なぜベルソムラは「夜中に目が覚める」に強いのか──効果持続時間と受容体占有率から読み解く|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

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なぜベルソムラは「夜中に目が覚める」に強いのか──効果持続時間と受容体占有率から読み解く|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

なぜベルソムラは「夜中に目が覚める」に強いのか──効果持続時間と受容体占有率から読み解く

医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
前回の記事「オレキシン受容体拮抗薬という睡眠薬」で、ベルソムラ®(一般名:スボレキサント)は、夜中に目が覚めてしまった患者さんが再び眠りに戻るまでの時間を短くする働きが強いとご紹介しました。診療の場でも「夜中に目は覚めるけれど、前ほど眠れないまま長時間ぼんやりしていることがなくなった」というお声を、実際に多くいただいています。
では、なぜそうなるのでしょうか。今回は続編として、「効果がどのくらいの時間持続するか」という薬物動態と、「受容体をどれだけふさぐ必要があるか」という受容体占有率という2つの切り口から、中途覚醒(夜中に目が覚めること)に対するベルソムラの働きを掘り下げます。少し専門的な数値も出てきますが、ご自身の睡眠薬を理解するうえで役に立つ内容だと思いますので、図表を追いながら読み進めていただければ幸いです。

1. 「中途覚醒」は回数ではなく“1回の長さ”の問題

最初に、多くの方が誤解されている点をお伝えします。夜中に目が覚めること自体は、不眠症の方に限った現象ではありません。ぐっすり眠れていると感じている健康な方でも、脳波を記録すると一晩に何度も短い覚醒が起きています。寝返りを打つとき、物音がしたとき、部屋の温度が変わったとき──脳は数十秒から1〜2分ほど目を覚まし、そしてすぐに眠りに戻っています。本人はそれをまったく覚えていません。
不眠症で悩まれている方との違いは、「目が覚めた回数」ではなく「1回の覚醒がどこまで長引くか」にあります。目が覚めたあと、そのまま10分、30分、1時間と眠れない時間が続く。これが「中途覚醒がつらい」の正体です。
用語のご説明:WASO(ウェイソ)
睡眠の研究では、寝ついたあとに目が覚めていた合計時間を WASO(Wake After Sleep Onset:中途覚醒時間) と呼びます。WASOは「目が覚めた回数 × 1回あたりの長さ」で決まります。つまりWASOを短くする方法は、理屈のうえでは2通りあることになります。

2. 臨床データ:長い覚醒だけが短くなっていた

ベルソムラがWASOを短くするとき、「回数」と「長さ」のどちらを減らしているのか。これを直接調べた研究があります。海外の第III相試験に参加した不眠症患者1,518名の終夜睡眠ポリグラフ検査(脳波記録)を、覚醒エピソードの長さ別に分解して解析したものです。
🔬 エビデンス:ベルソムラは「長い覚醒」を選択的に減らす
プラセボ(偽薬)と比べたときのスボレキサントの作用は、次のようなものでした。

2分を超える「長い覚醒」の回数と時間が減少し、投与初夜では長い覚醒に費やされた時間が32〜54分短縮
✅ 一方、2分以下の「短い覚醒」はむしろ増加(時間にして2〜6分の増加)
✅ その晩いちばん長かった覚醒から再び眠りに戻るまでの時間は、平均してプラセボの2倍以上速かった
✅ 長い覚醒時間が減ったことは、翌朝の「睡眠の質が良い/非常に良い」という自己評価のオッズ比 1.59〜2.19 に結びついていた

出典:Svetnik V, Snyder ES, Tao P, Scammell TE, Roth T, Lines C, Herring WJ. Insight Into Reduction of Wakefulness by Suvorexant in Patients With Insomnia: Analysis of Wake Bouts. Sleep. 2018;41(1):zsx178. PMID: 29112763

つまり「目が覚める回数そのものを減らしているのではなく、目が覚めたあとの立ち往生をなくしている」のです。これは、私が外来で患者さんから伺うお話とぴったり一致します。「目は覚めるんですが、気がついたらまた寝ています」というご感想は、まさにこのデータの通りの現象なのです。
興味深いことに、この研究では同時にゾルピデム(マイスリー®などの成分名)との比較も行われています。ゾルピデムでは、長い覚醒も短い覚醒も、そして睡眠のまとまりも、あらゆる長さのものが一様に減っていました。しかもその作用は夜の前半に偏っていました。同じ「よく眠れる薬」でも、作用の質と効く時間帯が根本的に違うということです。

