熱帯夜で眠れない|夏の睡眠不足が血圧・血糖を悪化させる――「夜間熱中症」とエアコンの正しい使い方
- 2026年8月1日
- 内科一般
医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
「エアコンを消すと暑くて目が覚める」「朝起きても疲れが取れていない」「夜中に何度も目が覚める」――連日の熱帯夜で、こうしたお悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。夜間の最低気温が25℃を下回らない熱帯夜が続くと、睡眠の質は確実に低下します。
夏の睡眠不足は「日中眠い」だけの問題ではありません。血圧や血糖のコントロールを悪化させ、熱中症への抵抗力も落とします。さらに、寝ている間にエアコンを使わないことで起こる「夜間熱中症」は、毎年多くの方が命を落としている深刻な問題です。この記事では、熱帯夜の睡眠が体に与える影響、夜間熱中症を防ぐエアコンの使い方、今夜からできる快眠の工夫、そして「眠れない」の裏に隠れている病気まで、白金高輪の内科・糖尿病内科の視点から解説します。
1. 熱帯夜とは――今年の夏も「眠れない夜」が続いています
熱帯夜とは、夜間の最低気温が25℃以上の夜を指す気象用語です(気象庁)。近年は都市部のヒートアイランド現象と地球温暖化により、東京では7月から8月にかけて熱帯夜が連続することが当たり前になり、最低気温が28℃を超える夜も珍しくなくなりました。
人は眠りに入るとき、体の内部の温度(深部体温)を下げることでスムーズに入眠します。ところが寝室の温度・湿度が高いままだと、深部体温がうまく下がらず、寝つきが悪くなり、眠りも浅くなります。夜中に汗をかいて目が覚める「中途覚醒」も増え、睡眠時間そのものが削られていきます。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人はおおむね6時間以上の睡眠時間を確保することが推奨されています。熱帯夜が続く時期は、この最低ラインすら守れなくなる方が少なくありません。
2. 夏の睡眠不足が血圧・血糖・心身に与える影響
睡眠不足は「気合いで乗り切る」ものではなく、生活習慣病の管理を確実に悪化させる医学的な問題です。国内外の疫学研究では、睡眠時間が短い状態が続く人ほど、高血圧・糖尿病・肥満のリスクが高まることが繰り返し報告されています。
| 影響を受けるもの | 睡眠不足で起こること |
|---|---|
| 血圧 | 本来、血圧は睡眠中に日中より下がります。睡眠不足や浅い眠りが続くと交感神経の緊張が続き、夜間も血圧が下がらない・朝の血圧が上がるパターンになりやすくなります。 |
| 血糖 | 睡眠不足はインスリンの効きを悪くし(インスリン抵抗性)、食欲を増すホルモンバランスの変化も起こします。「夏になるとHbA1cが悪化する」方の一因が睡眠のことがあります。 |
| 熱中症への抵抗力 | 寝不足・疲労がたまった状態は、日中の熱中症の代表的な危険因子です。「昨夜よく眠れなかった日」ほど、翌日の暑さに弱くなります。 |
| 心身の調子 | 集中力・判断力の低下、イライラ、気分の落ち込み、免疫力の低下など。「夏バテ」と感じている不調の正体が睡眠不足だったというケースも多くみられます。 |
高血圧・糖尿病で通院中の方へ
「夏になると数値が悪くなる」と感じている方は、食事や運動だけでなく睡眠の状態もぜひ振り返ってみてください。診察の際に「眠れていない」ことを教えていただけると、治療の調整に役立ちます。
3. 寝ている間に起こる「夜間熱中症」
熱中症というと炎天下の屋外を思い浮かべる方が多いのですが、実際には熱中症による死亡の多くは屋内で、しかも夜間や独居の高齢者に集中して発生しています。就寝中は暑さへの自覚が働かず、汗で水分が失われ続けるため、気づかないうちに脱水と体温上昇が進んでしまうのです。
🚨 データが示す「屋内・エアコン不使用」の危険
