その3種類の薬、夏は要注意|脱水と「トリプルワミー」による急性腎障害
その3種類の薬、夏は要注意|脱水と「トリプルワミー」による急性腎障害
医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
白金高輪の街も連日の猛暑が続いています。外来では「暑さで食欲がない」「汗をたくさんかいた」というお話をよく伺いますが、このとき私たち内科医が真っ先に気にしているのが腎臓です。
じつは、ふだんは何の問題もなく飲めている薬でも、夏の脱水が加わった瞬間に腎臓へ強い負担をかける組み合わせがあります。代表が、血圧の薬(ARB・ACE阻害薬)、利尿薬、そして市販薬でも手に入る痛み止め(NSAIDs)の3剤併用で、海外では「トリプルワミー(Triple Whammy=三段攻撃)」と呼ばれ、急性腎障害(AKI)のリスク因子として広く知られています。
この記事では、夏に腎臓が弱る仕組み、注意すべき薬の組み合わせ、危険なサイン、そして「どんなときに、どの薬を一時的に止めるべきか」を、日本のガイドラインと国内外のエビデンスに基づいて整理します。市販の痛み止めを買う前に、ぜひ一度お読みください。
⚠️ この記事の結論
血圧の薬(ARB・ACE阻害薬)と利尿薬を飲んでいる方が、痛み止め(NSAIDs)を追加した最初の30日間は急性腎障害の発症率が約1.8倍に上がると報告されています(Lapi F, BMJ. 2013;346:e8525)。夏の脱水はこのリスクをさらに押し上げます。「暑くて食べられない・飲めない・下痢が続く」ときは、自己判断で我慢せず、必ず主治医か薬剤師にご相談ください。
1. 夏に腎臓が弱るのはなぜか
腎臓は、心臓から送り出される血液のおよそ4分の1を受け取っている、血流に強く依存した臓器です。糸球体という細かい毛細血管のかたまりで血液をろ過し、1日約150リットルの原尿をつくって、そこから必要なものを再吸収しています。
この作業が成り立つには、糸球体の中の圧力(糸球体内圧)が一定に保たれていることが絶対条件です。ところが夏は、次の3つが同時に起こりやすくなります。
| 夏に起こること | 腎臓への影響 |
|---|---|
| 発汗による体液喪失 | 循環血液量が減り、腎臓に流れ込む血液そのものが減る |
| 食欲低下・水分摂取不足 | 補充が追いつかず、脱水が数日かけて進行する |
| 下痢・嘔吐・発熱 | 夏の感染性胃腸炎などで一気に体液を失う |
健康な方であれば、腎臓は自分で血管の太さを調節して(自己調節能)、多少の脱水では糸球体内圧を保つことができます。問題は、その調節機能を薬が邪魔してしまう場合です。
2. 「トリプルワミー」とは何か
トリプルワミー(Triple Whammy)は、もともとボクシングやスポーツの用語で「三段攻撃」を意味する言葉です。医療の世界では、次の3系統の薬を同時に使っている状態を指します。
| 薬の種類 | 代表的な一般名の例 | よく使われる場面 |
|---|---|---|
| ① RAS阻害薬 (ARB・ACE阻害薬) |
カンデサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン、アジルサルタン、エナラプリル など | 高血圧、心不全、慢性腎臓病、糖尿病性腎症 |
| ② 利尿薬 | フロセミド、アゾセミド、トリクロルメチアジド、スピロノラクトン、配合剤に含まれるヒドロクロロチアジド など | 高血圧、心不全、むくみ |
| ③ NSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬) |
ロキソプロフェン、ジクロフェナク、イブプロフェン、セレコキシブ など ※市販の解熱鎮痛薬にも多く含まれます |
腰痛、関節痛、頭痛、発熱、生理痛 |
エビデンス:3剤併用で急性腎障害が増える
英国の大規模診療データベース(CPRD)を用いた約49万人の研究では、利尿薬+RAS阻害薬の2剤併用に比べ、NSAIDsを加えた3剤併用で急性腎障害の発症率比が1.31倍(95%CI 1.12〜1.53)、とくに3剤併用を開始してから最初の30日間では1.82倍(95%CI 1.35〜2.46)に上昇しました。
出典:Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.