3. なぜ長い覚醒だけが短くなるのか(しくみ)

ここでオレキシンの役割を正確に理解しておく必要があります。オレキシンは「目を覚まさせるスイッチ」というより、「目が覚めた状態を増幅し、固定するアンプ」に近い物質です。脳の覚醒に関わるさまざまな神経系(青斑核、結節乳頭核、縫線核など)に同時に信号を送り、いったん立ち上がった覚醒をロックする役目を担っています。

薬がない場合に夜中に起きていること

段階 脳で起きていること
きっかけ 尿意・物音・寝返り・悪い夢などで、ごく短い覚醒が生じる(誰にでも起こる)
増幅 オレキシン系に点火し、覚醒が立ち上がって「固定」される
長期化 頭が冴えてしまい、時計を見て焦り、「眠らなければ」という不安がさらに覚醒を強める
✅ オレキシン受容体拮抗薬が効く場所
ベルソムラは、この「増幅」の段階をブロックします。目が覚めるきっかけ自体はなくなりませんが、覚醒が立ち上がらないため、短い覚醒のまま自然に眠りに戻るのです。だからこそ、短い覚醒はむしろ増え、長い覚醒だけが減る、という一見不思議なデータが得られるわけです。

これに対して従来のベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZドラッグ)は、脳全体に「鎮静を上乗せ」する方式です。覚醒の発生そのものも含めて一律に抑えるため、作用の出方がまったく異なります。

⚠️ 「地震や火事に気づけますか?」というご質問について
よくいただくご心配です。サルを用いた研究では、オレキシンの働きを抑えた状態でも、本当に意味のある刺激に対しては目覚める能力が保たれることが報告されています(Tannenbaum PL, et al. Sleep. 2016;39(3):603-612)。ただし、これは動物実験の結果であり、また睡眠薬全般として服用中の転倒などには注意が必要です。

4. 効果持続時間のカギ「受容体占有率65%」

ここからが今回の記事の核心です。ベルソムラが夜の後半まで効き続けられる理由は、「受容体をどれだけふさぐ必要があるか」という閾値(しきいち)の高さにあります。
オレキシン受容体拮抗薬の開発過程を報告した基礎研究(Gotter AL, et al. BMC Neurosci. 2013;14:90)では、ラットとイヌを用いて、血液中の薬物濃度・脳内でのオレキシン2受容体(OX2R)の占有率・実際の睡眠促進効果の三者の関係が詳しく調べられました。
薬のタイプ 効果が出るのに必要な受容体占有率 作用のしかた
オレキシン受容体拮抗薬
(ベルソムラなど)
およそ65〜80%以上 覚醒物質の働きを「打ち消す」ため、大部分の受容体をふさぐ必要がある
GABA-A受容体作動薬
(ベンゾジアゼピン系・Zドラッグ)
平均27%程度 受容体を活性化して信号を「増幅」するため、少ない占有率でも効果が出る
※ オレキシン受容体拮抗薬の占有率は、ヒト型OX2Rを発現させたラットを用いた実験からの推定値です。ヒトで直接測定されたものではありません。GABA-A受容体の27%という数値は、健常者を対象としたPET(陽電子放出断層撮影)研究の報告(Abadie P, et al. Eur J Pharmacol. 1996;295:35-44)に基づきます。
65%と27%。この差が、薬の性格をまるごと決めています。

5. 夜通し効くのに翌朝に残りにくい理由と、その限界

理由その1:閾値が高いからこそ、長い半減期が「必要」になった

必要な占有率が高いということは、朝まで効かせるには、血液中の薬物濃度を長時間その水準の上に保たなければならないということです。逆にいえば、半減期の短い薬ではこの閾値を朝まで維持できず、夜の後半に効果が切れてしまいます。これが、一部の睡眠薬で「寝つきは良くなったのに、明け方に目が覚めてしまう」(早朝覚醒)が起こるしくみです。
スボレキサントの薬物動態は、日本人での検討で空腹時の最高血中濃度到達時間(Tmax)が中央値2.0時間、半減期は約12時間と報告されています(PMDA審査報告資料)。海外の初期臨床試験でも見かけの終末相半減期は9〜13時間とされ、寝つきにも間に合い、なおかつ夜の後半まで閾値を維持できるという設計になっています。

