【徹底解説】貧血の鉄剤が合わない方へ|飲み方のコツと注射治療という選択肢|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

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【徹底解説】貧血の鉄剤が合わない方へ|飲み方のコツと注射治療という選択肢|五良会クリニック白金高輪|白金高輪の内科

【徹底解説】貧血の鉄剤が合わない方へ|飲み方のコツと注射治療という選択肢

【徹底解説】貧血の鉄剤が合わない方へ|飲み方のコツと、静注鉄剤(フェインジェクト・モノヴァー)という選択肢

医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
「貧血と言われて鉄剤を処方されたけれど、飲むと胃がムカムカして続かない」「便秘がひどくて自己判断でやめてしまった」──外来でとてもよく伺うお話です。鉄欠乏性貧血の治療は内服鉄剤が基本ですが、消化器症状のために飲み続けられない方は決して少なくありません。
そして、ここが重要なのですが、「飲めないから治療をあきらめる」必要はまったくありません。飲み方を変えるだけで続けられるようになる方もいますし、それでも難しい場合には、点滴で鉄を補う静注鉄剤という確立した選択肢があります。この記事では、内服を続けるための具体的なコツと、最新の静注鉄剤であるフェインジェクト®・モノヴァー®について、効果・投与回数・副作用まで踏み込んで解説します。

1. そもそも鉄欠乏性貧血とは──ヘモグロビンとフェリチン

体内の鉄は大きく2つに分けられます。血液中で酸素を運ぶために働いている鉄(ヘモグロビン)と、肝臓などに蓄えられている鉄(貯蔵鉄=フェリチン)です。
鉄が足りなくなると、まず貯蔵鉄から先に減っていきます。貯蔵が底をついて、それでも足りなくなって初めてヘモグロビンが下がる。つまり貧血は鉄欠乏の「最終段階」なのです。
段階 状態 健診でわかるか
第1段階
貯蔵鉄の減少
フェリチンが低下。ヘモグロビンはまだ正常 わかりません
(フェリチンは健診項目に通常含まれません)
第2段階
鉄欠乏性造血
赤血球をつくる材料が不足し始める わかりにくい
第3段階
鉄欠乏性貧血
ヘモグロビンが低下。動悸・息切れ・疲れやすさが出現 わかります
貧血がなくても、鉄不足の症状は出ます
疲れやすさ、集中力の低下、抜け毛、爪がもろくなる、氷を無性に食べたくなる(氷食症)、そして脚がむずむずして眠れない(むずむず脚症候群)──これらは貧血になる手前の段階でも起こりえます。「健診では貧血なしだったのに調子が悪い」という方は、フェリチンを測ってみる価値があります。むずむず脚については関連記事「鉄欠乏とむずむず脚症候群」で詳しく解説しています。

2. なぜ鉄剤で気持ち悪くなるのか

内服鉄剤の消化器症状は、頻度の高い副作用です。報告によって幅がありますが、3割前後の方が何らかの胃腸症状を経験するとされています。これは意志の問題でも、体質が弱いからでもありません。薬の性質そのものから生じる、当然の反応です。
症状 起こるしくみ
胃のムカムカ・吐き気・上腹部痛 吸収されずに胃の粘膜に触れた鉄が、直接刺激を与えます。空腹時ほど強く出やすくなります
便秘・下痢 吸収されなかった鉄が腸内に残り、腸内環境や便の性状に影響します
便が黒くなる 吸収されなかった鉄の色です。異常ではなく、心配いりません
歯の着色 シロップ剤などで起こることがあります。ストローの使用や、服用後のうがいで軽減できます
ポイントは、「吸収されなかった鉄」が症状の原因だということです。ここに、飲み方を工夫する余地があります。