注意していただきたいのは、この研究には「脱水」という要素が含まれていないという点です。ふつうの体調のときですらこれだけリスクが上がるところに、夏の脱水が重なると、負荷はさらに大きくなります。私が「夏こそトリプルワミーに注意」と申し上げるのは、このためです。
3. なぜ3剤そろうと腎臓が止まるのか(しくみ)
糸球体は、輸入細動脈(入口の血管)と輸出細動脈(出口の血管)にはさまれた構造をしています。お風呂の浴槽にたとえると、蛇口が輸入細動脈、排水口が輸出細動脈です。浴槽の水位(=糸球体内圧)が保たれてはじめて、ろ過が成立します。
| 攻撃 1 | 利尿薬・脱水 そもそも体全体の水分(循環血液量)が減り、浴槽に入ってくる水そのものが少なくなる |
| 攻撃 2 | NSAIDs プロスタグランジンの産生を抑えるため、輸入細動脈が収縮する。蛇口が細くなる |
| 攻撃 3 | RAS阻害薬(ARB・ACE阻害薬) アンジオテンシンIIの作用を抑えるため、輸出細動脈が拡張する。排水口が広がる |
結果として起こること
入ってくる水が減り、蛇口が細くなり、排水口が広がる。浴槽の水位(糸球体内圧)は一気に下がり、ろ過量(GFR)が急激に低下します。これが薬剤性の急性腎障害(AKI)です。
重要なのは、3剤のどれもが「悪い薬」ではないということです。ARBは腎臓を長期的に守る薬ですし、利尿薬は心不全の悪化を防ぎます。あくまで脱水という条件が加わったときに、組み合わせが不利に働くという話です。ですから答えは「薬をやめる」ではなく、「危ない状況を知り、そのときだけ一時的に調整する」ことになります。
4. 夏に特に注意したい薬のリスト
トリプルワミーの3剤以外にも、脱水時に腎臓や代謝へ負担をかけうる薬があります。英語圏では休薬を検討すべき薬を「SADMANS」という頭文字でまとめる考え方が知られています。以下は当院でよくご説明している内容です。
| 薬の種類 | 脱水時に問題となる理由 |
|---|---|
| SGLT2阻害薬 (ダパグリフロジン、エンパグリフロジン等) |
尿糖とともに水分が出るため利尿作用があり、脱水を助長する。食事がとれない状況では正常血糖でもケトアシドーシスを起こしうる。日本糖尿病学会のRecommendationでもシックデイでの休薬と脱水防止が明記されています |
| メトホルミン | 腎機能が低下すると血中濃度が上がり、まれに乳酸アシドーシスを起こす。日本糖尿病学会のRecommendationで脱水・シックデイ時の一時中止が求められています |
| ARB・ACE阻害薬 | 糸球体内圧を下げる方向に働く。脱水時は血圧低下・高カリウム血症も伴いやすい |
| 利尿薬 | 体液をさらに減らす。夏は「飲まないほうがよい日」が生じることがあります |
| NSAIDs(市販薬を含む) | 輸入細動脈を収縮させる。処方薬でなくても同じ成分が入っている点が最大の落とし穴 |
| そのほか | 一部の抗菌薬、造影剤、リチウム、ジゴキシンなども脱水時は血中濃度・腎毒性の面で注意が必要です |
⚠️ 市販薬の「隠れNSAIDs」にご注意ください
ドラッグストアの総合感冒薬・解熱鎮痛薬・生理痛の薬には、イブプロフェンやロキソプロフェンが含まれている製品が多くあります。「病院の薬ではないから大丈夫」ということはありません。血圧の薬や利尿薬を飲んでいる方は、購入前に必ず薬剤師にお申し出ください。なお、アセトアミノフェン単剤の解熱鎮痛薬は腎血流への影響が少なく、一般に代替として使いやすい選択肢です(用量・肝機能には別途注意が必要です)。
5. とくに注意が必要な方(リスクチェック)
☑ 健診で「eGFRが60未満」「尿蛋白陽性」を指摘されたことがある
☑ 糖尿病で治療中である
☑ 心不全で通院している
☑ 75歳以上である
☑ 腰痛・膝痛などで痛み止めを常用している
☑ 屋外での仕事・運動習慣があり、大量に汗をかく
☑ ひとり暮らしで、体調不良時に相談できる相手が近くにいない
とくに高齢の方は、のどの渇きを感じにくく、体内の水分の予備が少ないため、本人の自覚がないまま脱水が進みます。「暑いのにあまり汗をかいていない」「トイレの回数が減った」は、すでに体が水分を出し惜しみしているサインです。
6. 見逃してはいけない急性腎障害のサイン
急性腎障害のやっかいなところは、初期にはほとんど症状がないことです。腎臓には痛覚がなく、機能が半分近くまで落ちても本人は気づきません。以下は「腎臓が弱っているかもしれない」と考えていただきたい変化です。