理由その2:閾値を割った瞬間に効果は消える

🔬 エビデンス:投与から8時間で「効果の閾値」を下回る
ヒトでOX2R占有率65%に相当する血漿中濃度は0.33 μMと算出されました。第I相試験で実測された平均血漿中濃度は、10mg・20mgいずれの治療用量でも、投与から8時間後の時点でこの値を下回っていました。

つまり、血液中に薬がまだ残っていても、占有率が閾値を割れば睡眠促進効果は弱まるということです。これが「翌朝の持ち越しが比較的出にくい」とされる薬理学的な根拠です。ただし後述するとおり、これは持ち越しが起こらないという意味ではありません。

実際、サルを用いた実験では、同系統の化合物は投与17時間後にも血中濃度が測定できたにもかかわらず、翌日の睡眠・脳波・記憶・注意力のいずれにも影響しませんでした。一方でエスゾピクロン(ルネスタ®の成分名)は17時間後に535 nMが検出され、注意力の低下が認められています。

出典:Gotter AL, Winrow CJ, Brunner J, et al. The duration of sleep promoting efficacy by dual orexin receptor antagonists is dependent upon receptor occupancy threshold. BMC Neurosci. 2013;14:90.

理由その3:明け方には体のほうが「効果を打ち消しに来る」

これはとてもよくできたしくみです。体内のオレキシンは1日のなかで濃度が変動しており、明け方に向かって自然に増えていきます。ベルソムラは受容体の奪い合いをする「競合的」な拮抗薬なので、オレキシンが増えてくると、薬は受容体から押しのけられる方向に働きます。
薬の濃度が下がってくるのと、体内のオレキシンが増えてくるのと、両方が同時に起こる。だから覚醒すべき時間帯に向けて、効果が自動的に終息していきます。GABA-A受容体に作用する従来の睡眠薬には、この自己終息のしくみがありません。
補足:受容体から離れる速さも重要です
同じ研究では、化合物が受容体から離れる速さも比較されています。スボレキサントの解離半減期は89.4分でした。一方、開発が中止されたアルモレキサントという化合物は268分と極端に遅く、血液や髄液から薬が消えたあとも受容体の占有が10時間にわたって続き、効果が11時間持続してしまいました。離れるのが遅すぎると持ち越しが出るのです。スボレキサントは「占有率が血中濃度に素直に追随する」ちょうどよい速度を持っている、ということになります。

ただし「持ち越さない」わけではありません

ここまで「翌朝に残りにくい設計」とご説明してきましたが、残らないという意味ではありません。実際、スボレキサントで最も多く報告されている副作用は傾眠(日中の眠気)・疲労感であり、これは薬の働きがそのまま日中まで及んだものです。ここは正直にお伝えしておく必要があります。
⚠️ 平均値は安全でも、個人差があります
健康成人28名を対象とした実車運転試験では、車線のふらつきの平均値でみると、20mg・40mgのいずれでも臨床的に問題となる水準の影響は認められませんでした。

しかし内訳を見ると話が変わります。影響が基準値を超えた被験者のほうが多く、さらに女性4名が「眠くて安全に続けられない」として、合計5回の運転テストを途中で中止しています。研究者らは「平均的には臨床的に意味のある影響ではないが、翌日効果を経験する人がいる可能性がある」と結論づけました。

なお高齢者を対象とした別の試験(15mg・30mg)では、運転・認知・精神運動機能のいずれにも臨床的に意味のある残存効果は認められていません。

📌 日本の標準用量は、米国の上限にあたります
ここは知っておいていただきたい点です。米国での推奨用量は、高齢者・非高齢者を問わず10mgから開始し、最大20mgまでとされています。効果の面では40mgまで検討されていましたが、翌日の運転への影響を懸念して20mgが上限に設定されたという経緯があります。