3. 内服を続けるための7つのコツ

コツ 1 食後に飲んでみる
吸収効率はやや落ちますが、胃への刺激は明らかに軽くなります。「吸収は良いが飲めない薬」より「吸収はやや劣るが続けられる薬」のほうが、結果として治ります。
コツ 2 1日2回を1回にまとめる、あるいは隔日にする
詳しくは下でご説明しますが、回数を減らしたほうが1回あたりの吸収効率は上がります。副作用も減らせる可能性があり、担当医とご相談いただく価値の高い方法です。
コツ 3 製剤を変えてみる
鉄剤にはいくつかの種類があり、含有量も剤形も異なります。ある薬で強い症状が出ても、別の製剤なら大丈夫という方は珍しくありません。1種類で判断せず、必ずご相談ください。
コツ 4 量を減らして長く続ける
短期間に多く入れるより、少量を長く続けるほうが総吸収量で勝ることがあります。急ぐ必要がない場合の有力な選択肢です。
コツ 5 お茶・コーヒーと同時に飲まない
タンニンが吸収を妨げます。かつて言われたほど神経質になる必要はありませんが、服用前後30分〜1時間は避けるのが無難です。牛乳・制酸薬・一部の抗菌薬も吸収を落とします。
コツ 6 ビタミンCと一緒に
ビタミンCは鉄を吸収されやすい形に変えます。オレンジジュースなどと一緒に飲むのも一案です。
コツ 7 便秘対策を並行して行う
便秘だけが理由で中断してしまうのは、あまりにもったいないことです。緩下剤を併用すれば続けられる方が大勢いらっしゃいます。
🔬 エビデンス:「毎日2回」より「隔日1回」のほうが効率的
鉄を摂ると、体内でヘプシジンというホルモンが上昇します。これは鉄の吸収を抑えるブレーキ役で、上昇した状態が約24時間続きます。つまり毎日飲むと、前日のブレーキが効いたまま次の鉄が入ってくることになります。

鉄欠乏の女性を対象とした無作為化比較試験では、連日投与の吸収率が16.3%だったのに対し、隔日投与では21.8%と有意に高い結果でした(p=0.0013)。1日を分割して2回飲むよりも、朝に1回まとめて飲むほうが効率的であることも同時に示されています。

吸収されずに腸内に残る鉄が減れば、消化器症状も軽くなることが期待できます

出典:Stoffel NU, Cercamondi CI, Brittenham G, et al. Iron absorption from oral iron supplements given on consecutive versus alternate days and as single morning doses versus twice-daily split dosing in iron-depleted women: two open-label, randomised controlled trials. Lancet Haematol. 2017;4(11):e524-e533. PMID: 29032957
※ 隔日投与は1日あたりの鉄量が半分になるため、貧血の程度や緊急性によっては適さないこともあります。自己判断で変更せず、必ず担当医とご相談ください。

4. それでも難しい方へ──静注鉄剤という選択肢

工夫を尽くしても内服が続けられない場合、あるいは内服では追いつかない場合には、点滴・静脈注射で鉄を直接補う方法があります。消化管を通さないため、胃腸の副作用という問題そのものが生じません。
静注鉄剤が検討される主なケース
● 内服鉄剤の消化器症状が強く、工夫しても続けられない
● 内服では吸収が追いつかないほど貧血が進んでいる
● 出血が続いており、内服では補充が間に合わない(月経過多など)
● 胃切除後、炎症性腸疾患などで消化管からの吸収が期待しにくい
● 手術を控えており、短期間で貧血を改善させる必要がある
● 分娩後の出血に伴う貧血
⚠️ 「点滴のほうが楽そうだから」では使えません
静注鉄剤の電子添文には、「経口鉄剤の投与が困難又は不適当な場合に限り使用すること」と明記されています。あくまで内服が第一選択であり、静注はその次の手段です。ご希望があっても、医学的な適応を診察のうえで判断させていただきます。

5. フェインジェクト®・モノヴァー®を徹底比較

日本の静注鉄剤は、この10年ほどで大きく変わりました。かつての主力だった含糖酸化鉄(フェジン®)は1回に投与できる鉄の量が少なく、必要量を補うには週に2〜3回、何週間も通院が必要でした。働きながら治療を受ける方にとって、これは大きな負担です。
そこに登場したのが、1回に大量の鉄を安全に投与できる新世代の製剤です。通院回数が劇的に減りました。
項目 フェジン®
(含糖酸化鉄)
フェインジェクト®
(カルボキシマルトース第二鉄)
モノヴァー®
(デルイソマルトース第二鉄)
国内承認 従来から使用 2019年3月26日
(薬価収載 2020年8月26日)
2022年3月28日
(薬価収載 2023年3月15日)
1回の鉄量 40〜120mg程度 500mg 最大1,000mg(体重50kg以上・点滴静注)
体重50kg未満は20mg/kgが上限
投与間隔 週2〜3回 週1回 週1回(点滴)、または1回500mgを上限に最大週2回(静注)
総投与鉄量の上限 必要量に応じて算出 ヘモグロビン濃度と体重から算出 2,000mg(体重50kg未満は1,000mg)
通院回数の目安 10回以上になることも 2〜3回程度 1〜2回で済むことも
低リン血症の
起こりやすさ
比較的少ない 注意が必要 明らかに少ない
※ 用法・用量は各製剤の電子添文に基づきます。総投与鉄量は投与前のヘモグロビン濃度と体重から計算式で算出するため、実際の投与回数は患者さんごとに異なります。フェジン®の投与量は使用状況により幅があります。

