【徹底解説】貧血の鉄剤が合わない方へ|飲み方のコツと注射治療という選択肢
- 2026年2月1日
- 貧血・血液内科,内科一般,健康診断・人間ドック,消化器内科,内視鏡検査全般,大腸カメラ(大腸内視鏡),胃カメラ

【徹底解説】貧血の鉄剤が合わない方へ|飲み方のコツと、静注鉄剤(フェインジェクト・モノヴァー)という選択肢
1. そもそも鉄欠乏性貧血とは──ヘモグロビンとフェリチン
| 段階 | 状態 | 健診でわかるか |
|---|---|---|
| 第1段階 貯蔵鉄の減少 |
フェリチンが低下。ヘモグロビンはまだ正常 | わかりません (フェリチンは健診項目に通常含まれません) |
| 第2段階 鉄欠乏性造血 |
赤血球をつくる材料が不足し始める | わかりにくい |
| 第3段階 鉄欠乏性貧血 |
ヘモグロビンが低下。動悸・息切れ・疲れやすさが出現 | わかります |
2. なぜ鉄剤で気持ち悪くなるのか
| 症状 | 起こるしくみ |
|---|---|
| 胃のムカムカ・吐き気・上腹部痛 | 吸収されずに胃の粘膜に触れた鉄が、直接刺激を与えます。空腹時ほど強く出やすくなります |
| 便秘・下痢 | 吸収されなかった鉄が腸内に残り、腸内環境や便の性状に影響します |
| 便が黒くなる | 吸収されなかった鉄の色です。異常ではなく、心配いりません |
| 歯の着色 | シロップ剤などで起こることがあります。ストローの使用や、服用後のうがいで軽減できます |
3. 内服を続けるための7つのコツ
| コツ 1 | 食後に飲んでみる 吸収効率はやや落ちますが、胃への刺激は明らかに軽くなります。「吸収は良いが飲めない薬」より「吸収はやや劣るが続けられる薬」のほうが、結果として治ります。 |
| コツ 2 | 1日2回を1回にまとめる、あるいは隔日にする 詳しくは下でご説明しますが、回数を減らしたほうが1回あたりの吸収効率は上がります。副作用も減らせる可能性があり、担当医とご相談いただく価値の高い方法です。 |
| コツ 3 | 製剤を変えてみる 鉄剤にはいくつかの種類があり、含有量も剤形も異なります。ある薬で強い症状が出ても、別の製剤なら大丈夫という方は珍しくありません。1種類で判断せず、必ずご相談ください。 |
| コツ 4 | 量を減らして長く続ける 短期間に多く入れるより、少量を長く続けるほうが総吸収量で勝ることがあります。急ぐ必要がない場合の有力な選択肢です。 |
| コツ 5 | お茶・コーヒーと同時に飲まない タンニンが吸収を妨げます。かつて言われたほど神経質になる必要はありませんが、服用前後30分〜1時間は避けるのが無難です。牛乳・制酸薬・一部の抗菌薬も吸収を落とします。 |
| コツ 6 | ビタミンCと一緒に ビタミンCは鉄を吸収されやすい形に変えます。オレンジジュースなどと一緒に飲むのも一案です。 |
| コツ 7 | 便秘対策を並行して行う 便秘だけが理由で中断してしまうのは、あまりにもったいないことです。緩下剤を併用すれば続けられる方が大勢いらっしゃいます。 |
鉄欠乏の女性を対象とした無作為化比較試験では、連日投与の吸収率が16.3%だったのに対し、隔日投与では21.8%と有意に高い結果でした(p=0.0013)。1日を分割して2回飲むよりも、朝に1回まとめて飲むほうが効率的であることも同時に示されています。
吸収されずに腸内に残る鉄が減れば、消化器症状も軽くなることが期待できます。
出典:Stoffel NU, Cercamondi CI, Brittenham G, et al. Iron absorption from oral iron supplements given on consecutive versus alternate days and as single morning doses versus twice-daily split dosing in iron-depleted women: two open-label, randomised controlled trials. Lancet Haematol. 2017;4(11):e524-e533. PMID: 29032957
※ 隔日投与は1日あたりの鉄量が半分になるため、貧血の程度や緊急性によっては適さないこともあります。自己判断で変更せず、必ず担当医とご相談ください。
4. それでも難しい方へ──静注鉄剤という選択肢
● 内服では吸収が追いつかないほど貧血が進んでいる
● 出血が続いており、内服では補充が間に合わない(月経過多など)
● 胃切除後、炎症性腸疾患などで消化管からの吸収が期待しにくい
● 手術を控えており、短期間で貧血を改善させる必要がある
● 分娩後の出血に伴う貧血
5. フェインジェクト®・モノヴァー®を徹底比較
| 項目 | フェジン® (含糖酸化鉄) |
フェインジェクト® (カルボキシマルトース第二鉄) |
モノヴァー® (デルイソマルトース第二鉄) |
|---|---|---|---|