一方、日本の用法・用量は成人20mg・高齢者15mgです。つまり日本の成人標準量は、米国の上限量と同じということになります。

このことは、日本での処方が不適切だという意味ではありません。承認は各国の臨床試験データに基づいて行われます。ただし「日本では最初から上限に近い量を使っている」という前提を、医師も患者さんも共有しておくべきだと私は考えています。眠気が残る場合に減量という選択肢があることも、この事実から見えてきます。

当院でのお願い
服用を始めた直後や増量した際は、翌日の運転や危険を伴う作業を控えてください。個人差が大きい部分です
● 日中の眠気が続く場合、我慢せずご相談ください。減量で改善することがあります
● 「効かないから」と自己判断で増やすことは絶対に避けてください
● アルコールとの併用は、眠気を強めるため避けてください
出典:Vermeeren A, Sun H, Vuurman EF, et al. On-the-Road Driving Performance the Morning after Bedtime Use of Suvorexant 20 and 40 mg: A Study in Non-Elderly Healthy Volunteers. Sleep. 2015;38(11):1803-1813./Vermeeren A, Vuurman EFPM, Leufkens TRM, et al. On-the-road driving performance the morning after bedtime use of suvorexant 15 and 30 mg in healthy elderly. Psychopharmacology. 2016;233(18):3341-3351.

6. 睡眠の質を壊さない──脳波でみた違い

「眠れた時間」だけでなく「眠りの中身」も大切です。同じ研究では、サルの休息期の脳波(定量脳波:qEEG)が詳しく比較されました。
薬剤 脳波への影響 翌日の認知機能
オレキシン受容体拮抗薬 深い眠りを示すデルタ波が増強。ガンマ波・シータ波はほぼ変化なし(生理的な睡眠に近い) 記憶・注意力とも障害なし
ジアゼパム
(ベンゾジアゼピン系)
高周波のガンマ波が増加、シータ波が抑制。本来の睡眠とは逆方向の変化 記憶・注意力ともに低下
エスゾピクロン
(Zドラッグ)
同じくガンマ波増加・シータ波抑制が休息期を通じて持続 注意力の低下あり
オレキシン受容体拮抗薬は「眠りをつくる」のではなく「覚醒を邪魔しないようにする」薬だという性格が、脳波にもはっきり表れています。なお、これは動物実験のデータであり、ヒトでの認知機能への影響については別途、個々の患者さんの状態をみながら評価する必要があります。

7. デエビゴ・クービビックとの使い分け

日本では現在、オレキシン受容体拮抗薬が複数使用できます。2014年のベルソムラを皮切りに、2020年にデエビゴ®(レンボレキサント)、2024年にクービビック®(ダリドレキサント)、そして2025年にボルズィ®(ボルノレキサント)が加わりました。同じ仲間の薬でありながら、体内での消え方が大きく異なるため、患者さんの不眠のタイプによって選び分けることができます。
項目 ベルソムラ®
(スボレキサント)
デエビゴ®
(レンボレキサント)
クービビック®
(ダリドレキサント)
国内承認日 2014年9月26日 2020年1月23日 2024年9月24日
薬価収載日 2014年11月25日
(10mgは2016年11月18日)
2020年4月22日 2024年11月20日
用法・用量 成人1日1回20mg
高齢者1日1回15mg
成人1日1回5mg
適宜増減、10mgを超えない
成人1日1回50mg
状態に応じ25mg
終末相半減期 約12時間 約49.6時間
(反復投与・外国人データ)
約8時間
向いていると
考えられる方
中途覚醒が主体で、夜通しの安定を重視したい方 寝つきの悪さと中途覚醒が併存し、夜間後半の覚醒が目立つ方 翌朝のすっきり感を最優先したい方、日中の活動性を重視する方
⚠️ この表の読み方に関する重要な注意
「終末相半減期」は効果の持続時間とイコールではありません。この記事で説明した通り、効果が続くかどうかは「受容体占有率が閾値を上回っているか」で決まります。血液中に薬が残っていても効果が消えていることは普通に起こります。デエビゴの半減期が長いことは、そのまま「翌朝まで効く」を意味するものではありません。
これら4剤を同じ条件で直接比較した臨床試験はありません。数値は別々の試験から引用したもので、優劣を示すものではありません。
● 最も新しいボルズィ®(ボルノレキサント、2025年8月25日承認・同年11月発売)は、血中からの消失が最も速い設計とされており、寝つきの悪さが中心の方への選択肢として位置づけられています。
● 実際の薬剤選択は、不眠のタイプ・年齢・肝機能・併用薬・お仕事の内容などを総合して医師が判断します。