フェインジェクト®(カルボキシマルトース第二鉄)

ゼリア新薬工業から発売されている製剤で、日本で最初に登場した新世代の静注鉄剤です。カルボキシマルトースという糖と鉄が複合体を形成しており、血中で遊離鉄が出にくく、細胞に取り込まれてから徐々に鉄が放出される構造になっています。通常、成人に鉄として1回500mgを週1回、緩徐に静注または点滴静注します。
月経過多による鉄欠乏性貧血の患者さんを対象とした国内第III相試験では、従来のフェジン®に対する非劣性が示されており、効果としては同等でありながら通院回数を大幅に減らせるという位置づけです。

モノヴァー®(デルイソマルトース第二鉄)

より新しい製剤で、デルイソマルトースと鉄がマトリックス構造を形成しているのが特徴です。血中で遊離鉄が分離しにくく、細胞内に取り込まれてから徐々に鉄が放出されます。この安定性の高さにより、1回に最大1,000mgという大量投与が可能になりました。
✅ モノヴァー®の2つの強み
① 通院回数が最小限で済む
必要な総鉄量によっては、1回の点滴で治療が完結することがあります。仕事や育児で頻繁に通院できない方にとって、これは大きな利点です。

② 低リン血症が起こりにくい
次章で詳しく述べますが、静注鉄剤に共通する副作用である低リン血症の発生率が、フェインジェクト®と比べて明らかに低いことが示されています。

6. 静注鉄剤の副作用と注意点(低リン血症を中心に)

点滴なら安心、というわけではありません。静注鉄剤には静注鉄剤なりの注意点があり、それを理解したうえで受けていただくことが大切です。

① 低リン血症──最も重要な注意点

一部の静注鉄剤は、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)というホルモンを上昇させます。FGF23は腎臓からのリンの排泄を増やし、活性型ビタミンDを低下させるため、結果として血液中のリンが下がります
軽度なら無症状ですが、高度あるいは長期にわたると、倦怠感、筋力低下、骨の痛みが生じ、まれに骨軟化症や骨折に至った報告もあります。
🔬 エビデンス:2剤を直接比較した試験(PHOSPHARE-IDA)
米国の30施設で、鉄欠乏性貧血の成人患者を対象に、同一設計の2つの無作為化比較試験が行われました。カルボキシマルトース第二鉄(FCM、750mgを2回)とデルイソマルトース第二鉄(FDI、1,000mgを1回)を比較した結果です。

評価項目(血清リン) フェインジェクト®系
(FCM)
モノヴァー®系
(FDI)
低リン血症(2.0mg/dL未満) 74.4% 8.0%
高度の低リン血症(1.0mg/dL未満) 11.3%(13/115例) 0例
試験終了時まで持続 40.0%(46/115例) 0例
低リン血症の発生に関して、FCMはFDIに対するオッズ比38.37(95%信頼区間 16.62〜88.56、P<0.001)という大きな差が示されました。2005年から2020年の42試験を対象とした系統的検索でも、低リン血症の頻度はFCM 47%に対しFDI 4%と報告されています。

出典:Schaefer B, Tobiasch M, Wagner S, et al. Hypophosphatemia after intravenous iron therapy(PHOSPHARE-IDA試験群の解析)/Wolf M, Rubin J, Achebe M, et al. Risk Factors for and Effects of Persistent and Severe Hypophosphatemia Following Ferric Carboxymaltose. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107(4):1009-1019. PMID: 34850000
※ これらは海外で実施された試験です。国内の両剤の電子添文にも、副作用として血中リン減少・低リン酸血症が記載されています。