| サイン | 見かたのポイント |
|---|---|
| 尿量が明らかに減った | 日中にトイレへ行く回数が半分以下になった、色が濃い黄褐色になった |
| 体重が急に減った/増えた | 数日で2〜3kg以上の変動は体液量の変化を意味します |
| 立ちくらみ・ふらつき | 脱水+降圧薬で血圧が下がりすぎているサイン。転倒事故にも直結します |
| 強いだるさ・食欲不振・吐き気 | 「夏バテ」と区別がつきにくい。薬を飲んでいる方では要注意です |
| 足のむくみ・息切れ | 尿が出なくなり、体に水がたまってきている可能性があります |
🚨 早めの受診をおすすめする状況
半日以上ほとんど尿が出ない/水も飲めないほどの嘔吐・下痢が続く/意識がもうろうとする、といった場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。夜間・休日であれば救急要請も選択肢になります。
7. 「一時中止」の考え方(シックデイの基本)
体調を崩して食事や水分が十分にとれない日を、医療では「シックデイ」と呼びます。夏の脱水・熱中症・感染性胃腸炎はすべてシックデイにあたります。このとき大切なのは、「全部やめる」でも「全部飲み続ける」でもないということです。
※あくまで「事前に主治医と決めておいた場合」の話です。自己判断での中止・再開はおすすめしません。
勝手に中止してはいけない薬
抗てんかん薬、ステロイド、抗血栓薬(抗凝固薬・抗血小板薬)、免疫抑制薬、甲状腺ホルモン薬、パーキンソン病治療薬、そして1型糖尿病の方のインスリンは、自己判断での中断が重大な結果を招きます。判断に迷うときは必ず医療機関へご連絡ください。
当院では、リスクの高い方には「こういうときは、この薬を何日休んで、いつ再開する」という具体的な取り決めをあらかじめお渡ししています。夏に入る前、あるいは今からでも、外来でご相談ください。糖尿病の方のシックデイ対応については、関連記事で詳しくご説明しています。
📞 「自分の薬は夏に止めていいのか分からない」という方へ。お薬手帳をお持ちいただければ、外来で組み合わせを確認し、休薬の目安をご説明します。ご予約は 03-6432-5353 またはWEB予約から承ります。
8. 薬を飲んでいる方の、夏の水分・塩分のとり方
「水を飲めばよい」と単純化できないのが、薬を飲んでいる方の難しさです。心不全や腎機能低下がある方では水分制限が指示されていることもありますし、逆に利尿薬を飲みながら制限をかけすぎると脱水に傾きます。
| 状況 | 当院でのご案内 |
|---|---|
| ふだんの猛暑日 | のどが渇く前に、コップ1杯を1〜2時間ごと。麦茶・水を基本に |
| 大量に汗をかいたとき | 水だけでは低ナトリウム血症のリスク。経口補水液や塩分を含む飲料を併用 |
| 下痢・嘔吐があるとき | 経口補水液を少量ずつ頻回に。飲めないときは点滴が必要です |
| 心不全・腎不全で水分制限がある | 自己判断で量を変えない。暑い時期の目安は主治医に確認を |
| 糖尿病がある | 清涼飲料水の多飲はペットボトル症候群の原因に。無糖の飲料を基本に |
自宅でできる、いちばん簡単なモニタリング
毎朝、同じ条件で体重を測ることです。数日で2kg以上減っていれば脱水、増えていれば体液貯留を疑います。血圧と体重を並べて記録しておくと、外来での薬の調整が格段に的確になります。
9. 受診したら何を調べるのか
「腎臓が心配」というご相談に対して、当院では次のような検査を組み合わせて評価します。いずれも採血・採尿で行える、負担の少ない検査です。
| 検査項目 | わかること |
|---|---|
| 血清クレアチニン・eGFR | 腎機能の基本指標。過去の値との比較が最も重要です。以前の健診結果をお持ちください |
| BUN/クレアチニン比 | 脱水による腎前性の変化かどうかの手がかりになります |
| 電解質(Na・K・Cl) | 低ナトリウム血症、RAS阻害薬による高カリウム血症の確認 |
| 尿検査(蛋白・潜血・比重) | 腎障害の有無と、脱水の程度(尿比重・尿浸透圧) |
| 尿中アルブミン | 糖尿病の方の早期腎症を、尿蛋白より早くとらえます |
| シスタチンC | 筋肉量の影響を受けにくい腎機能指標。高齢の方・やせた方で有用です |