8. 中途覚醒は「薬で解決する不眠」ばかりではありません

ここまで薬の話をしてまいりましたが、内科医として最もお伝えしたいのはこの章です。夜中に何度も目が覚める原因が、そもそも不眠症ではないケースが、実地診療では相当な割合を占めます。この場合、睡眠薬を足しても解決しませんし、原因によっては睡眠薬が事態を悪くすることさえあります。
中途覚醒の背後に隠れていることが多い病気・要因
睡眠時無呼吸症候群……いびき、日中の強い眠気、夜間の頻尿を伴うことが多く、非常に見逃されやすい
夜間頻尿……前立腺肥大、過活動膀胱、糖尿病、心不全、寝る前の水分・アルコール
むずむず脚症候群……鉄欠乏が背景にあることが多く、採血で判明することがある
逆流性食道炎……夜間の胸やけ、咳、のどの違和感
うつ病・不安障害……早朝覚醒や気分の落ち込みを伴う
アルコール……寝つきは良くなるが、代謝の過程で夜の後半の睡眠を必ず分断する
甲状腺機能の異常・貧血・慢性疼痛など
とくに睡眠時無呼吸症候群は、中途覚醒の原因として頻度が高いにもかかわらず、ご本人にはまったく自覚がないことが大半です。「夜中に何度も目が覚める」「夜中に何度もトイレに立つ」「7時間寝ても日中眠い」という方は、睡眠薬を検討する前に、まず一度の検査をおすすめしています。
✅ 五良会クリニック白金高輪では簡易検査に対応しています
睡眠時無呼吸症候群の簡易検査(自宅で装置を装着して一晩眠っていただく検査)を、保険診療で行っています。入院の必要はなく、ご自宅でいつも通りにお休みいただくだけです。検査結果に応じて、CPAP療法などの治療方針をご相談します。

当院は土曜・日曜・祝日も診療しております(火曜休診)。平日にお時間が取りにくい方も、週末に受診いただけます。まずは外来で睡眠の状況を伺わせてください。

9. 服用にあたっての注意点

POINT 1 就寝の直前に服用してください
飲んでから活動していると、ふらつきや転倒のもとになります。また翌朝の運転までに十分な睡眠時間を確保してください。夜更かししてから服用すると、起床時にまだ薬が効いている状態になります。
POINT 2 食事と同時・食直後の服用は避けてください
食後に飲むと血中濃度の立ち上がりが遅れ、寝つきの効果の発現が遅れるおそれがあります。夕食から時間を空けてお飲みください。
POINT 3 服用後に一時的に起床して仕事などをする可能性があるときは服用しないでください
添付文書に明記されている注意事項です。
POINT 4 飲み合わせに注意が必要な薬があります
スボレキサントは肝臓のCYP3Aという酵素で分解されます。イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど強く阻害する薬とは併用できません。ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾールなど中等度に阻害する薬を服用中の方は減量を検討します。他院で処方されているお薬やサプリメントは、必ずお知らせください。
POINT 5 ナルコレプシーまたはカタプレキシーのある方には使用できません
症状を悪化させるおそれがあります。
POINT 6 アルコールとの併用は避けてください
睡眠の質を悪化させるうえ、副作用が強く出る可能性があります。
⚠️ 起こりうる副作用
最も多いのは傾眠(日中の眠気)と疲労感です。これは薬の働きが日中まで及んだもので、決して珍しい副作用ではありません。ほかに口渇、頭痛のほか、悪夢、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)、入眠時幻覚などが報告されています。オレキシンの働きを抑えることで、レム睡眠に関連したこれらの現象が起こりやすくなることがあります。

