医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)
「一年じゅう鼻がぐずぐずする」「朝起きた瞬間にくしゃみが止まらない」「エアコンをつけると鼻水が出る」――そんな症状でお悩みの方も多いのではないでしょうか。その原因として最も多いのが、ダニ(チリダニ)によるアレルギー性鼻炎です。実は、高温多湿の日本の夏はダニが一年で最も増える季節であり、夏の繁殖をそのままにすると、秋に鼻炎症状が一気に悪化します。
最初に結論をお伝えします。ダニアレルギーには、症状を抑える薬(対症療法)だけでなく、体質そのものに働きかける「舌下免疫療法(ミティキュア)」という保険適用の治療があります。ダニの舌下免疫療法は季節を問わず一年中いつでも開始でき、5歳のお子さまから治療可能です。この記事では、ダニが増える夏にこそ知っていただきたい舌下免疫療法の仕組み・流れ・注意点を、アレルギー科を標榜する当院の視点から解説します。
1. なぜ「夏」がダニアレルギー対策の分かれ道なのか
アレルギーの原因となるダニは、主にヤケヒョウヒダニ・コナヒョウヒダニ(チリダニ科)です。刺すダニではなく、寝具やカーペット、布製ソファなどに潜み、ヒトのフケやアカをエサにして増えます。チリダニは気温25℃前後・湿度60〜80%を好むため、梅雨から盛夏(おおむね6〜8月)が一年で最大の繁殖期にあたります。
重要なのは、症状のピークが夏そのものではなく秋に来ることです。夏に増えたダニは秋口に寿命を迎え、その死骸やフンが乾燥して細かく砕け、空気中に舞い上がりやすいアレルゲンになります。「秋になると鼻炎や咳がひどくなる」という方の背景には、夏のダニの大繁殖が隠れていることが少なくありません。
通年性アレルギー性鼻炎は国民のおよそ4人に1人
わが国の全国調査(2019年)では、ダニ・ハウスダストを主な原因とする通年性アレルギー性鼻炎の有病率は24.5%と報告されています。10年ごとの調査のたびに増加しており、いまや「国民病」のひとつです。
出典:鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(改訂第10版)、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
つまり夏は、「ダニを増やさない環境対策」と「秋の悪化に備えた治療の検討」を同時に始められる、一年で最も戦略的なタイミングなのです。
2. あなたの鼻炎はダニが原因?セルフチェック
スギ花粉症が春に限られるのに対し、ダニによるアレルギー性鼻炎は季節を問わず一年中症状が出ます。次の項目に複数当てはまる方は、ダニアレルギーの可能性があります。
✅ ダニアレルギーを疑うサイン
□ くしゃみ・鼻水・鼻づまりが一年じゅうある
□ 朝起きた直後に症状が強い(モーニングアタック)
□ 寝室や布団に入ると症状が出る
□ 掃除・布団の上げ下ろしでくしゃみが出る
□ エアコンをつけ始めた時期に鼻炎や咳が悪化した
□ 目のかゆみ、皮膚のかゆみ、長引く咳を伴う
原因がダニかどうかは、血液検査(特異的IgE抗体検査)で確認できます。当院では保険診療で複数のアレルゲンを一度に調べることができ、結果は後日の再診でご説明します。舌下免疫療法を始めるにはダニがアレルゲンであることの確定診断が必須ですので、まずは検査からスタートします。
⚠️ 「かぜが長引いているだけ」と思っていませんか
2週間以上つづく鼻水・くしゃみ・咳は、かぜ(ウイルス感染)よりもアレルギーや他の疾患の可能性が高くなります。市販薬でしのぎ続ける前に、一度原因を調べることをおすすめします。
3. 舌下免疫療法とは――体質に働きかける唯一のタイプの治療
抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイドなどの内服・外用薬は、あくまで症状を一時的に抑える「対症療法」です。薬をやめれば症状は戻りますし、原因体質そのものは変わりません。
これに対してアレルゲン免疫療法(減感作療法)は、原因アレルゲンをごく少量から継続的に体に取り込むことで、免疫にアレルゲンを「慣れさせ」、アレルギー反応そのものを起こりにくくする治療です。鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(改訂第10版)でも、アレルゲン免疫療法は症状の長期寛解や自然経過の改善が期待できる治療として位置づけられています。かつては注射(皮下免疫療法)で行われていましたが、現在は自宅で毎日1錠を舌の下で溶かすだけの「舌下免疫療法」が主流となり、通院負担が大きく減りました。
🔬 対症療法と舌下免疫療法の違い
対症療法(抗ヒスタミン薬・点鼻薬など):効果は服用している間だけ。眠気などの副作用が出る薬もある。