診断の枠組みとしては、日本では5学会合同(日本腎臓学会・日本集中治療医学会・日本透析医学会・日本急性血液浄化学会・日本小児腎臓病学会)の「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」が引き続き基準として用いられています(2026年7月時点で最新版)。国際的には、KDIGOが2012年版以来となる大改訂として「KDIGO 2026 AKI/AKDガイドライン」の草案を2026年3月に公開し、シスタチンCの診断基準への導入などが検討されています(2026年5月11日までパブリックレビュー、最終版は未公表)。
脱水が原因の急性腎障害(腎前性AKI)は、早期に気づいて水分を補い、原因薬を一時的に調整すれば、多くは可逆的です。逆に発見が遅れると腎機能が元に戻らないことがあります。「早く気づくこと」が何よりの治療です。
10. よくあるご質問(FAQ)
11. 理事長コメント
大切なのは、薬を怖がることではなく、ご自分がどの薬を飲んでいて、どんなときに一時的に止めるべきかを知っておくことです。当院は火曜日を除き日曜・祝日も診療しており、平日にお時間がとれない方でも採血と尿検査を受けていただけます。お薬手帳を1冊お持ちいただければ、その場で組み合わせを確認し、この夏の過ごし方を一緒に決められます。気になる方は、体調を崩す前にご相談ください。」
12. まとめ
✅ 英国の大規模研究では3剤併用開始後30日以内で発症率比1.82倍(BMJ. 2013;346:e8525)
✅ 夏の脱水はこのリスクをさらに押し上げる。市販の解熱鎮痛薬にもNSAIDsは含まれる
✅ SGLT2阻害薬・メトホルミンも、脱水・シックデイ時は学会Recommendationで休薬が求められている
✅ 尿量減少・数日で2kg以上の体重変動・立ちくらみ・強いだるさは受診の目安
✅ 「どの薬を、いつ、何日休むか」は自己判断せず、事前に主治医と取り決めておく
✅ 脱水による腎前性AKIは早期であれば多くが可逆的。早く気づくことが最大の治療
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参考文献・出典
- Lapi F, Azoulay L, Yin H, et al. Concurrent use of diuretics, angiotensin converting enzyme inhibitors, and angiotensin receptor blockers with non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of acute kidney injury: nested case-control study. BMJ. 2013;346:e8525.
- 日本腎臓学会・日本集中治療医学会・日本透析医学会・日本急性血液浄化学会・日本小児腎臓病学会 AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会編「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」(日本腎臓学会誌 59巻4号)
- 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」「CKD診療ガイド2024」
- 日本糖尿病学会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂)
- 日本糖尿病学会「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」(2020年3月18日改訂)
- KDIGO. KDIGO 2026 Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury (AKI) and Acute Kidney Disease (AKD) — Public Review Draft, March 2026.
※本記事の内容は2026年7月29日時点の情報に基づいています。診断・治療は個々の状態により異なりますので、実際の判断は必ず主治医にご相談ください。
お薬手帳をご持参いただければ、腎臓に負担のかかる組み合わせがないかその場で確認いたします。
✅ 血圧の薬と痛み止めを併用している方
✅ 夏の脱水・熱中症のあと、腎機能が心配な方
✅ シックデイの休薬ルールを決めておきたい方
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