狂犬病ワクチンは渡航前に3回|スケジュール・費用・咬まれたときの対応を日本旅行医学会認定医が解説
- 2026年8月16日
- 渡航外来(トラベルクリニック),トラベルワクチン,予防接種・ワクチン,お知らせ
医療法人社団五良会|理事長、竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)/日本旅行医学会認定医
1. 狂犬病は「発症すればほぼ100%死亡」する感染症です
発病してからでは、有効な治療法がありません
狂犬病は、発病後の有効な治療法が存在しない感染症です。だからこそ「発病させないこと」がすべてになります。
出典:厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」/日本獣医師会 事務連絡(2020年5月25日)
2. 世界では10分に1人が狂犬病で亡くなっています
また、咬まれる被害を受ける方のうち約4割が15歳未満の子どもと推定されており、小さなお子さまを帯同される海外赴任では特に注意が必要です。
出典:国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センター「狂犬病の予防について」/WHO Expert Consultation on Rabies, WHO Technical Report Series 1012, 2018
日本は「清浄国」だからこそ、実感が持ちにくい
⚠️ 2020年の症例が示すもの
2020年の症例では、フィリピンで犬に咬まれてから約8か月後に発症しています。「咬まれたけれど、しばらく何ともなかったから大丈夫」という判断が、いかに危険かを示す事例です。
出典:厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」/国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト IASR
3. 感染源はイヌだけではありません
| 地域 | 主な感染源 | 渡航時の注意点 |
|---|---|---|
| アジア | イヌ | 街中の放し飼い犬・子犬に手を出さない |
| アフリカ | イヌ | 医療アクセスが限られる地域が多い |
| 北米 | アライグマ、コウモリ、スカンク、コヨーテ、キツネ | キャンプ・洞窟・野外活動時に注意 |
| ヨーロッパ | キツネ、コウモリ | 東欧・南欧の一部でリスクが残る |
| 中南米 | コウモリ | 睡眠中の吸血コウモリ咬傷に注意 |
「かわいい」と思っても、渡航先では触らない
旅先で出会う子犬や子猫はどうしても愛らしく見えますが、狂犬病流行国では放し飼いの哺乳類には近づかない・触らない・餌をやらないが原則です。咬まれるだけでなく、引っかかれた傷や、傷口・粘膜を舐められた場合も感染経路になり得ます。
4. 渡航前に打つ最大の理由は「免疫グロブリン問題」です
渡航前に接種していない場合
渡航前に接種してある場合
✔ 咬まれた後の追加接種は、筋肉注射で0日・3日の2回のみで済みます(未接種なら4〜6回必要)
✔ 曝露前接種の完了から3か月以内の曝露であれば、曝露後予防の接種自体が不要とされています
出典:国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センター「狂犬病の予防について」(WHO推奨に基づく)
5. ラビピュール筋注用とは(国内で承認された唯一の狂犬病ワクチン)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | ラビピュール筋注用 |
| 一般名 | 乾燥組織培養不活化狂犬病ワクチン(不活化ワクチン) |
| 効能・効果 | 狂犬病の予防(曝露前免疫)/狂犬病の発病阻止(曝露後免疫) |
| 日本での承認 | 2019年3月にグラクソ・スミスクライン株式会社(GSK)が製造販売承認を取得、同年7月26日に国内販売開始 |
| 現在の製造販売元 | 株式会社オーファンパシフィック(2024年10月28日付でGSKより製造販売承認を承継) |
| 用法 | 1回1.0mLを筋肉内接種 |
| 位置づけ | 現在、国内で承認されている唯一の狂犬病ワクチン |
国内承認ワクチンであることの意味
国内で承認されたワクチンは、万一の健康被害の際に予防接種健康被害救済制度の対象となります。狂犬病については国内承認ワクチンで対応できますので、当院ではラビピュール筋注用を使用しています。
なお、渡航ワクチンのなかには、対象年齢や効果の持続期間の観点から輸入ワクチンを用いることが適している場合もあります。国内未承認ワクチンは国の救済制度の対象外となりますが、輸入代行業者が独自に設けている副作用被害補償制度が適用されるため、補償が何もないわけではありません。詳しくは接種前にご説明いたします。
当院ではもう一つの選択肢、ChiroRabもご用意しています
⚠️ 「由来は同じ」でも「同じ扱い」ではありません
同じ系譜の製剤ではありますが、日本で薬事承認を受けているのはラビピュール筋注用のみです。ChiroRabは国内未承認のため、予防接種健康被害救済制度の対象外となります(輸入代行業者の補償制度が適用されます)。両者は別個の製品として扱う必要があり、当院でも接種前に必ず違いをご説明したうえでお選びいただいています。
