
診断アルゴリズム—FIB-4 → FibroScan の段階的評価
脂肪肝が見つかった次に重要なのは、「線維化が進んでいるかどうか」の判定です。線維化が進行した状態(特にF3〜F4)では、肝硬変・肝がんへのリスクが格段に高まります。最新ガイドラインでは、非侵襲的検査による段階的評価が推奨されています。
脂肪肝の線維化評価アルゴリズム
STEP 1:FIB-4 indexの計算(採血のみ)
計算式:年齢 × AST ÷ (血小板数 × √ALT)
1.3未満:低リスク(経過観察)/1.3〜2.67:中等度(FibroScan推奨)/2.67以上:高リスク(専門医紹介)
STEP 2:FibroScan(肝硬度測定)
LSM 8 kPa未満:F0-F1(線維化なし〜軽度)/8〜12 kPa:F2(中等度)/12 kPa以上:F3-F4(高度/肝硬変疑い・専門医紹介)
当院では同じ医療法人グループの五良ファミリークリニックセンター南で実施可能
STEP 3(必要時):高次医療機関での精査
MRエラストグラフィ・ELF検査・肝生検など。高次医療機関(大学病院等)と連携。
FibroScanとは何か—痛みのない肝硬度測定
FibroScan(フィブロスキャン)は、肝臓の硬さ(線維化の程度)と脂肪量(CAP値)を、超音波の特殊な技術で痛みなく10〜15分で測定できる検査機器です。フランスEchosens社が開発し、国際的に脂肪肝・肝炎の評価標準として使われています。
FibroScanの特徴
| 所要時間 | 10〜15分(実測5分程度) |
| 侵襲性 | 非侵襲(痛みなし・出血なし・薬剤なし) |
| わかること | ①肝硬度(LSM:kPa)→ 線維化の程度 ②脂肪量(CAP:dB/m)→ 脂肪化の程度 |
| 検査前準備 | 3時間以上の絶食推奨(食事の影響を避けるため) |
| 当院グループでの対応 | 五良ファミリークリニックセンター南にて検査可能。白金高輪での診察→センター南でのFibroScan→結果フォローまで一貫対応 |
治療:生活習慣・薬物療法(GLP-1、レスメチロム)
MASLD/MASHの治療は生活習慣の改善が第一です。これに薬物療法を組み合わせることで、線維化の進行を止める・改善することが目指せます。
MASLD/MASHの治療階層
①基本:体重減少(最も強力なエビデンス)
体重の5%減で脂肪化が改善、7〜10%減で炎症と線維化が改善することが多くの研究で示されています。
②運動療法
週150分以上の中等度有酸素運動+週2〜3回のレジスタンス運動。減量を伴わなくても肝脂肪化を改善する報告があります。
③食事療法
地中海食パターン(オリーブオイル・魚・野菜・果物・全粒穀物中心)が推奨されます。果糖(清涼飲料水・菓子)の制限は重要。
④併存疾患の治療
糖尿病・脂質異常症・高血圧の管理。GLP-1受容体作動薬(セマグルチド等)は減量効果と肝改善効果の両方が期待できます。
⑤MASH特異的薬剤
米国FDAは2024年3月、世界初のMASH治療薬としてレスメチロム(Resmetirom/商品名:Rezdiffra)を承認しました。日本国内での承認は今後の動向に注目が集まっています。それまでの間、ビタミンE等の選択肢が用いられます。
当院+五良ファミリークリニックセンター南のシームレス連携
五良会クリニック白金高輪では、脂肪肝・肝機能異常に対して以下のような流れで対応しています。
五良会グループでの脂肪肝診療フロー
| ①初診 白金高輪 |
問診(生活習慣・飲酒量・既往歴)/採血(AST・ALT・γGTP・血小板・脂質・血糖・HbA1c等)/腹部エコー/FIB-4 index計算 |
| ②結果説明 白金高輪 |
FIB-4結果に応じてリスク評価。生活指導開始。必要時はFibroScan予約 |
| ③精査 センター南 |
五良ファミリークリニックセンター南でFibroScan実施。LSM・CAP値で線維化と脂肪化を客観評価 |
| ④治療方針 白金高輪 |
線維化軽度:生活指導+経過観察/中等度:薬物療法併用/高度:高次医療機関へ紹介 |
| ⑤継続フォロー 白金高輪 |
3〜6ヶ月毎の採血、年1回の腹部エコー/FibroScan。アルコール関連が疑われれば玉井院長による減酒外来も併設 |
院長から:肝臓専門医として伝えたいこと
私は川崎市立川崎病院で2008年より肝臓内科部長、2012年より消化器内科部長として、数えきれないほどの脂肪肝・肝硬変・肝がんの患者さんと向き合ってきました。多くの患者さんに共通していたのは、「もう少し早く来てくれていれば」という思いです。
脂肪肝はかつて「予備軍」と軽く扱われていましたが、現在では2030年までに肝移植の主要原因になると予測されている深刻な疾患です(米国の予測モデル)。一方で、早期に発見し、生活習慣を見直し、必要なら薬物療法を加えれば、十分にコントロール可能な疾患でもあります。
「健診で脂肪肝と言われたけど、症状もないし大丈夫」と思っているあなたに、肝臓専門医として強くお伝えしたいのは、「FIB-4を計算してみてください、そして1.3を超えていたら一度ご相談ください」ということです。FIB-4は採血結果さえあれば、当院でも、ご自宅でもネット計算機で簡単に出せます。
次回・第3回では、アルコール性脂肪肝(ALD・MetALD)と『減酒』という選択肢について、私自身が久里浜医療センター(旧久里浜アルコール症センター)で学んだ知見を踏まえて解説します。
📚 脂肪肝・メタボ・内視鏡・アルコール シリーズ(全5回)
本シリーズは五藤良将理事長と玉井博修院長の共同企画です。「メタボから脂肪肝、そしてアルコール」までを横断的に解説しています。
👨⚕️ 玉井院長 就任ブログ(プロフィール・経歴詳細)
本シリーズの監修者・玉井博修院長の詳しいプロフィール、川崎市立川崎病院での経歴、専門医・指導医資格、担当スケジュール、内視鏡検査の流れなどをご覧いただけます。
🔗 関連する過去記事
・Rinella ME, et al. A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature. Hepatology. 2023;78(6):1966-1986. PMID: 37363821
・European Association for the Study of the Liver (EASL), EASD, EASO. EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on the management of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease (MASLD). J Hepatol. 2024;81(3):492-542.
・American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD). Practice Guidance on the clinical assessment and management of nonalcoholic fatty liver disease. Hepatology. 2023.
・日本消化器病学会・日本肝臓学会『NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)』
・米国FDA. Madrigal Pharmaceuticals’ Rezdiffra (resmetirom) approval announcement. March 14, 2024.
・Echosens社 FibroScan® 公式技術資料
監修:五良会クリニック白金高輪 院長 玉井博修(たまい ひろなお)
企画・編集:医療法人社団五良会 理事長 五藤良将
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