舌下免疫療法:3〜5年の継続治療により、治療終了後も効果の持続が期待できる。症状が完全に消えない場合でも、症状の軽減・使用する薬の減量が期待できる。
出典:鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(改訂第10版)
もちろん「全員が完治する治療」ではありません。効果には個人差があり、十分な効果を得るには年単位の継続が必要です。それでも、薬を飲み続ける毎日から抜け出せる可能性があるという点で、検討する価値の大きい治療です。
4. ダニ舌下錠「ミティキュア」の基本情報
当院で処方するダニ舌下免疫療法薬は「ミティキュア®ダニ舌下錠」(鳥居薬品)です。日本では2015年9月28日に製造販売承認され、同年12月3日に発売されました。当初は12歳以上が対象でしたが、2018年2月に小児への適応が拡大され、現在は原則5歳以上から治療できます。もちろん保険適用の治療です。
| 項目 |
内容 |
| 対象 |
ダニアレルゲンによるアレルギー性鼻炎と確定診断された方(原則5歳以上) |
| 用法 |
最初の1週間は3,300JAU錠、2週目以降は10,000JAU錠を1日1回、舌の下で1分間保持してから飲み込む |
| 開始時期 |
一年中いつでも開始可能(スギ舌下と異なり飛散期の制約なし) |
| 治療期間 |
3年以上(一般に3〜5年)の継続が推奨 |
| 費用 |
保険適用。小児は自治体の医療費助成の対象になる場合があります(詳細は受診時にご案内します) |
| 治療できない方 |
重症・不安定な気管支喘息の方、本剤でショックの既往がある方 など |
出典:ミティキュア®ダニ舌下錠 添付文書、鳥居薬品プレスリリース(2015年9月28日)
5. 治療開始から継続までの流れ
当院でのダニ舌下免疫療法は、次のステップで進みます。
| STEP 1 |
診察・アレルギー検査 症状の問診と血液検査(特異的IgE抗体検査)でダニアレルギーを確定診断します。 |
| STEP 2 |
初回服用(院内で実施) 初回は必ず医師の監督下・院内で服用し、服用後30分程度はアレルギー反応が出ないか院内で経過を観察します。 |
| STEP 3 |
自宅で毎日1錠 2日目からはご自宅で1日1回服用します。最初の1週間は低用量(3,300JAU)、2週目からは維持量(10,000JAU)に増量します。 |
| STEP 4 |
定期通院(月1回程度) 副反応の確認と処方のため、月1回程度通院いただきます。当院は土・日・祝も診療、平日は19時までのため、お仕事や学校と両立しやすい体制です。 |
| STEP 5 |
3〜5年継続して効果を定着 効果は数か月から徐々に現れ、長く続けるほど治療終了後の持続効果が期待できます。 |
📅 舌下免疫療法のご相談は、通常の内科・アレルギー科外来で承ります。
白金高輪駅2番出口 徒歩1分。
WEB予約はこちら(TEL: 03-6432-5353)
6. 副反応と服用時の注意点
舌下免疫療法はアレルゲンそのものを体に入れる治療のため、一定の副反応があります。多くは口の中のかゆみ・違和感、唇や口内の腫れ、のどの刺激感など局所の症状で、治療開始初期に多く、継続とともに軽くなっていくことが一般的です。
まれですが重要な副反応
頻度はまれですが、アナフィラキシー(じんましん、呼吸困難、血圧低下など全身の急激なアレルギー反応)が起こる可能性があります。だからこそ初回は院内で服用し、経過を観察します。服用後に息苦しさ・全身のじんましん・強い腹痛や嘔吐が出た場合は、直ちに医療機関を受診してください。
日々の服用では、次のルールを守っていただきます。
⚠️ 服用時の約束ごと
・舌の下に置いて1分間保持してから飲み込む
・服用後5分間は、うがい・飲食をしない
・服用の前後2時間は、激しい運動・入浴・飲酒を避ける(体温上昇・血流増加で副反応が出やすくなるため)
・体調不良時や喘息発作時、抜歯・口内炎など口の中に傷があるときは服用を休み、再開時期は医師に確認する
出典:ミティキュア®ダニ舌下錠 添付文書
7. どんな方に向いている治療か
✅ 舌下免疫療法を特におすすめしたい方
・一年じゅう鼻炎薬が手放せない方、薬を減らしたい方
・抗ヒスタミン薬の眠気が仕事や勉強の支障になっている方
・受験を控えたお子さま(治療効果が出るまで年単位かかるため、受験の2〜3年前からの開始が理想的です)
・鼻づまりによる睡眠の質の低下、日中の集中力低下にお悩みの方
・将来の妊娠を考えており、妊娠中の内服薬を減らしておきたい方(治療開始は妊娠前に)
