夏の海外旅行と蚊媒介感染症|デング熱・チクングニア熱・マラリアの予防と帰国後の発熱を渡航医学認定医が解説|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

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夏の海外旅行と蚊媒介感染症|デング熱・チクングニア熱・マラリアの予防と帰国後の発熱を渡航医学認定医が解説|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

夏の海外旅行と蚊媒介感染症|デング熱・チクングニア熱・マラリアの予防と帰国後の発熱を渡航医学認定医が解説

夏の海外旅行と「蚊が運ぶ感染症」 ― デング熱・チクングニア熱・マラリアの予防と、帰国後の発熱への備え

医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)

夏休みの海外旅行、そして海外赴任・出張のシーズンが本格化しています。渡航前の準備というと、まずワクチンを思い浮かべる方が多いと思います。ですが、東南アジア・南アジア・中南米・アフリカ・オセアニアといった地域でもっとも現実的なリスクは、ワクチンでは防げない「蚊が運ぶ感染症」です。デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、そしてマラリア。いずれも日本国内では日常的に見ない病気ですが、帰国後の外来では決して珍しいものではありません。

この記事では、渡航医学認定医の立場から、これらの蚊媒介感染症について「どんな病気か」「どうすれば防げるか」「帰国後に熱が出たらどうすべきか」を整理します。とくにマラリアは、発症から治療開始までの時間が生命予後を大きく左右する病気です。「熱帯地域から帰ってきて熱が出た」というだけで、受診の優先度がまったく変わります。この一点だけでも、ぜひ覚えて帰っていただければと思います。

📌 この記事の結論を先に

① デング熱・チクングニア熱・ジカ熱に、日本で接種できるワクチンはありません(2026年7月時点)。
② マラリアだけは「予防内服」という手段があり、渡航先によっては強く推奨されます。当院はマラロンを院内処方しています。
③ すべてに共通する最強の対策は、地味ですが防蚊対策(虫よけ・服装・蚊帳)です。
④ 熱帯地域からの帰国後に発熱したら、「いつ・どこへ行ったか」を必ず最初に伝えて受診してください。

📋 この記事の内容(クリックで該当箇所へ)
① なぜいま「蚊媒介感染症」なのか
② 蚊の種類で、うつる病気も時間帯も違う
③ デング熱 ― 解熱してからが本当の勝負
④ チクングニア熱 ― 関節痛が長く残ることがある
⑤ ジカウイルス感染症 ― 症状は軽くても、妊娠には配慮を
⑥ マラリア ― 唯一「命に直結する」蚊媒介感染症
⑦ マラリア予防内服の実際(マラロン・メファキン)
⑧ ワクチンより確実な「防蚊対策」の具体策
⑨ デング熱・チクングニア熱のワクチンは日本で打てるのか
⑩ 帰国後に発熱したら ― 受診時に必ず伝えること
⑪ 当院の渡航外来でできること
⑫ 理事長コメント
⑬ まとめ
❓ よくあるご質問(FAQ)
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1. なぜいま「蚊媒介感染症」なのか

日本に住んでいると、蚊は「刺されると痒い虫」でしかありません。しかし世界的に見れば、蚊はヒトにもっとも多くの死をもたらしている生物です。デング熱もチクングニア熱もジカウイルス感染症もマラリアも、すべて蚊によってウイルスや原虫が運ばれることで成立します。

日本国内では、日本脳炎を除く蚊媒介感染症は基本的に「輸入感染症」、つまり海外で感染して国内で発症するかたちで報告されます。ただし例外もあり、デング熱については2014年に代々木公園周辺を中心とした国内感染例が、2016年にも国内感染例が報告されました。デング熱を媒介できるヒトスジシマカは、日本国内に広く生息しているためです。

加えて近年は、チクングニア熱の世界的な流行が問題になっています。国立健康危機管理研究機構(JIHS)はチクングニア熱についてリスク評価を公表しており、インド洋地域や南アジア・東南アジアを中心に流行が続いていることが示されています。「昔は珍しかった病気」ではなく「いま、旅行者が実際にかかっている病気」という認識で準備することが大切です。

法律上の位置づけ

デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症・マラリアは、いずれも感染症法上の四類感染症です。診断した医師は、ただちに最寄りの保健所へ届け出る義務があります。チクングニア熱・デング熱・マラリアは検疫法上の検疫感染症でもあります。
出典:厚生労働省「蚊媒介感染症」/国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト

2. 蚊の種類で、うつる病気も時間帯も違う

防蚊対策を考えるうえで、まず知っておいていただきたいのが「蚊によって活動時間帯が違う」という事実です。ここを取り違えると、対策の穴ができます。

蚊の種類 主に媒介する病気 吸血する時間帯
ネッタイシマカ
ヒトスジシマカ

(シマカ属)
デング熱
チクングニア熱
ジカウイルス感染症
黄熱
主に日中
(早朝と夕方にピーク)
ハマダラカ
(アノフェレス属)
マラリア 主に夜間〜明け方
コガタアカイエカ 日本脳炎 主に夜間

⚠️ 見落としがちなポイント

「蚊対策=夜、寝るときに蚊帳」というイメージが強いのですが、デング熱・チクングニア熱・ジカ熱を運ぶシマカは日中に刺します。観光やビーチ、市場の散策といった昼間の行動中こそ、虫よけが必要です。逆にマラリアを運ぶハマダラカは夜間中心なので、宿泊環境(網戸・エアコン・蚊帳)が勝負になります。目的地の疾患に応じて、対策の重心を変えてください。

3. デング熱 ― 解熱してからが本当の勝負

典型的な経過

デング熱の潜伏期間はおおむね3〜14日(多くは4〜7日)です。急な高熱で始まり、強い頭痛、目の奥の痛み(眼窩痛)、筋肉痛・関節痛、そして経過中の発疹が典型です。骨が折れるような痛みという意味で「break-bone fever(骨折熱)」という別名があるほど、体の痛みが強く出ることがあります。

多くの方は1週間ほどで自然に回復します。問題は、ごく一部が重症デング(デング出血熱・デングショック症候群)へ進行することです。そして厄介なことに、重症化しやすいのは熱が下がりはじめる時期です。「熱が下がったからもう大丈夫」と油断したところで血漿漏出が起こり、急激に状態が悪化します。

🚨 デング熱の「警告サイン」― これが出たら至急受診を

● 強い腹痛、腹部の圧痛
● 繰り返す嘔吐
● 歯ぐきや鼻からの出血、点状出血、下血
● ぐったりする、落ち着かない、意識がぼんやりする
● 手足が冷たい、脈が弱い
とくに解熱のタイミングでこれらが出現した場合は、重症デングを疑って直ちに医療機関へ。

解熱鎮痛薬の選び方に注意

デング熱では血小板が減少し、出血傾向が出ることがあります。そのため、アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は出血リスクを高める可能性があるため避け、アセトアミノフェンを用いるのが原則です。海外で市販の痛み止めを自己判断で飲む場面は多いと思いますが、デング熱流行地で高熱が出たときは、この点を思い出してください。

デング熱に特異的な抗ウイルス薬はなく、治療は輸液を中心とした支持療法が基本です。だからこそ「かからないこと」と「悪化のサインを見逃さないこと」が、そのまま予後を決めます。

4. チクングニア熱 ― 関節痛が長く残ることがある

チクングニア熱は、トガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスによる熱性疾患です。潜伏期間は通常4〜8日(最短2日〜最長12日程度)。デング熱と同じくネッタイシマカ・ヒトスジシマカが媒介するため、流行地も症状も重なります。

特徴は発熱と、強い関節痛です。「チクングニア」という病名自体、現地の言葉で「体を折り曲げる」という意味に由来するとされ、手首・足首・指などの小関節を中心に、動くのもつらいほどの痛みが出ます。

急性期の症状は1〜2週間でおさまることが多いのですが、臨床上とくに知っておくべきなのは、関節痛や関節のこわばりが数週間から数か月、場合によってはそれ以上にわたって続くことがある点です。帰国後しばらくしてから「リウマチではないか」と整形外科やリウマチ科を受診され、渡航歴からチクングニア熱の既往が判明する、というケースもあります。