東京都監察医務院の集計では、東京23区の熱中症死亡者の大半は屋内で発見されており、屋内で亡くなった方の約8割はエアコンが使われていませんでした。さらに東京大学と東京都監察医務院による分析(2025年6月発表)では、屋内死亡例1,295例のうち44.9%はエアコンがオフ、29.4%は未設置、10.0%は故障で、リモコンの電池切れや設定ミス(送風モードのまま等)で「使いこなせていなかった」事例も屋内発生例の16.4%を占めました。また、屋内死亡例の6割は60代以上の一人暮らしの方でした。
出典:東京都監察医務院「夏の熱中症死亡者数の状況」/東京大学大学院医学系研究科・東京都監察医務院 共同発表 2025年6月20日
「電気代がもったいない」「エアコンの風が苦手」「夜は窓を開ければしのげる」――こうした理由でエアコンを使わずに就寝することが、そのまま命に関わりうる時代になっています。とくに高齢の方は暑さやのどの渇きを感じるセンサーが加齢で鈍くなっているため、「自分は暑くないから大丈夫」という感覚は当てになりません。離れて暮らすご家族がいる方は、お盆の帰省の際に寝室のエアコンが正しく動くか、ぜひ確認してあげてください。
4. 就寝時のエアコン・扇風機の正しい使い方
熱帯夜の就寝時は、エアコンを朝までつけたままにするのが基本です。「タイマーで切れる設定」にすると、切れた後に室温が急上昇して中途覚醒や夜間熱中症の原因になります。環境省・厚生労働省の熱中症予防の呼びかけでも、夜間を含めた適切なエアコン使用が推奨されています。
| ポイント | 具体的なコツ |
|---|---|
| 朝までつけたままに | 切りタイマーは使わず連続運転が基本です。冷えすぎが心配な方は設定温度を高め(26〜28℃目安)にして朝までの方が、途中で切れるより体に優しく、睡眠も安定します。 |
| 風を体に直接当てない | 風向は水平または天井向きに。扇風機・サーキュレーターを併用して部屋の空気をかき混ぜると、高めの設定温度でも快適に眠れます。扇風機も体に直接当て続けないのがコツです。 |
| 湿度を下げる | 同じ温度でも湿度が高いと汗が蒸発せず、体温が下がりません。湿度50〜60%を目安に、除湿(ドライ)運転も活用しましょう。 |
| 寝る前に部屋を冷やしておく | 就寝の30分〜1時間前から寝室のエアコンを入れ、壁や寝具にこもった熱を先に取っておくと、寝つきがまったく違います。 |
| 温度計を寝室に置く | 体感に頼らず、寝室に温湿度計を置いて数字で確認を。とくに高齢の方は「暑く感じないのに室温30℃超」ということが実際に起こります。 |
⚠️ 「エアコンで体がだるくなる」という方へ
冷えすぎ(設定温度の下げすぎ・風の直撃)が原因のことがほとんどです。エアコンをやめるのではなく、設定温度を上げる・風向を変える・長袖やタオルケットで調整する方向で工夫してください。エアコンを使わない選択は、熱帯夜ではもっとも危険です。
🏥 夏の不調・生活習慣病のご相談は白金高輪駅徒歩1分の当院へ
「眠れない日が続いて体調が心配」「夏になって血圧・血糖の数値が乱れてきた」という方は、お気軽にご相談ください。火曜を除き土日祝も診療しています。→ ご予約・クリニック案内はこちら
5. 今夜からできる快眠の工夫――入浴・寝酒・カフェイン・寝具
入浴は「寝る1〜2時間前・ぬるめ」が正解
就寝の1〜2時間前にぬるめ(38〜40℃程度)のお湯にゆっくり浸かると、いったん上がった深部体温が下がっていくタイミングで自然な眠気が訪れます。暑いからとシャワーだけで済ませるより、短時間でも湯船に浸かる方が寝つきには有利です。逆に、寝る直前の熱いお風呂は体温を上げてしまい逆効果です。
「寝酒」は睡眠の質を確実に下げます
「ビールを飲むとよく眠れる」と感じる方は多いのですが、アルコールで得られるのは寝つきの改善だけです。アルコールが分解される夜中の後半には眠りが浅くなり、中途覚醒・早朝覚醒が増えます。さらに利尿作用で夜間のトイレと脱水を招くため、熱帯夜との相性は最悪です。晩酌は「量を控えめに、就寝3時間前まで」を目安に。寝るための飲酒は、アルコール量が増えていく入り口にもなるため注意が必要です。
カフェインは午後3時以降控えめに