一方で、毎日の服用を3年以上続ける根気が必要な治療です。「数週間で劇的に治る」治療ではないことをご理解のうえ、生活スタイルに合うかどうかを診察でご相談ください。5歳未満のお子さま、重症の気管支喘息の方、その他の条件により治療をおすすめできない場合もあります。
8. スギ花粉症の舌下免疫療法も「いま」が開始適期
「ダニもスギも両方ある」という方は多くいらっしゃいます。スギ花粉症の舌下免疫療法(シダキュア®スギ花粉舌下錠)は、花粉が飛んでいる時期(おおむね1〜5月)には新規開始できず、飛散が終わった6月頃から12月頃までが開始のシーズンです。つまり、この夏はダニだけでなくスギの舌下免疫療法も始められる時期にあたります。
ダニとスギの両方にアレルギーがある方では、医師の判断のもと2種類の舌下免疫療法を併用できる場合があります(一般に、一方の治療で問題がないことを確認してからもう一方を追加します)。「来春の花粉症を軽くしたい」「秋のダニ症状も何とかしたい」という方は、夏のうちにまとめてご相談いただくのが効率的です。
9. ご家庭でできるダニ対策――治療と環境整備は車の両輪
舌下免疫療法を行う場合も行わない場合も、ダニアレルゲンを減らす環境整備は治療効果を高める基本です。特に夏の繁殖期に手を打つことで、秋のアレルゲン量を減らせます。
夏に取り組みたいダニ対策
・寝具が最重要:シーツ・枕カバーはこまめに洗濯し、布団は乾燥機(高温)にかけたあと掃除機をかける(ダニの死骸・フンは洗濯・掃除機で除去)
・室内の湿度を50%前後に保つ(エアコンの除湿・換気を活用)
・カーペットや布製ソファ、ぬいぐるみを減らす。防ダニカバーの利用も有効
・エアコン内部のカビ・ホコリは鼻炎・咳の悪化要因。冷房シーズン前後のフィルター清掃を習慣に
10. よくあるご質問
Q. 効果はいつ頃から実感できますか?
A. 個人差がありますが、早い方で数か月、多くの方は1年程度の継続で症状の軽減を実感されます。効果判定を急がず、まず1年間の継続を目標にしましょう。
Q. 本当に「完治」しますか?
A. 全員が完治する治療ではありません。ただし、症状が完全に消えない場合でも症状の軽減や使用する薬の減量が期待でき、規定の期間を続けた方では治療終了後も効果の持続が報告されています(鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版)。
Q. 子どもでも治療できますか?
A. 原則5歳以上で、錠剤を舌の下に1分間保持できるお子さまであれば治療可能です。当院は小児科も標榜しており、お子さまの舌下免疫療法のご相談も承ります。
Q. 飲み忘れたらどうなりますか?
A. 1日程度の飲み忘れであれば、気づいた翌日から通常どおり再開してください。数日以上中断した場合は自己判断で再開せず、必ず医師にご相談ください(減量して再開する場合があります)。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
A. 保険適用の治療です。診察料・検査料・薬剤費を含めた自己負担額は保険の負担割合やお住まいの自治体の小児医療費助成によって変わりますので、受診時に具体的にご案内します。
Q. いま症状が落ち着いていても、夏に始める意味はありますか?
A. あります。ダニ舌下免疫療法は症状が落ち着いている時期のほうが開始しやすい治療です。夏に開始しておけば、ダニアレルゲンが増える秋を治療を進めた状態で迎えられます。
11. 理事長コメント
💬 理事長 五藤良将より
「アレルギー性鼻炎は命に関わる病気ではない分、『薬でしのげばいい』と長年我慢されている方が本当に多い疾患です。しかし睡眠の質や日中の集中力への影響は決して小さくなく、特にお子さまでは学業への影響も無視できません。舌下免疫療法は年単位の根気が必要な治療ですが、毎日の服用は1分で済み、当院は土・日・祝も診療、平日は19時までと通院を続けやすい体制を整えています。ダニが増えるこの季節、ご自身やお子さまの『一年じゅうの鼻炎』を見直すきっかけにしていただければ幸いです。」
12. まとめ
📝 この記事のポイント
✅ ダニは高温多湿の夏(6〜8月)に繁殖のピークを迎え、秋に死骸・フンがアレルゲンとなって鼻炎症状が悪化しやすい
✅ 一年じゅう続く鼻炎の原因として最も多いのがダニ。血液検査で確定診断できる
✅ 舌下免疫療法(ミティキュア)は体質に働きかける保険適用の治療で、原則5歳以上・一年中いつでも開始できる
✅ 治療は3〜5年の継続が推奨され、症状軽減・薬の減量・治療終了後の効果持続が期待できる
✅ スギ花粉症の舌下免疫療法(シダキュア)も6〜12月が開始適期。ダニとの併用も相談可能
✅ 夏の寝具・湿度管理などの環境整備は治療と並ぶ基本対策
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