致死率はデング熱より低いとされますが、新生児・高齢者・基礎疾患のある方では重症化しうるため、油断はできません。こちらも特異的な治療薬はなく、対症療法が中心です。

デング熱とチクングニア熱の見分けは、症状だけでは困難です

どちらも同じ蚊が媒介し、同じ地域で同時に流行し、発熱・発疹・関節痛という共通の症状を示します。臨床症状だけの鑑別は現実的ではなく、確定には血液を用いた検査が必要です。「デングか、チクングニアか、それともマラリアか」を分けるのは検査であり、その検査にたどり着くために必要なのが渡航歴の情報です。

5. ジカウイルス感染症 ― 症状は軽くても、妊娠には配慮を

ジカウイルス感染症は、感染しても症状が出ない方が多く、発症しても軽い発熱・発疹・結膜充血・関節痛程度で、数日で軽快することがほとんどです。「本人にとってはたいしたことのない病気」と言ってしまえばそれまでなのですが、この病気が国際的に注目されたのは別の理由からです。

妊娠中の方が感染すると、胎児に小頭症をはじめとする先天異常(先天性ジカウイルス症候群)を起こしうることが明らかになったためです。加えて、ジカウイルスは蚊だけでなく性的接触によっても感染しうるという、蚊媒介感染症としては例外的な性質を持ちます。

妊娠中・妊娠を計画中の方へ

妊娠中の方は、ジカウイルス感染症の流行地域への渡航そのものを慎重に検討してください。やむを得ず渡航する場合は徹底した防蚊対策を行い、パートナーが流行地から帰国した場合も含め、一定期間はコンドームの使用または性交渉を控えることが推奨されます。具体的な期間の推奨は国・機関によって異なり、また改訂されることがありますので、渡航前に必ず渡航外来で最新の情報をご確認ください。

6. マラリア ― 唯一「命に直結する」蚊媒介感染症

ここまで紹介した3つはウイルス感染症ですが、マラリアはマラリア原虫という寄生虫による感染症です。ハマダラカに刺されることで感染します。そして、この記事のなかでもっとも重要なのがマラリアです。理由は単純で、治療が遅れれば死にうるからです。

ヒトに感染するマラリア原虫は複数ありますが、なかでも熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)は、発症後に急速に重症化し、脳性マラリア・急性腎障害・重症貧血・多臓器不全へと進行します。サハラ以南アフリカで感染するマラリアの多くがこの熱帯熱マラリアです。「発熱してから数日で命に関わる状態になりうる」という感覚を、ぜひ持っておいてください。

🔬 覚えておくべき「潜伏期間の鉄則」
マラリアの潜伏期間は、最短でも約7日です。つまり、
流行地に到着してから7日以内の発熱は、マラリア以外の原因を考える
流行地を離れてから7日以上経ってからの発熱は、マラリアを疑う
という判断ができます。さらに三日熱マラリア・卵形マラリアは肝臓に休眠原虫(ヒプノゾイト)が残り、帰国から数か月〜年単位が経ってから再発することがあります。「もう半年前の旅行だから関係ない」とは言い切れないのが、マラリアの怖さです。

症状は発熱、悪寒・戦慄、頭痛、倦怠感、筋肉痛などで、初期はインフルエンザや夏風邪と区別がつきません。教科書に出てくる「規則的な周期熱」は、実際の初期には揃わないことが多く、これを待っていては手遅れになります。流行地からの帰国後の発熱は、それだけでマラリアを疑う理由になると考えてください。

診断は血液塗抹標本による原虫の検出、あるいは迅速診断キット等で行い、治療は原虫の種類と重症度に応じた抗マラリア薬を用います。適切に診断・治療されれば救命できる病気であり、だからこそ「疑って、すぐ検査する」ことがすべてです。

7. マラリア予防内服の実際(マラロン・メファキン)

デング熱・チクングニア熱・ジカ熱と決定的に違うのは、マラリアには「予防内服(ケモプロフィラキシス)」という有効な手段があることです。流行地への渡航では、防蚊対策と予防内服の二段構えが基本になります。

日本で承認されている代表的な予防内服薬は次のとおりです。

薬剤 服用方法(予防) 特徴・注意点
マラロン配合錠
(アトバコン/
プログアニル塩酸塩)
1日1回1錠。流行地到着の24〜48時間前から開始し、滞在中も継続、流行地を離れた後7日間まで服用。毎日食後。 現在もっとも広く使われる選択肢。開始が渡航直前でよく、離脱後の服用も7日間と短い。精神神経疾患や不整脈のある方でも比較的使いやすいとされる。当院が採用している薬剤で、院内処方が可能です。
メファキン錠
(メフロキン塩酸塩)
週1回服用。渡航前から開始し、滞在中・帰国後も一定期間継続。 週1回で済むのが利点。一方で、めまい・不眠・不安・抑うつなど精神神経系の副作用が問題となることがあり、既往のある方には向きません。