| 国内承認 | 従来から使用 | 2019年3月26日 (薬価収載 2020年8月26日) |
2022年3月28日 (薬価収載 2023年3月15日) |
| 1回の鉄量 | 40〜120mg程度 | 500mg | 最大1,000mg(体重50kg以上・点滴静注) 体重50kg未満は20mg/kgが上限 |
| 投与間隔 | 週2〜3回 | 週1回 | 週1回(点滴)、または1回500mgを上限に最大週2回(静注) |
| 総投与鉄量の上限 | 必要量に応じて算出 | ヘモグロビン濃度と体重から算出 | 2,000mg(体重50kg未満は1,000mg) |
| 通院回数の目安 | 10回以上になることも | 2〜3回程度 | 1〜2回で済むことも |
| 低リン血症の 起こりやすさ |
比較的少ない | 注意が必要 | 明らかに少ない |
フェインジェクト®(カルボキシマルトース第二鉄)
モノヴァー®(デルイソマルトース第二鉄)
必要な総鉄量によっては、1回の点滴で治療が完結することがあります。仕事や育児で頻繁に通院できない方にとって、これは大きな利点です。
② 低リン血症が起こりにくい
次章で詳しく述べますが、静注鉄剤に共通する副作用である低リン血症の発生率が、フェインジェクト®と比べて明らかに低いことが示されています。
6. 静注鉄剤の副作用と注意点(低リン血症を中心に)
① 低リン血症──最も重要な注意点
| 評価項目(血清リン) | フェインジェクト®系 (FCM) |
モノヴァー®系 (FDI) |
|---|---|---|
| 低リン血症(2.0mg/dL未満) | 74.4% | 8.0% |
| 高度の低リン血症(1.0mg/dL未満) | 11.3%(13/115例) | 0例 |
| 試験終了時まで持続 | 40.0%(46/115例) | 0例 |
出典:Schaefer B, Tobiasch M, Wagner S, et al. Hypophosphatemia after intravenous iron therapy(PHOSPHARE-IDA試験群の解析)/Wolf M, Rubin J, Achebe M, et al. Risk Factors for and Effects of Persistent and Severe Hypophosphatemia Following Ferric Carboxymaltose. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107(4):1009-1019. PMID: 34850000
※ これらは海外で実施された試験です。国内の両剤の電子添文にも、副作用として血中リン減少・低リン酸血症が記載されています。
② 過敏反応・投与時反応
③ 鉄過剰──「入れすぎ」は害になります
④ その他
7. 貧血の治療──どう進めるのか、全体像
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| ① 原因の除去 | 最も重要です。消化管出血、月経過多、吸収不良など、鉄が減っている理由そのものに対処します。ここを飛ばすと、鉄を入れてもまた減ります |
| ② 鉄の補充 | 内服が第一選択。困難な場合に静注へ。ヘモグロビンを戻すだけでなく、貯蔵鉄(フェリチン)まで満たすことがゴールです |
| ③ 再発予防 | 食事の見直し、月経の管理、定期的な採血によるフォロー。原因が続く方では、間欠的な補充が必要になることもあります |
治療のゴールは「ヘモグロビンが戻ること」ではありません
ですので、ヘモグロビンが正常化したあとも、フェリチンが十分な値になるまで補充を続けます。目安として数か月を要することが多く、「もう良くなったから」と自己判断で中止しないことが、再発を防ぐ最大のポイントです。
改善しないときに考えること
● 吸収されていない……萎縮性胃炎、ピロリ菌感染、胃切除後、セリアック病など
● 飲めていない……副作用で実は中断していた(これは責められることではありません。正直にお話しください)
● そもそも鉄欠乏ではない……慢性炎症に伴う貧血、腎性貧血、ビタミンB12・葉酸欠乏、甲状腺機能低下症、骨髄の病気など
● 複数が重なっている……鉄欠乏とビタミンB12欠乏の合併などは実際にあります
8. 治療の前に「なぜ鉄が減ったのか」を必ず調べます
消化管出血が疑われる場合には、胃カメラ・大腸カメラを毎週土曜日を含めて実施しています。同日に胃カメラと大腸カメラを受けていただくことも可能で、鎮静剤を用いた検査にも対応しています。
そしてフェインジェクト®・モノヴァー®による静注鉄剤治療も当院で行えます。「採血で貧血がわかる」から「原因を突き止め、治療を完了する」まで、当院内で完結します。土曜・日曜・祝日も診療しております(火曜休診)。
9. 白金高輪での診療の流れ
| STEP 1 | 外来受診・問診 症状、月経の状況、便の色、これまでの鉄剤の経過と副作用、服用中のお薬を詳しく伺います |