当院での対応
この差を踏まえ、当院では投与前後に血清リンを含めた採血で経過を確認しながら治療を進めます。とくに繰り返し投与が必要な方、腎機能に問題のある方、骨粗鬆症のある方では、製剤の選択を慎重に検討します。「どちらが優れているか」ではなく、「この患者さんにはどちらが適しているか」で判断するのが正しい考え方です。

② 過敏反応・投与時反応

まれではありますが、投与中や直後にほてり、動悸、息苦しさ、発疹などが出ることがあります。重篤なアレルギー反応の頻度は現在の製剤では低いとされていますが、投与中および投与後の一定時間は院内で経過を観察し、すぐに対応できる体制のもとで行います。

③ 鉄過剰──「入れすぎ」は害になります

静注鉄剤は消化管の吸収調節を経由せず、鉄が直接体内に入ります。そのため、必要量を超えて投与すると鉄が体内に蓄積し、肝臓などに負担をかけます
だからこそ、投与前にヘモグロビン濃度と体重から必要な総鉄量を計算し、その量に達したら治療を終えるという運用が定められています。「貧血だから念のためもう一本」という使い方はしません。治療後もフェリチンをフォローし、過剰になっていないかを確認します。

④ その他

頭痛、倦怠感、悪心、発熱、肝機能検査値の上昇などが報告されています。また、点滴が血管の外に漏れると皮膚に褐色の色素沈着が残ることがあるため、投与中に刺入部の痛みや違和感を感じたら、すぐにお知らせください。

7. 貧血の治療──どう進めるのか、全体像

ここまで薬の話をしてきましたが、鉄欠乏性貧血の治療は「鉄を入れること」だけではありません。実際の診療は、次の3本柱で進めます。
内容
① 原因の除去 最も重要です。消化管出血、月経過多、吸収不良など、鉄が減っている理由そのものに対処します。ここを飛ばすと、鉄を入れてもまた減ります
② 鉄の補充 内服が第一選択。困難な場合に静注へ。ヘモグロビンを戻すだけでなく、貯蔵鉄(フェリチン)まで満たすことがゴールです
③ 再発予防 食事の見直し、月経の管理、定期的な採血によるフォロー。原因が続く方では、間欠的な補充が必要になることもあります

治療のゴールは「ヘモグロビンが戻ること」ではありません

ここは非常によく誤解される点です。鉄剤を飲み始めると、ヘモグロビンは比較的早く回復します。目安として、2〜4週間で改善が見え始め、2か月ほどで正常域に入る方が多くいらっしゃいます。
⚠️ ヘモグロビンが戻ったところでやめると、必ず再発します
この時点では、まだ貯蔵鉄(フェリチン)は空っぽのままです。家計にたとえるなら、給料日で口座残高は戻ったけれど貯金はゼロという状態。何かあればすぐに元に戻ってしまいます。

ですので、ヘモグロビンが正常化したあとも、フェリチンが十分な値になるまで補充を続けます。目安として数か月を要することが多く、「もう良くなったから」と自己判断で中止しないことが、再発を防ぐ最大のポイントです。

改善しないときに考えること

鉄を補っても貧血が良くならない場合、次のような可能性を検討します。「鉄剤が効かない」ときこそ、診断を見直すべきタイミングです。
出血が続いている……補充が追いついていない。消化管出血、月経過多の評価が必要です
吸収されていない……萎縮性胃炎、ピロリ菌感染、胃切除後、セリアック病など
飲めていない……副作用で実は中断していた(これは責められることではありません。正直にお話しください)
そもそも鉄欠乏ではない……慢性炎症に伴う貧血、腎性貧血、ビタミンB12・葉酸欠乏、甲状腺機能低下症、骨髄の病気など
複数が重なっている……鉄欠乏とビタミンB12欠乏の合併などは実際にあります
この鑑別こそ、血液内科の専門的な判断が必要になる場面です。当院には血液内科専門医・総合内科専門医が在籍しており、こうした症例にも対応しています。