⚠️ 予防内服について、必ず知っておいていただきたいこと

薬剤の選択は「渡航先の薬剤耐性の状況」で変わります。どこでも同じ薬でよいわけではありません。
予防内服は100%ではありません。内服していても発症する可能性はあり、防蚊対策の代わりにはなりません。
帰国後の服用をやめないでください。離脱後の内服期間を守らないと、予防効果が損なわれます。
渡航者のマラリア予防内服は自費診療です(健康保険の適用外)。
● 併用薬・持病・妊娠の可能性・肝腎機能によって選択が変わります。必ず医師にご相談ください。

当院でのマラロン処方について

💊 五良会クリニック白金高輪はマラロンを採用し、院内処方に対応しています
費用:1錠 1,100円(税込)/1日1回1錠(自費診療)
服用期間:現地到着の前日から、帰国後7日目まで
渡航日数に合わせて必要な錠数を処方いたします
✅ 院内処方のため、調剤薬局へ回っていただく必要がありません
必要錠数の計算例
「現地滞在7日間」のご旅行の場合
→ 到着前日 1日分 + 滞在中 7日分 + 帰国後 7日分 = 合計15錠(16,500円・税込)
※日程によって錠数は変わります。渡航スケジュールをお持ちいただければ、その場で計算してご案内します。

⚠️ 飲み始めと、飲み終わりが肝心です

とくに間違いが多いのが「帰国後7日分」です。日本に帰ってきて元気だと、つい飲むのをやめてしまう方がいらっしゃいます。しかしマラリア原虫は肝臓から血中へ出てくるまでに時間差があるため、この最後の7日間を飲みきらないと、予防効果が損なわれます。処方した錠数は必ず最後まで飲みきってください。

✈️ 渡航先ごとのマラリアリスクと薬剤選択は、専門的な判断が必要です。
五良会クリニック白金高輪では、渡航医学認定医2名が渡航先・日程・持病に合わせてご提案し、マラロンを院内処方いたします。
03-6432-5353(1F) / 火曜休診・土日祝も診療

8. ワクチンより確実な「防蚊対策」の具体策

地味な話で恐縮ですが、蚊媒介感染症でもっとも費用対効果が高い対策は、刺されないことです。ワクチンのない病気が大半を占める以上、これは精神論ではなく、医学的にもっとも合理的な結論です。

虫よけ剤(忌避剤)の選び方

有効成分 推奨濃度の目安 コメント
ディート(DEET) 30%製品(日本国内で購入可能な最高濃度) もっとも実績のある成分。濃度が高いほど「効果が強い」のではなく効果の持続時間が長くなる。小児は年齢による使用制限あり。
イカリジン
(ピカリジン)
15%製品 ディートと同等の効果が期待でき、年齢制限がなく、においや衣類への影響が少ない。小児やプラスチック製品を扱う場面で使いやすい。
✅ 使い方のコツ(ここを外すと効きません)
露出している皮膚に、ムラなく塗る。塗り残した部分だけを刺されます。
● 汗をかいたら塗り直す。製品ごとの持続時間を確認してください。
● 日焼け止めと併用するときは日焼け止めを先に、虫よけを後に
● 顔に使うときは手のひらに出してから塗り広げ、目・口・傷には付けない。
● 屋内では帰宅後に洗い流す。

服装と宿泊環境

暑い国ほど薄着になりがちですが、可能な範囲で長袖・長ズボン、明るい色の服を選ぶだけでリスクは下がります。蚊は暗い色に寄りやすいとされ、足首・首筋・耳の後ろといった「塗り忘れやすい部位」が狙われます。サンダルよりも靴と靴下のほうが安全です。

マラリア流行地に宿泊する場合は、宿泊環境が決定的に重要です。網戸とエアコンが機能している部屋を選び、必要に応じて殺虫剤処理された蚊帳(ITN)を使用してください。ハマダラカは夜間に活動するため、「寝ている間、どれだけ蚊から隔離されているか」がそのままリスクになります。