翌日の眠気は個人差が大きく、とくに服用開始直後は運転や危険を伴う作業を控えてください。眠気が続く場合は我慢せずご相談ください。減量で改善することがあります。気になる症状があっても、自己判断で中止せず、まずはご相談ください。

10. よくあるご質問

Q. 飲んでみましたが「効いている感じ」がしません
A. これは非常によくいただくご質問です。オレキシン受容体拮抗薬は「眠くさせる」のではなく「覚醒を邪魔しない」薬なので、ベンゾジアゼピン系のような「効いた感じ」がしないことがあります。とくに従来型の睡眠薬から切り替えた方は、その落差を強く感じられます。効果の実感には数日から2週間ほどかかることもありますので、1〜2日で判断せず、経過をみながらご相談ください。
Q. 翌日に眠気が残ります。飲み続けて大丈夫でしょうか
A. 翌日の眠気はこの薬で最も多い副作用であり、決して珍しいことではありません。「体質のせい」でも「気のせい」でもありませんので、遠慮なくお申し出ください。

対応としては、まず減量を検討します。日本の成人標準量である20mgは米国の上限にあたる量で、10mg錠も国内で使用できます。また、服用から起床までの時間が十分かも確認します。夜更かししてから飲むと、朝になってもまだ効いている状態になりやすくなります。それでも改善しない場合は、半減期の異なる他剤への変更も選択肢です。

眠気が残っている間の運転や危険を伴う作業は避けてください。

Q. 飲んだ翌朝、車を運転してもよいですか
A. 服用を始めた直後や増量した直後は、控えていただくようお願いしています。健康成人を対象とした実車運転試験では、平均値でみれば問題となる影響は認められませんでしたが、一部の方では影響が出ており、眠気のため試験を中止した方もいました。影響の出方には個人差が大きいということです。

継続して服用していて、翌朝に眠気やだるさをまったく感じない状態が安定していれば、運転が禁止されるわけではありません。ただし、ご自身の状態を毎朝確認していただくことが前提です。少しでも眠気を感じる日は運転を避けてください。

Q. 依存性や、やめられなくなる心配はありませんか
A. ベンゾジアゼピン系睡眠薬でみられるような耐性(だんだん効かなくなる)や依存のリスクは低いと考えられており、向精神薬の指定も受けていません。ただし「まったくない」と断言できるわけではなく、症状が改善したら漫然と続けず、減量・中止を検討していくのが原則です。
Q. 高齢の家族に使っても大丈夫でしょうか
A. 筋弛緩作用が少なく、転倒リスクの面ではベンゾジアゼピン系より使いやすい薬とされています。ただし高齢の方は代謝が落ちているため、用量は15mgと定められています。持病やほかのお薬との兼ね合いもありますので、必ず診察のうえで判断させてください。
Q. 睡眠薬を使わずに中途覚醒を治す方法はありますか
A. あります。慢性不眠症に対しては、不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が国際的に第一選択とされています。就床時間を意図的に制限する、眠くなるまで寝床に入らない、寝床で考えごとをしない、といった行動面の調整です。効果が出るまでに数週間かかりますが、薬をやめたあとも効果が続くという大きな利点があります。カフェイン・アルコール・就寝前のスマートフォンの見直しといった睡眠衛生の改善も併せて行います。薬はあくまで、こうした取り組みを支える役割だとお考えください。
Q. 何時間眠れれば「正常」なのでしょうか
A. 必要な睡眠時間には大きな個人差があり、加齢とともに自然に短くなります。大切なのは時間数ではなく「日中に困っていないか」です。5時間でも日中すっきり過ごせているなら治療の必要はありませんし、8時間眠っていても日中つらいなら何か原因があります。数字にとらわれすぎることが、かえって不眠を悪化させることもあります。

11. 理事長コメント

💬 理事長 五藤良将より
「夜中に目が覚めてしまうんです」というご相談は、外来で本当に多く伺います。私がいつも最初にお聞きするのは、「目が覚めたあと、どのくらいで眠りに戻れますか」という点です。すぐ眠れているなら心配はいりませんし、1時間も眠れないなら、そこには理由があります。