| 項目 | ラビピュール筋注用 | ChiroRab |
|---|---|---|
| ワクチンの種類 | 精製ニワトリ胚細胞培養狂犬病ワクチン(PCECV) | 精製ニワトリ胚細胞培養狂犬病ワクチン(PCECV) |
| 日本での承認 | 承認あり(2019年3月承認、同年7月26日発売) | 未承認(輸入) |
| 健康被害の救済 | 予防接種健康被害救済制度の対象 | 国の制度は対象外(輸入代行業者の補償制度) |
| 当院の費用(1回・税込/渡航前の自費接種) | 18,700円 | 16,280円 |
| 咬まれた後(曝露後接種)の保険適用 | 適用されます | 適用されません(全額自費) |
📌 未承認医薬品に関する明示事項
ChiroRabは、日本国内において薬事承認を受けていない医薬品です。
② 入手経路
医師の判断のもと、個人輸入代行業者を通じて輸入しています。
③ 国内の承認医薬品等の有無
同じ精製ニワトリ胚細胞培養狂犬病ワクチン(PCECV)であるラビピュール筋注用が、日本国内で承認されています。当院ではこちらもご用意しており、ご希望に応じてお選びいただけます。
④ 諸外国における安全性等に係る情報
ChiroRabは、WHOの事前認証を受けた製造所において、Rabipurと同じ製造技術で製造されている製剤です。インドをはじめ各国で狂犬病の曝露前免疫・曝露後免疫に使用されています。一方で、日本国内における副作用報告制度の対象外であり、国内での使用実績に基づく安全性情報は限られます。
⑤ 健康被害が生じた場合の補償
国の予防接種健康被害救済制度の対象外となりますが、輸入代行業者が設けている副作用被害補償制度が適用されます(詳細は接種前にご説明します)。
6. 接種スケジュールは0・7・21日または0・7・28日
| 1回目 | 0日目 初回接種。この日が起点になります |
| 2回目 | 7日目 1週間後。この時点で2回接種が完了します |
| 3回目 | 21日目 または 28日目 これで曝露前免疫の基礎接種が完了します |
7. 出発まであと何日? 残り日数別の考え方
| 出発までの期間 | 狂犬病ワクチンの進め方 | 他ワクチンとの兼ね合い |
|---|---|---|
| 2〜3か月以上 | 最も理想的です。0・7・28日で余裕をもって3回完了できます | A型肝炎・B型肝炎・破傷風・日本脳炎・腸チフスなども無理なく組み込めます |
| 3〜4週間 | 0・7・21日のスケジュールで3回完了が可能です | 来院日ごとに他の不活化ワクチンを同時接種して効率化します |
| 2週間前後 | 出発前に0日・7日の2回を済ませ、3回目を帰国後または現地で受ける方法を検討します | 2回接種済みであれば、万一の際に免疫グロブリンの適応外となる点が大きな利点です |
| 1週間未満 | 3回完了は困難ですが、他に優先すべきワクチンや、現地での行動上の注意点をご説明します | 長期滞在なら、現地または一時帰国時の接種計画を立てます |
⚠️ ワクチンのお取り寄せに日数がかかります
狂犬病ワクチンは常時大量に在庫している薬剤ではなく、お取り寄せに数日を要します。「思い立った日にすぐ接種」は難しいとお考えいただき、渡航が決まった時点でお早めにご相談ください。
8. 特に接種をおすすめしたい方
✔ 海外赴任・留学で現地に生活拠点を持つ方
✔ 小さなお子さまを帯同される方(咬傷被害の約4割が15歳未満です)
✔ 都市部を離れ、地方・農村部・僻地を訪れる予定のある方
✔ バックパッカー旅行、トレッキング、洞窟探検、野外活動をされる方
✔ 動物と接する機会のある職業の方(獣医療、研究、動物保護、青年海外協力隊など)
✔ 医療機関へのアクセスが限られる地域に行かれる方
9. 費用・副反応・他のワクチンとの同時接種
費用について
同じように、外傷後の破傷風トキソイドの接種も保険診療の対象です。
出典:こどもとおとなのワクチンサイト「狂犬病ワクチン」/東邦大学 羽田空港第3ターミナルクリニック
保険が使えるのは、国内承認のラビピュール筋注用のみです
ここが重要な点です。曝露後接種で健康保険が適用されるのは国内で薬事承認を受けているラビピュール筋注用に限られます。国内未承認のChiroRabは、曝露後接種であっても保険適用にはならず、全額自費となります。
曝露後接種は4〜6回の接種が必要になりますので、この差は総額に大きく響きます。渡航前に費用の安いChiroRabを選ばれる場合も、この点はあらかじめ知っておいていただきたいところです(なお、渡航前にどちらを接種していても、帰国後の曝露後接種でラビピュールを用いることは可能です)。
| 項目 | 費用(税込) |
|---|---|
| 狂犬病ワクチン ラビピュール筋注用(国内承認)1回あたり | 18,700円 |
| 狂犬病ワクチン ChiroRab(輸入・国内未承認)1回あたり | 16,280円 |
| 渡航前相談・診察料 | 初診 3,300円/再診 1,500円 |
| 英文接種証明書 | 8,000円 |
※ 記載の費用はいずれも税込で、2026年8月時点のものです。ワクチンの仕入価格の変動等により改定する場合がありますので、最新の費用はお問い合わせください。