カフェインの覚醒作用は個人差がありますが、数時間は持続します。眠りが浅いと感じる時期は、コーヒー・緑茶・エナジードリンクを午後遅く以降は控えるだけでも変わります。夏は冷たいカフェイン飲料をつい多く飲みがちなので、水や麦茶(ノンカフェイン)への置き換えがおすすめです。
寝具・寝間着・光の工夫
・吸湿性のよい綿・麻の寝間着にする(汗を吸わない素材は寝苦しさのもと)
・遮光カーテンで朝の早すぎる光と外気の熱を遮る
・寝る前のスマートフォンは短めに(画面の光と情報の刺激が入眠を妨げます)
・起床時間は毎日そろえる(休日の寝だめは2時間以内に)
6. 就寝前後の水分補給のコツ
人は一晩でコップ1杯分以上の汗をかくといわれ、熱帯夜はさらに増えます。就寝前にコップ1杯の水分をとり、枕元にも飲み物を置いておくのが夏の基本です。夜中に目が覚めたときや、朝起きたときにも一口飲む習慣をつけましょう。
「夜のトイレが嫌だから」と水分を我慢するのは、脱水から夜間熱中症や脳梗塞・心筋梗塞のリスクを高めるため危険です。トイレに起きる回数が気になる方は、水分を減らすのではなく、後述の「夜間頻尿」の原因を調べる方が先です。
なお、利尿薬を服用中の方、糖尿病で血糖が高めの方は特に脱水が進みやすいため、夏の水分補給はより意識的に行ってください。心不全や腎臓病で水分制限を受けている方は、自己判断で増やさず主治医にご相談ください。
7. それでも眠れないとき――背景に隠れている病気
環境を整えても不眠や日中の強い眠気が続く場合、暑さ以外の原因が隠れていることがあります。代表的なものを挙げます。
| 病気・状態 | こんなサインがあれば疑います |
|---|---|
| 睡眠時無呼吸症候群(SAS) | 大きないびき、睡眠中の呼吸停止の指摘、起床時の頭痛・口の渇き、日中の強い眠気。高血圧・糖尿病・不整脈の悪化要因にもなります。自宅でできる簡易検査があります。 |
| 夜間頻尿・夜間多尿 | 夜2回以上トイレに起きる。背景に血糖の高さ(尿量が増える)、前立腺肥大、過活動膀胱、心不全などが隠れていることがあります。 |
| むずむず脚症候群 | じっとしていると脚に不快感が出て眠れず、動かすと楽になる。鉄欠乏(貧血)が背景のことがあり、血液検査で確認できます。 |
| 甲状腺機能亢進症 | 暑がり・多汗・動悸・体重減少とともに寝つけない。「ひどい夏バテ」と紛らわしいのが特徴で、血液検査で診断できます。 |
| うつ・不安などこころの不調 | 早朝に目が覚めて眠れない、気分の落ち込み、興味の低下が2週間以上続く。不眠はこころの不調の最初のサインとしてよく現れます。 |
8. 受診の目安――こんなときは内科へ
🚨 こんなときはご相談ください
・環境を整えても不眠が2週間以上続いている
・日中の眠気で仕事や運転に支障が出ている
・大きないびき・睡眠中の呼吸停止を指摘された
・夜2回以上トイレに起きる状態が続いている
・不眠とともに動悸・体重減少・気分の落ち込みがある
・高血圧・糖尿病の治療中で、夏になって数値が悪化している
・市販の睡眠改善薬やお酒に頼る日が増えている
当院では、問診と血液検査(貧血・甲状腺・血糖など)で不眠の背景にある内科の病気を確認し、必要に応じて睡眠時無呼吸症候群の検査や専門医療機関へのご紹介まで、内科の窓口として対応します。「たかが寝不足」と我慢せず、どうぞお気軽にご相談ください。
9. よくあるご質問(FAQ)
10. 理事長コメント
11. まとめ
✅ 熱中症死亡の多くは屋内で発生し、屋内死亡の約8割はエアコン不使用――就寝中も朝まで冷房が基本
✅ 設定温度26〜28℃・風を直接当てない・湿度50〜60%・寝る前の予冷が快眠のコツ
✅ ぬるめの入浴は寝る1〜2時間前に。寝酒は睡眠の質を下げ、脱水も招くため逆効果
✅ 就寝前と枕元の水分補給を習慣に。トイレが気になる方は水分制限ではなく原因の確認を
✅ 2週間以上続く不眠、いびき・無呼吸、日中の強い眠気は、内科で調べられる病気が隠れていることも
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