9. デング熱・チクングニア熱のワクチンは日本で打てるのか

渡航外来でよくいただくご質問です。結論から申し上げます。

2026年7月時点での状況

デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症・マラリアのいずれについても、日本国内で接種できる薬事承認済みのワクチンはありません。したがって、これらは「ワクチンで防ぐ病気」ではなく、「刺されないことで防ぐ病気」(マラリアはこれに予防内服を加える)と理解してください。

デング熱については、武田薬品工業が開発した弱毒生ワクチン「QDENGA(キューデンガ)」が海外の複数国で承認・使用されており、WHOも一定の条件下で使用を推奨しています。0日と3か月後の2回接種で、4種類すべての血清型に対応する設計です。タイなど、現地で接種を受けられる国もあります。

しかし日本では承認されていません。さらにQDENGAは遺伝子組換え技術を用いた弱毒生ワクチンであるため、カルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)の規制により、医師による個人輸入での接種も認められていません。「未承認ワクチンを輸入して打っているクリニックがあるのでは」と思われるかもしれませんが、デングワクチンに関してはその方法自体が取れない、というのが正確なところです。

チクングニア熱についても、海外ではIXCHIQ(イクスチック)やVIMKUNYAといったワクチンが承認されていますが、当院で確認した範囲では、日本国内で薬事承認されたチクングニア熱ワクチンはありません(2026年7月時点)。なお、承認状況は今後変わりうるため、渡航前には必ず最新情報をご確認ください。当院でも渡航外来で随時アップデートしてご案内しています。

では、渡航ワクチンは不要なのか ― いいえ、必要です

蚊媒介感染症にワクチンがないからといって、渡航ワクチン全体が不要ということではありません。黄熱(同じくシマカが媒介し、有効なワクチンがあり、国によっては入国に証明書が必要)、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、狂犬病、破傷風、髄膜炎菌、日本脳炎などは、渡航先と滞在様式に応じて確実に検討すべきワクチンです。「蚊の対策は物理的に」「ワクチンで防げるものはワクチンで」という役割分担で組み立てるのが、渡航前準備の考え方です。

10. 帰国後に発熱したら ― 受診時に必ず伝えること

ここが、この記事でもっともお伝えしたい部分です。

熱帯・亜熱帯地域から帰国した後の発熱は、日本の医療機関では「渡航歴を伝えてもらえるかどうか」で診療の方向がまったく変わります。渡航歴を伝えていただければ、私たちはマラリアやデング熱を鑑別の上位に置き、直ちに必要な検査に進むことができます。逆に伝えていただけなければ、夏かぜとして経過を見てしまい、貴重な時間を失います。マラリアにおいて、この時間差は生命予後に直結します。

STEP 1 受付・問診の最初に渡航歴を伝える
「〇月〇日から〇月〇日まで、〇〇(国名・地域名)に行っていました」。診察室に入ってからではなく、受付や電話の段階でお伝えください。感染対策上も重要です。
STEP 2 滞在の中身を伝える
都市部かジャングル・農村部か、宿泊は空調のあるホテルかテントか、蚊帳を使ったか、蚊に刺された記憶があるか、川や湖で水に入ったか、動物に咬まれたか、生ものを食べたか。
STEP 3 予防内服・ワクチンの有無を伝える
マラリア予防内服をしたか、していたなら薬剤名・服用期間・飲み忘れの有無。渡航前に接種したワクチンの種類。母子健康手帳や接種証明書があれば持参してください。
STEP 4 発熱以外の症状も漏れなく伝える
発疹、関節痛、下痢、黄疸、出血傾向、意識のもうろう感。熱の出た日と、その後の経過(いつ下がって、いつ上がったか)。

🚨 「様子を見ない」でいただきたいケース

マラリア流行地(とくにサハラ以南アフリカ)から帰国して発熱した ― 数日待たず、その日のうちに受診してください。
● 意識がおかしい、けいれん、尿が出ない、黄疸が出た ― 救急受診を。
● デング熱を疑う経過で、解熱と同時に腹痛・嘔吐・出血が出た ― 直ちに受診を。
● 帰国から数か月後の発熱でも、渡航歴は必ず申告してください(三日熱・卵形マラリアの再発の可能性があります)。