そして、その理由が睡眠時無呼吸や夜間頻尿、鉄欠乏だったという方も少なくありません。当院では糖尿病内科や消化器内科の視点も含めて、体全体から睡眠の問題を見直すようにしています。眠りのことでお困りでしたら、どうぞ気兼ねなくご相談ください。

12. まとめ

📝 この記事のポイント
✅ 中途覚醒のつらさは「目が覚める回数」ではなく「1回の覚醒が長引くこと」から生まれます
✅ 1,518名の脳波解析で、ベルソムラは2分を超える長い覚醒だけを選択的に減らし、最も長い覚醒からの再入眠がプラセボの2倍以上速いことが示されました
✅ オレキシンは覚醒を「増幅・固定」する物質で、その働きを抑えるため、目覚めても覚醒が立ち上がらず自然に眠りへ戻れます
✅ 効果を出すにはオレキシン2受容体の65〜80%をふさぐ必要があり、この閾値の高さが「夜通し効く」と「翌朝比較的残りにくい」の両立につながっています
ただし持ち越しが起こらないわけではありません。最も多い副作用は傾眠と疲労感で、実車運転試験では平均値に問題はなくても、影響を受けた個人が確認されています
米国の推奨用量は10mg(上限20mg)で、日本の成人標準量20mgは米国の上限にあたります。眠気が残る場合、減量という選択肢があります
✅ 明け方は体内のオレキシンが増えるため、効果が自動的に終息するしくみを持っています
✅ 半減期の違いにより、デエビゴ・クービビックとの使い分けが可能です(ただし直接比較試験はありません)
何より大切なのは、中途覚醒の原因が本当に不眠症なのかを見極めることです。睡眠時無呼吸症候群の簡易検査は当院で受けていただけます

参考文献・出典

1. Svetnik V, Snyder ES, Tao P, Scammell TE, Roth T, Lines C, Herring WJ. Insight Into Reduction of Wakefulness by Suvorexant in Patients With Insomnia: Analysis of Wake Bouts. Sleep. 2018;41(1):zsx178. PMID: 29112763 / DOI: 10.1093/sleep/zsx178
2. Gotter AL, Winrow CJ, Brunner J, et al. The duration of sleep promoting efficacy by dual orexin receptor antagonists is dependent upon receptor occupancy threshold. BMC Neurosci. 2013;14:90. DOI: 10.1186/1471-2202-14-90
3. Tannenbaum PL, Tye SJ, Stevens J, et al. Inhibition of Orexin Signaling Promotes Sleep Yet Preserves Salient Arousability in Monkeys. Sleep. 2016;39(3):603-612.
4. Vermeeren A, Sun H, Vuurman EF, et al. On-the-Road Driving Performance the Morning after Bedtime Use of Suvorexant 20 and 40 mg: A Study in Non-Elderly Healthy Volunteers. Sleep. 2015;38(11):1803-1813.
5. Vermeeren A, Vuurman EFPM, Leufkens TRM, et al. On-the-road driving performance the morning after bedtime use of suvorexant 15 and 30 mg in healthy elderly. Psychopharmacology. 2016;233(18):3341-3351. PMID: 27424295
6. Abadie P, Rioux P, Scatton B, et al. Central benzodiazepine receptor occupancy by zolpidem in the human brain as assessed by positron emission tomography. Eur J Pharmacol. 1996;295:35-44.
7. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ベルソムラ®錠10mg、同15mg、同20mg」電子添文および審査報告書(承認:2014年9月26日、MSD株式会社)
8. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「デエビゴ®錠2.5mg、同5mg、同10mg」電子添文およびインタビューフォーム(承認:2020年1月23日、エーザイ株式会社)
9. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「クービビック®錠25mg、同50mg」電子添文およびインタビューフォーム(承認:2024年9月24日、持田製薬株式会社/Idorsia)
10. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ボルズィ®錠2.5mg、同5mg、同10mg」審議結果報告書(承認:2025年8月25日、大正製薬株式会社)
11. 三島和夫ほか(日本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ)「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」2013年6月
本記事について
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。記載した薬剤はいずれも医師の処方が必要な医療用医薬品です。実際の治療は、必ず主治医とご相談のうえお決めください。掲載内容は2026年9月時点の情報に基づいています。
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