総額については診察時にご案内します
曝露前免疫は3回接種が必要です。実際の総額は、接種回数・診察料・他のワクチンとの同時接種の有無によって変わります。同じ日に複数のワクチンを接種される場合、診察料は重複しません。お一人ずつの費用は、渡航前相談の際に接種計画とあわせてご案内いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
副反応について
⚠️ 接種後30分は安静にしてください
注射による心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神があらわれることがあります。転倒を避けるため、接種後30分程度は院内で座ってお過ごしいただきます。また、ゼラチン含有製剤・ゼラチン含有食品に過敏症の既往がある方は、必ず事前にお申し出ください。
出典:ラビピュール筋注用 添付文書(PMDA)
他のワクチンとの同時接種
10. もし渡航先で咬まれてしまったら
| STEP 1 | すぐに石けんと流水で15分ほど洗う 大量の水と石けんで、傷口をよく洗い流します。これが最初かつ最重要の処置です |
| STEP 2 | できるだけ早く現地の医療機関を受診する 「様子を見る」という選択肢はありません。渡航前接種の有無を必ず伝えてください |
| STEP 3 | 曝露後接種を受ける 渡航前に基礎接種を完了していれば、原則0日・3日の2回で済みます。未接種の場合は4〜6回の接種が必要です |
| STEP 4 | 接種記録を必ず持ち帰る ワクチン名・接種日・医療機関名・ロット番号・接種経路(筋注/皮内)を記録してもらいましょう。帰国後の継続接種に不可欠です |
| STEP 5 | 帰国後、速やかに当院にご相談ください 途中までのプログラムを国内で完了させる必要があります。発病阻止を目的とした帰国後の接種は健康保険の適用となります(国内承認のラビピュール筋注用を使用した場合) |
渡航前に接種済みでも、咬まれたら必ず受診してください
曝露前接種は「咬まれても受診しなくてよい」という意味ではありません。接種済みの方も、必ず追加接種の判断を受けてください。ただし、曝露前接種の完了から3か月以内であれば追加接種が不要とされるなど、状況により判断が変わりますので、自己判断は避け医療機関にご相談ください。
11. よくあるご質問
12. 理事長コメント
白金高輪では、日本旅行医学会認定医と日本渡航医学会認定医の渡航医学認定医2名が在籍し、狂犬病だけでなくA型肝炎・B型肝炎・破傷風・日本脳炎・腸チフスなども含めて、出発日から逆算した接種計画をその場で組み立てています。土曜・日曜・祝日も診療しておりますので、平日にお時間の取れない方もご利用ください。渡航が決まったら、まずは一度ご相談いただければと思います。」
13. まとめ
✅ 世界では年間約59,000人(およそ10分に1人)が亡くなり、その大半がアジア・アフリカです
✅ 感染源はイヌだけでなく、ネコ・コウモリ・キツネ・アライグマなども含まれます
✅ 渡航前接種の最大の価値は、咬まれた後に免疫グロブリンを探し回らずに済むことです
✅ ラビピュール筋注用は国内で承認された唯一の狂犬病ワクチンで、0・7・21日または0・7・28日の3回接種です
✅ 3回目を21日目にすれば3週間で完了できます。時間が足りない場合も2回だけ済ませる選択肢があります
✅ 不活化ワクチンのため、他の渡航ワクチンとの同時接種で通院回数を減らせます
✅ 渡航前の接種は自費ですが、咬まれた後の曝露後接種は健康保険の適用となります(国内承認のラビピュール筋注用の場合)
✅ 咬まれたら「石けんと流水で15分洗う→すぐ受診→記録を持ち帰る」が鉄則です
海外渡航前のワクチン接種・健康相談を一括して承っております。
✅ 黄熱・髄膜炎菌・狂犬病など輸入ワクチンも対応
✅ 英文接種証明書・診断書の発行
✅ 同日複数接種・出発までの最適スケジュール提案
参考文献・出典
2. 厚生労働省「フィリピンから来日後に狂犬病を発症した患者(輸入感染症例)について」(2020年5月)
3. 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センター「狂犬病の予防について」
4. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「日本国内で2020年に発生した狂犬病患者の報告」(IASR)
5. ラビピュール筋注用 添付文書(PMDA 医薬品医療機器総合機構)
6. 株式会社オーファンパシフィック「ラビピュール筋注用 製造販売承認 承継のお知らせ」(2024年9月24日)
7. World Health Organization. WHO Expert Consultation on Rabies, Third report. WHO Technical Report Series 1012, 2018.
8. Wunner WH, Briggs DJ. Rabies in the 21st century. PLoS Negl Trop Dis. 2010;4(3):e591.
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