8. 治療の前に「なぜ鉄が減ったのか」を必ず調べます

繰り返しになりますが、これが最も大切です。とくに男性と閉経後の女性で鉄欠乏が見つかった場合、消化管からの慢性的な出血を疑うのが内科の鉄則です。
鉄欠乏性貧血が「がんの最初のサイン」であることがあります
胃がんや大腸がんは、少量ずつ長期間出血していると、目に見える症状がないまま鉄だけが減っていきます。「貧血」が唯一の手がかりだったという症例を、私たちは実際に経験しています。鉄剤や点滴で数値だけを改善させ、原因を調べないまま経過してしまうことは、絶対に避けなければなりません。
✅ 当院なら「原因の特定」から「治療」まで一貫して対応できます
五良会クリニック白金高輪には血液内科専門医・総合内科専門医が在籍し、鉄代謝の詳細な評価と専門的な治療をお引き受けできます。

消化管出血が疑われる場合には、胃カメラ・大腸カメラを毎週土曜日を含めて実施しています。同日に胃カメラと大腸カメラを受けていただくことも可能で、鎮静剤を用いた検査にも対応しています。

そしてフェインジェクト®・モノヴァー®による静注鉄剤治療も当院で行えます。「採血で貧血がわかる」から「原因を突き止め、治療を完了する」まで、当院内で完結します。土曜・日曜・祝日も診療しております(火曜休診)。

9. 白金高輪での診療の流れ

STEP 1 外来受診・問診
症状、月経の状況、便の色、これまでの鉄剤の経過と副作用、服用中のお薬を詳しく伺います
STEP 2 採血
血算に加え、フェリチン・血清鉄・TIBC、腎機能、肝機能、ビタミンB12・葉酸、甲状腺機能などを必要に応じて評価します
STEP 3 原因の検索
消化管出血が疑われる場合は胃カメラ・大腸カメラをご提案します。毎週土曜日にも対応しています
STEP 4 治療方針の決定
まず内服鉄剤を、飲み方の工夫とあわせてご提案します。困難な場合は静注鉄剤を検討し、体重とヘモグロビン濃度から総投与鉄量を算出します
STEP 5 静注鉄剤の投与
院内で点滴を行い、投与中と投与後の一定時間、経過を観察します。所要時間や回数は事前にご説明します
STEP 6 効果と安全性の確認
ヘモグロビン・フェリチンに加え、血清リンも確認します。貯蔵鉄が満たされたことを確認して治療を終了し、その後も定期的にフォローします

10. よくあるご質問

Q. 点滴は1回でどのくらい時間がかかりますか
A. 製剤と投与量によって異なりますが、点滴静注では30分程度、その後の経過観察を含めて1時間前後を目安にお考えください。初回は説明と同意の時間も含めて、少し余裕をもってご来院ください。
Q. 何回通えば終わりますか
A. 必要な総鉄量は、投与前のヘモグロビン濃度と体重から計算します。そのため貧血が軽く体格が小さい方ほど少ない回数で済みます。モノヴァー®であれば1〜2回で完了する方もいらっしゃいます。初診時に必要量を計算し、おおよその回数をお伝えします。
Q. 保険は使えますか。費用はどのくらいですか
A. 鉄欠乏性貧血に対する治療として健康保険が適用されます(経口鉄剤が困難または不適当な場合に限られます)。参考までに、フェインジェクト®静注500mgの薬価は5,759円で、3割負担の方であれば薬剤費のご負担は約1,700円程度、これに診察料・点滴の手技料・検査料が加わります。詳しくは受診時にご案内します。
Q. フェインジェクトとモノヴァー、どちらが良いのですか
A. 一概にどちらが優れているとは言えません。低リン血症の起こりにくさではモノヴァー®に明確な利点があり、1回で完了しやすい点も魅力です。一方で、症例によってはフェインジェクト®が適していることもあります。必要な総鉄量、体重、腎機能、骨の状態、繰り返し投与の見込み、通院の都合を総合して、診察のうえで一緒に決めていきます。
Q. 市販の鉄サプリメントではだめですか
A. 予防目的や軽度の不足には役立ちますが、治療が必要な鉄欠乏性貧血をサプリメントだけで治すのは現実的ではありません。含有量が医療用鉄剤より少ないことが多いためです。それ以上に問題なのは、サプリメントで数値だけが改善し、背後にある出血源の発見が遅れることです。貧血を指摘されたら、まず原因を調べてください。
Q. 妊娠中・授乳中でも受けられますか
A. 妊娠中・授乳中の鉄欠乏はよくみられ、静注鉄剤が用いられる場面もあります。ただし時期や状況によって判断が異なり、産科の主治医との連携が必要です。妊娠中・授乳中の方は、必ず受診時にその旨をお知らせください。
Q. 点滴のあと、だるさや微熱が出ることはありますか
A. 頭痛、倦怠感、発熱などが報告されており、数日で軽快することがほとんどです。ただしだるさや筋力低下が長引く場合には低リン血症の可能性もありますので、我慢せずご連絡ください。採血で確認できます。