11. 当院の渡航外来でできること

五良会クリニック白金高輪には、渡航医学の認定医が2名在籍しています(日本旅行医学会認定医:五藤良将理事長/日本渡航医学会認定医:安達弘人医師)。渡航前の準備から帰国後の体調不良まで、一連の流れとして対応できる体制を整えています。

タイミング 当院で対応できること
渡航前
(できれば2〜3か月前)
渡航先のリスク評価、ワクチン計画の作成と接種(輸入ワクチンを含む)、マラリア予防薬マラロンの院内処方(渡航日数に合わせた錠数で)、防蚊対策の具体的な指導、持病のある方の渡航中の薬の管理、英文の接種証明書・診断書の発行
帰国後 帰国後の発熱・下痢・発疹の診療、血液検査による鑑別、必要に応じた高次医療機関への速やかな紹介、長引く消化器症状に対する内視鏡検査(土曜・日曜・祝日も毎週実施)

当院は火曜日を除き、土曜・日曜・祝日も診療しています。出発直前まで仕事が詰まっている方、帰国してすぐ職場復帰される方にも受診していただきやすい体制です。渡航ワクチンは複数回接種が必要なものが多いため、できれば出発の2〜3か月前にご相談いただけると、最適なスケジュールが組めます。

12. 理事長コメント

💬 理事長 五藤良将より
「渡航外来では『ワクチンを打っておけば安心ですよね』というご質問をよくいただきます。ですが、旅行者が実際にかかる蚊媒介感染症の多くに、日本で打てるワクチンはありません。守ってくれるのは、虫よけと長袖と蚊帳という、驚くほど地味な手段です。

唯一、薬で予防できるのがマラリアです。当院ではマラロンを院内処方していますので、渡航日程さえ決まっていれば、出発直前のご相談でも間に合います。ただし帰国後7日分を飲みきること、これだけは必ず守ってください。

そしてもう一つ。もし帰国後に熱が出たら、どうか『渡航歴』を最初に伝えてください。私たち医師にとって、その一言は検査の入口そのものです。マラリアは、疑えば助かり、疑わなければ間に合わないことがある病気です。ご不安な点は、出発前でも帰国後でも、どうぞお気軽にご相談ください。」

日本旅行医学会認定医/日本抗加齢医学会専門医/日本糖尿病協会登録医

13. まとめ

📝 この記事のポイント
✅ デング熱・チクングニア熱・ジカ熱・マラリアに、日本で接種できる承認ワクチンはありません(2026年7月時点)
✅ デング熱・チクングニア熱・ジカ熱を媒介するシマカは日中、マラリアを媒介するハマダラカは夜間に刺します
✅ デング熱は解熱期に重症化することがあり、痛み止めはアセトアミノフェンを選びます
✅ チクングニア熱は関節痛が数か月以上続くことがあります
✅ マラリアは予防内服という手段があり、かつ唯一命に直結します。潜伏期は最短7日
✅ 当院はマラロンを採用・院内処方(1錠1,100円税込/到着前日〜帰国後7日、日数に合わせて処方)
✅ 対策の基本はディート30%またはイカリジン15%+長袖+蚊帳という物理的防御
帰国後の発熱は、まず渡航歴を伝えて受診してください。数か月後の発熱でも申告を
✅ 渡航ワクチンは複数回接種が多いため、出発の2〜3か月前にご相談を