| STEP 2 | 採血 血算に加え、フェリチン・血清鉄・TIBC、腎機能、肝機能、ビタミンB12・葉酸、甲状腺機能などを必要に応じて評価します |
| STEP 3 | 原因の検索 消化管出血が疑われる場合は胃カメラ・大腸カメラをご提案します。毎週土曜日にも対応しています |
| STEP 4 | 治療方針の決定 まず内服鉄剤を、飲み方の工夫とあわせてご提案します。困難な場合は静注鉄剤を検討し、体重とヘモグロビン濃度から総投与鉄量を算出します |
| STEP 5 | 静注鉄剤の投与 院内で点滴を行い、投与中と投与後の一定時間、経過を観察します。所要時間や回数は事前にご説明します |
| STEP 6 | 効果と安全性の確認 ヘモグロビン・フェリチンに加え、血清リンも確認します。貯蔵鉄が満たされたことを確認して治療を終了し、その後も定期的にフォローします |
10. よくあるご質問
11. 理事長コメント
飲み方を変えるだけで続けられる方もいますし、それでも難しければ点滴という道があります。静注鉄剤はこの数年で大きく進歩し、通院回数も副作用の面も、以前とは比べものにならないほど改善しました。選択肢はあります。
そのうえで、私が最も大切にしているのは「なぜ鉄が減ったのか」を突き止めることです。数値を戻すだけの治療は、本当の治療ではありません。当院では血液内科の専門的評価と、土曜日も含めた内視鏡検査、そして静注鉄剤による治療まで、一連の流れをすべてお引き受けできます。貧血を指摘されてそのままになっている方は、どうか一度ご相談ください。
12. まとめ
✅ 食後に変える、隔日にする、製剤を変える、便秘対策を並行するなど、続けるための工夫がいくつもあります
✅ 隔日投与は連日投与より吸収率が高いことが示されています(21.8% vs 16.3%)
✅ それでも難しい場合は静注鉄剤という確立した選択肢があります(内服が困難・不適当な場合に限ります)
✅ フェインジェクト®は1回500mgを週1回、モノヴァー®は1回最大1,000mgで、1〜2回で完了できることもあります
✅ 静注鉄剤に共通する注意点が低リン血症で、その頻度は製剤により大きく異なります(FCM 74.4% vs FDI 8.0%)
✅ 治療のゴールはヘモグロビンではなくフェリチンです。数値が戻っても自己判断で中止しないでください
✅ 最も大切なのは「なぜ鉄が減ったのか」を調べること。とくに男性・閉経後女性では消化管出血の評価が必須です
✅ 当院は血液内科専門医・総合内科専門医が在籍し、採血評価・毎週土曜日を含む内視鏡検査・静注鉄剤治療まで一貫して対応できます
参考文献・出典
2. Stoffel NU, Zeder C, Brittenham GM, Moretti D, Zimmermann MB. Iron absorption from supplements is greater with alternate day than with consecutive day dosing in iron-deficient anemic women. Haematologica. 2020;105(5):1232-1239.
3. Wolf M, Rubin J, Achebe M, et al. Risk Factors for and Effects of Persistent and Severe Hypophosphatemia Following Ferric Carboxymaltose. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107(4):1009-1019. PMID: 34850000
4. Zoller H, Wolf M, Blumenstein I, et al. Hypophosphataemia following ferric derisomaltose and ferric carboxymaltose in patients with iron deficiency anaemia due to inflammatory bowel disease (PHOSPHARE-IBD): a randomised clinical trial. Gut. 2023;72(4):644-653.
5. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「フェインジェクト®静注500mg」電子添文および審査報告書(承認:2019年3月26日、ゼリア新薬工業株式会社)
6. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「モノヴァー®静注500mg・同静注1000mg」電子添文(承認:2022年3月28日)
7. 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」
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