11. 理事長コメント

💬 理事長 五藤良将より
「鉄剤が飲めなくて、治療を途中でやめてしまった」という方に、これまで何人もお会いしてきました。多くの方が申し訳なさそうにお話しされるのですが、飲めないのはご本人のせいではありません。薬の性質上、当然起こりうることなのです。

飲み方を変えるだけで続けられる方もいますし、それでも難しければ点滴という道があります。静注鉄剤はこの数年で大きく進歩し、通院回数も副作用の面も、以前とは比べものにならないほど改善しました。選択肢はあります。

そのうえで、私が最も大切にしているのは「なぜ鉄が減ったのか」を突き止めることです。数値を戻すだけの治療は、本当の治療ではありません。当院では血液内科の専門的評価と、土曜日も含めた内視鏡検査、そして静注鉄剤による治療まで、一連の流れをすべてお引き受けできます。貧血を指摘されてそのままになっている方は、どうか一度ご相談ください。

12. まとめ

📝 この記事のポイント
✅ 内服鉄剤の消化器症状は3割前後の方が経験する、頻度の高い副作用です
✅ 食後に変える、隔日にする、製剤を変える、便秘対策を並行するなど、続けるための工夫がいくつもあります
✅ 隔日投与は連日投与より吸収率が高いことが示されています(21.8% vs 16.3%)
✅ それでも難しい場合は静注鉄剤という確立した選択肢があります(内服が困難・不適当な場合に限ります)
✅ フェインジェクト®は1回500mgを週1回、モノヴァー®は1回最大1,000mgで、1〜2回で完了できることもあります
✅ 静注鉄剤に共通する注意点が低リン血症で、その頻度は製剤により大きく異なります(FCM 74.4% vs FDI 8.0%)
治療のゴールはヘモグロビンではなくフェリチンです。数値が戻っても自己判断で中止しないでください
最も大切なのは「なぜ鉄が減ったのか」を調べること。とくに男性・閉経後女性では消化管出血の評価が必須です
当院は血液内科専門医・総合内科専門医が在籍し、採血評価・毎週土曜日を含む内視鏡検査・静注鉄剤治療まで一貫して対応できます

参考文献・出典

1. Stoffel NU, Cercamondi CI, Brittenham G, et al. Iron absorption from oral iron supplements given on consecutive versus alternate days and as single morning doses versus twice-daily split dosing in iron-depleted women: two open-label, randomised controlled trials. Lancet Haematol. 2017;4(11):e524-e533. PMID: 29032957 / DOI: 10.1016/S2352-3026(17)30182-5
2. Stoffel NU, Zeder C, Brittenham GM, Moretti D, Zimmermann MB. Iron absorption from supplements is greater with alternate day than with consecutive day dosing in iron-deficient anemic women. Haematologica. 2020;105(5):1232-1239.
3. Wolf M, Rubin J, Achebe M, et al. Risk Factors for and Effects of Persistent and Severe Hypophosphatemia Following Ferric Carboxymaltose. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107(4):1009-1019. PMID: 34850000
4. Zoller H, Wolf M, Blumenstein I, et al. Hypophosphataemia following ferric derisomaltose and ferric carboxymaltose in patients with iron deficiency anaemia due to inflammatory bowel disease (PHOSPHARE-IBD): a randomised clinical trial. Gut. 2023;72(4):644-653.
5. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「フェインジェクト®静注500mg」電子添文および審査報告書(承認:2019年3月26日、ゼリア新薬工業株式会社)
6. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「モノヴァー®静注500mg・同静注1000mg」電子添文(承認:2022年3月28日)
7. 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」
本記事について
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。記載した薬剤はいずれも医師の処方が必要な医療用医薬品です。静注鉄剤は経口鉄剤の投与が困難または不適当な場合に限り使用されます。用量・費用の記載は目安であり、実際の治療は必ず診察のうえ決定します。掲載内容は2026年9月時点の情報に基づいています。
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