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 短期間の観光旅行でも、マラリア予防内服は必要ですか?
A. 滞在期間の長さよりも「どこに行くか」が決め手になります。1泊でもマラリア高流行地に滞在すれば感染しえますし、逆に流行地のない国であれば長期滞在でも予防内服は不要です。渡航先・訪問地域(都市部か農村部か)・季節・宿泊環境を伺ったうえで判断しますので、日程が決まった段階でご相談ください。
Q2. デング熱は一度かかれば免疫がつきますか?
A. デングウイルスには4種類の血清型があり、感染した型に対する免疫は得られますが、他の型に対しては十分ではありません。むしろ、異なる型に2回目の感染をした場合に重症化しやすいことが知られています。「一度かかったからもう安心」ということにはならず、2回目以降のほうがむしろ注意が必要とお考えください。
Q3. 海外でデングワクチン(QDENGA)を打ってきてもよいですか?
A. 現地の医療機関で接種を受けること自体は各国の制度の範囲内で行われていますが、日本国内では未承認であり、当院を含む日本の医療機関では接種できません。また弱毒生ワクチンであるため、接種の可否は既往歴や免疫状態、他のワクチンとの接種間隔にも影響します。渡航前に必ず医師にご相談ください。
Q4. 虫よけは濃度が高いほど強力ですか?
A. よくある誤解です。ディートの場合、濃度が上がると「効果の強さ」ではなく「持続時間」が延びます。30%製品は12%製品より長持ちしますが、蚊を寄せつけない力そのものが劇的に強くなるわけではありません。したがって低濃度でもこまめに塗り直せば実用上は十分で、逆に高濃度でも塗り残しがあればそこを刺されます。塗り方のほうが濃度より重要です。
Q5. 子どもを連れて東南アジアへ行きます。虫よけは使えますか?
A. お子さまにはイカリジン(ピカリジン)製品が使いやすいです。年齢による使用制限がなく、においも衣類への影響も少ないためです。ディートは年齢と濃度によって使用回数などの制限があります。あわせて、ベビーカーや就寝時の蚊帳(ネット)の併用が有効です。当院は小児科も併設していますので、お子さま連れの渡航のご相談も承っています。
Q6. 帰国してから2週間経って熱が出ました。もう関係ないですよね?
A. いいえ、大いに関係があります。むしろマラリアは潜伏期が最短7日ですので、「帰国後1〜4週間の発熱」はマラリアをもっとも疑うべきタイミングです。さらに三日熱マラリア・卵形マラリアは数か月〜年単位が経ってから再発することがあります。渡航から時間が経っていても、発熱で受診される際は必ず渡航歴をお伝えください。
Q7. 蚊媒介感染症は、人から人にうつりますか?
A. デング熱・チクングニア熱・マラリアは、咳やくしゃみなど日常の接触で人から人へ直接うつることはありません。蚊を介して感染します(マラリアは輸血・臓器移植・母子感染という例外的経路があります)。ジカウイルス感染症のみ、性的接触による感染が知られている点が例外です。ご家族に感染者が出ても、日常生活で過度に隔離する必要はありません。
Q8. 渡航前の相談は、出発何日前までなら間に合いますか?
A. 理想は2〜3か月前です。A型肝炎・B型肝炎・狂犬病などは複数回の接種が必要で、免疫の獲得にも時間がかかるためです。ただし、マラロンによる予防内服は現地到着の前日から開始するため、出発直前のご相談でも間に合います。防蚊対策の指導も直前で十分意味があります。「もう遅いから」とあきらめず、まずはご相談ください。
Q9. マラリア予防薬はいくらかかりますか。薬局へ行く必要はありますか?
A. 当院はマラロンを採用しており、院内処方に対応していますので、調剤薬局へ回っていただく必要はありません。費用は1錠 1,100円(税込)で、1日1回1錠を服用します。現地到着の前日から、帰国後7日目までの日数に合わせて処方いたします。たとえば現地滞在7日間なら合計15錠(16,500円・税込)が目安です。渡航者のマラリア予防内服は自費診療となり、別途 診察料がかかります。日程が決まりましたら、そのスケジュールをお持ちください。

参考文献・出典

  1. 厚生労働省「蚊媒介感染症」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164483.html
  2. 厚生労働省「デング熱」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000131101.html
  3. 国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト「チクングニア熱の発生状況とリスク評価」(2026年3月23日)
  4. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト IASR「デング熱ワクチンの現状について」
  5. 厚生労働省検疫所 FORTH「チクングニア熱(Chikungunya Fever)」「チクングニア熱-世界情勢」
  6. 東京都感染症情報センター「デング熱 Dengue fever」
  7. マラロン配合錠 添付文書(アトバコン/プログアニル塩酸塩配合剤)
  8. 公益社団法人 日本WHO協会「チクングニア熱」ファクトシート

※本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づきます。ワクチンの承認状況、流行状況、各国の推奨は変更されることがあります。渡航前には必ず最新の情報をご確認ください。

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GORYOKAI CLINIC SHIROKANE-TAKANAWA
五良会クリニック白金高輪
内科・小児科・消化器内科・血液内科・内視鏡検査・糖尿病内科・アレルギー科
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理事長 五藤 良将